長引く物価高や、国による「退職所得控除」の見直し議論などを背景に、老後資金の柱となる退職金への関心が高まっています。
長年勤め上げた会社を退職するふつうの50歳代・60歳代にとって、「退職金はいつもらえるのか」「どのような受け取り方を選ぶべきか」は、その後の生活設計を左右する重要なテーマです。
しかし、厚生労働省のデータや各共済制度の規定を見ると、退職金が振り込まれるタイミングは勤務先の規定や加入している制度(中退共や企業型確定拠出年金など)によって異なります。
また、「一時金」として一括で受け取るか、「年金」として分割で受け取るかによって、適用される税金のルールが変わり、最終的な手取り額に数十万円単位の差が生じるケースも珍しくありません。
本記事では、公的機関の資料に基づき、退職金が支給される時期の目安や、受け取り方によるメリット・デメリットを整理。シニア世代が陥りやすい「手続き漏れによる想定外の課税」を防ぐためのポイントを解説します。
1. この記事の3つのポイント
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支給時期の違い: 一般企業は退職後1〜2ヶ月以内が主流だが、中退共や企業型DCは個人での手続き完了後からさらに日数を要する。 -
受け取り方の選択: 「一時金」は税制優遇が手厚く、「年金」は運用を続けることで総受取額が増える傾向がある。 -
手続き上の落とし穴: 「退職所得の受給に関する申告書」を提出し忘れると、一律で約20%の税金が源泉徴収されてしまう点に注意が必要。
退職金に関するトラブルとしてありえるのが、「退職したのに一向に振り込まれない」というトラブルです。
自社の規程で支給される「退職一時金」であれば会社が手続きを行いますが、「中小企業退職金共済(中退共)」や「企業型DC」の場合は、退職者本人が各機関へ請求手続きを行わなければ、いつまで経っても支給されません。
また、税金の手続き(申告書の提出)を漏らすと、一時的にせよ多額の税金が引かれて振り込まれてしまいます。退職前には「自社の退職金がどの制度で運用されているか」を客観的に把握し、必要な手続きをリストアップしておくことが重要です。
※この記事は、編集部が国税庁などの公的資料を基に執筆・検証しています。
2. 【早見表】退職金は「いつ」自分の口座に振り込まれる?
退職金がいつ指定の口座に振り込まれるかは、法律で「退職後〇日以内」と一律に定められているわけではありません。勤務先の「就業規則」や「退職金規程」、あるいは加入している外部の制度によって支給のタイミングは大きく異なります。ここでは主な制度ごとの目安を整理しました。
2.1 一般企業と公務員の支給時期(目安)
企業が独自に資金を準備する退職一時金や、公務員の退職手当については、以下の時期に振り込まれるのが一般的です。
- 一般企業(退職一時金): 退職後1〜2ヶ月以内(※企業によっては半年後などに設定されているケースもある)
- 公務員: 退職日から1ヶ月以内(※国家公務員退職手当法等の規定に基づく・原則)
一般企業にお勤めの場合、まずは勤務先の就業規則や退職金規程に「退職の日から〇ヶ月以内に支給する」といった記載がないかを確認することが第一歩となります。
3. 本人が請求手続きを行う「中退共」「企業型DC」の支給時期
外部の機関を利用した退職金制度の場合、退職後に本人が請求手続きを行う必要があり、着金までに日数を要する傾向があります。
3.1 中小企業退職金共済(中退共)
会社から受け取る「退職金共済手帳(請求書)」に本人が記入し、住民票などを添えて直接機構へ郵送します。書類に不備がないと確認されてから約4週間後の振り込みが一般的です。
3.2 企業型確定拠出年金(企業型DC)
運営管理機関への請求手続き後、投資信託などの商品を売却(現金化)する工程を挟むため、手続き完了から1〜2ヶ月程度を要することが多くなります。
4. 退職金が予定より遅い・振り込まれない場合の対処法は?
退職から数ヶ月経っても退職金が振り込まれない場合、何らかの手続きが漏れている、あるいは規程を見落としている可能性があります。想定していた時期を過ぎた場合は、以下のステップで状況を確認することが推奨されます。
4.1 手順1:「就業規則(退職金規程)」の支払い期日を再確認する
まずは勤務先の規定で、「退職月の翌々月の給与支給日」など、期日が想定より遅く設定されていないかを確認します。規程が手元にない場合は、前の勤務先の総務・人事担当窓口へ問い合わせを行います。
4.2 手順2:中退共などの「請求手続き状況」を確認する
中退共や企業年金の場合、ご自身が提出した書類に不備(印鑑相違や添付書類の不足)があり、手続きが止まっているケースが考えられます。各運営機関からの通知書類が届いていないか確認することが大切です。
5. 退職金の受け取り方は「一時金」と「年金」のどちらを選ぶべき?
