窓口で保険証を出せず、いったん全額を払った場合、あとで戻ってくると聞いたことがあるでしょうか。

全国健康保険協会によると、それが療養費です。ただし支払った医療費が全額払い戻されるわけではありません。保険診療を受けた場合を基準に計算した額から、一部負担金相当額を差し引いた額が戻ります。

この記事では療養費の対象になる6つの場面と払い戻しの計算の考え方、令和8年1月13日に始まった電子申請を確認したうえで、同じく申請しないと戻らない高額療養費の手続きを見ていきます。

1. 【療養費】立て替えた医療費は、全額が戻るわけではない

健康保険は窓口で保険証を出す使い方が基本です。その形が取れなかったときに何が起きるのかを確かめます。

1.1 健康保険は現物給付が原則

出発点は原則の形です。

全国健康保険協会によると、健康保険では、保険医療機関の窓口にマイナ保険証等を提示して診療を受ける現物給付が原則です。窓口で払うのは自己負担分だけで、残りは保険から医療機関へ直接支払われます。

やむを得ない事情で現物給付を受けることができないときや、治療のために装具が必要になったときなどは、かかった医療費の全額を一時立替払いし、あとで請求して療養費として払い戻しを受けることができます。被扶養者の場合は家族療養費になります。

保険診療を受けた場合の額が上限なので、支払った額がそのまま戻るわけではない1/2

健康保険の療養費として払い戻しを受けられる6つの場面と、保険診療基準から一部負担金相当額を差し引く計算の考え方、海外療養費の2年の時効を並べた図

出所:全国健康保険協会「療養費」などをもとにLIMO編集部作成

1.2 払い戻されるのは支払った額そのものではない

ここが誤解されやすいところです。

協会けんぽは、療養費は支払った医療費が全額払い戻されるわけではないと明記しています。被保険者や被扶養者が保険医療機関で保険診療を受けた場合を基準に計算した額から、一部負担金相当額を差し引いた額が払い戻されます。

実際に支払った額が保険診療基準の額より少ないときは、実際に支払った額が基準になります。加えて、健康保険で認められない費用などは除外されます。

1.3 対象になる場面は6つ挙げられている

どんなときに使えるのかが列挙されています。

やむを得ず保険医療機関でない病院などで診療を受けたとき、資格取得届の手続き中で保険証を提示できず自費で診療を受けたとき、コルセットなどの治療用装具を医師の指示で作成し装着したときが挙げられています。

続いて、生血液の輸血を受けたとき、臍帯血を搬送したとき、海外の医療機関で診療を受けたときです。転職直後で保険証がまだ手元にない期間も、この仕組みの対象になります。

1.4 海外分は2つの要件を満たす場合だけ

6つ目には別の条件がつきます。

海外療養費制度は、海外旅行中や海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる制度です。

給付の対象になるのは2つの要件を満たす場合だけです。1つ目は日本国内で保険診療として認められている医療行為であること、2つ目は療養を目的で海外へ渡航し診療を受けた場合でないことです。

1.5 日本で保険適用でない医療行為は対象外

1つ目の要件の中身です。

海外療養費の支給対象となるのは、日本国内で保険診療として認められている医療行為に限られます。美容整形やインプラントなど、日本国内で保険適用となっていない医療行為や薬が使用された場合は給付の対象になりません。

2つ目の要件では、療養を目的で海外へ渡航し診療を受けた場合は支給対象となりません。日本で実施できない診療を行った場合でも、保険給付の対象とはならないとされています。

1.6 海外分の支給額も日本国内の治療費が基準

金額の出し方は療養費と同じ考え方です。

日本国内の医療機関等で同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額から、自己負担相当額を差し引いた額を支給します。実際に海外で支払った額の方が低いときは、その額が基準になります。

協会けんぽは、日本と海外での医療体制や治療方法等が異なるため、海外で支払った総額から自己負担相当額を差し引いた額よりも、支給金額が大幅に少なくなることがあるとしています。

受け取り方にも条件があります。協会けんぽは、海外療養費の支給について海外への直接送金はできないとしています。事業主または日本在住の家族に受け取りを委任し、療養費支給申請書の受取代理人の欄に記入することになります。

1.7 為替は支給決定日の売レートで換算する

外貨で払った場合の扱いも決まっています。

外貨で支払われた医療費については、支給決定日の外国為替換算率である売レートを用いて円に換算して支給金額を算出します。

受診した日でも申請した日でもなく、支給が決まった日のレートです。審査には通常、数か月かかるとされているので、その間の為替の動きが金額に効いてきます。

1.8 書類の単位と期限が細かく決まっている

添付する書類にも要件があります。

海外療養費では、申請書のほか、医科なら様式Aの診療内容明細書、歯科なら様式Cの歯科診療内容明細書、様式Bの領収明細書が必要です。領収書原本とその日本語訳、様式の日本語訳、受診者の海外渡航期間が確認できる書類、同意書も添付します。

証明は1か月ごと、受診者ごと、医療機関ごと、入院・外来ごとに1枚ずつ必要です。被保険者や受診者等による記入はできず、担当医に記入・署名を依頼することになります。そして海外で治療費の支払いをした翌日から2年を経過すると、時効により申請できなくなります。

提出先も海外分だけ別です。協会けんぽは、海外療養費の提出先を神奈川支部の海外療養費グループとしています。各支部に提出されても神奈川支部に回送されるので、手元の書類をどこへ送るかで迷う必要はありません。

1.9 令和8年1月13日から療養費も電子申請できる

申請の経路が増えました。

協会けんぽは令和8年1月13日から、パソコンやスマートフォンからインターネットで申請できる電子申請サービスを開始しました。対象申請の一覧には、療養費支給申請書の立替払等と治療用装具、そして海外療養費支給申請書がいずれも入っています。

利用にはマイナンバーカードと、スマートフォンにインストールするマイナアプリによる利用者認証が必要です。郵送の手間をかけずに手続きを終えられる一方、使えるのは平日の8時から21時までで、土日祝日と年末年始の12月29日から1月3日は利用できません。

1.10 申請しないと戻らない給付は、ほかにもある

療養費はいずれも、こちらから請求して初めて戻ります。

同じように、支払ったあとに申請して戻る給付がもう1つあります。1か月の窓口負担が高額になったときの高額療養費です。

協会けんぽに加入している場合、この申請はどう進み、どれくらいで振り込まれるのでしょうか。電子申請を選んだときの注意点とあわせて確かめておきます。

なお、協会けんぽでの高額療養費の申請方法と所要期間については、LIMOの記事「高額療養費、協会けんぽでの申請方法は2つ。令和8年1月開始の電子申請は平日8〜21時のみ、17時15分以降は翌営業日扱いになる点に注意」から一部を引用・参照しています。

高額療養費、協会けんぽでの申請方法は2つ。令和8年1月開始の電子申請は平日8〜21時のみ、17時15分以降は翌営業日扱いになる点に注意
高額療養費、協会けんぽでの申請方法は2つ。令和8年1月開始の電子申請は平日8〜21時のみ、17時15分以降は翌営業日扱いになる点に注意