確定給付企業年金や企業型DCなど、受け取り方を選択できる制度の場合、「一時金(一括)」と「年金(分割)」のどちらを選ぶかによって適用される税金のルールが変わり、手取り額に違いが生じます。それぞれの特徴を整理します。
5.1 税制優遇が手厚い「一時金(一括受取)」の特徴
退職金を一括で受け取ると「退職所得」として扱われます。退職所得は、勤続年数に応じた大きな非課税枠(退職所得控除)が適用され、さらに控除額を上回った金額も「半分(1/2)」にしてから税率がかけられるため、税負担が軽く済むのが特徴です。まとまった資金を住宅ローンの完済などに充てたい場合に向いています。
5.2 運用継続で総受取額が増えやすい「年金(分割受取)」の特徴
分割で受け取る間、残りの資金は制度内で運用(未受取残高の運用継続)され続けるため、運用益が乗ることで最終的な「総受取額」が一時金よりも多くなる傾向があります。
一方で、受け取る年金は「雑所得(公的年金等)」として扱われるため、毎年の所得税や住民税、国民健康保険料などの計算対象となり、社会保険料の負担が増加する可能性がある点に注意が必要です。
6. 退職金を受け取る前にシニア世代が知っておくべき税金の手続きとは?
退職金を一時金として受け取る際、実務上注意すべきなのが税金に関する手続きです。長年働いて得た大切な資金を想定外の課税で目減りさせないためにも、事前に知っておくべき落とし穴を解説します。
6.1 「申告書」の提出漏れによる約20%の源泉徴収リスク
退職金を受け取るまでに「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先(または支払機関)へ提出しないと、前述の「退職所得控除」という手厚い税制優遇が適用されません。
その結果、退職金の支給額に対して一律「20.42%」(所得税20%+復興特別所得税0.42%)が源泉徴収されてしまいます。
1000万円の退職金であれば、約204万円が引かれて振り込まれる計算になります。
6.2 提出を忘れた場合は「確定申告」で還付を受ける
もし申告書を出し忘れて20.42%の税金を引かれてしまった場合でも、後日ご自身で確定申告を行えば、本来の税額との差額(払いすぎた税金)は還付されます。
ただし、一時的に手元資金が大きく減ってしまうことや、確定申告の手間が発生することはデメリットとなるため、退職時の書類のやり取りでは、申告書が確実に提出されているかをチェックすることが大切です。
7. まとめ
退職金の支給時期や受け取り方に関する客観的なポイントは以下の通りです。
- 一般企業の退職金は退職後1〜2ヶ月以内が目安だが、確実な期日は「就業規則」で確認する。
- 中退共や企業型DCは退職者本人の請求手続きが必要となり、着金までに約4週間〜2ヶ月程度を要する。
- 「一時金(一括)」は退職所得控除による税負担の軽減が魅力であり、「年金(分割)」は運用継続による総受取額の増加が見込める。
- 一時金で受け取る際は「退職所得の受給に関する申告書」を必ず提出し、20.42%の源泉徴収を防ぐ。
長年働いて得た退職金は、老後の生活を支える大切な資産です。いつ、どの口座に、いくら振り込まれるのかを曖昧にしたまま退職日を迎えてしまうと、後の生活設計やローンの返済計画などに支障をきたす恐れがあります。
まずはご自身の勤務先がどのような退職金制度を導入しているのかを客観的に把握し、退職前後の慌ただしい時期に手続きの漏れが生じないよう、余裕を持って準備を進めてみてはどうでしょうか。
8. 執筆者コメント
退職金の受け取りに関する制度や税制は非常に複雑であり、一人ひとりの勤続年数やライフプランによって「最適な受け取り方」は異なります。
特に近年は税制見直しの議論も活発に行われているため、古い情報に基づいた思い込みは危険です。公的機関の情報や勤務先の規定をしっかりと確認し、ご自身の状況に照らし合わせて慎重な選択を行うことが求められます。
9. よくある質問
9.1 Q1. 自己都合退職の場合、退職金はいつもらえますか?
A. 自己都合退職であっても、退職金が振り込まれる時期の目安(退職後1〜2ヶ月以内など)は会社都合退職の場合と変わらないのが一般的です。ただし、自己都合退職の場合は、会社の規程により支給額そのものが減額されるケースが多く見られます。
9.2 Q2. 退職金を受け取るために確定申告は必要ですか?
A. 原則として、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先等に提出していれば、税金の計算と源泉徴収は支払者側で行われるため、ご自身での確定申告は不要です。ただし、年の途中で退職して再就職しなかった場合などは、確定申告を行うことで税金が還付される可能性があります。
9.3 Q3. 「一時金」と「年金」を組み合わせて受け取ることはできますか?
A. 確定給付企業年金や企業型DCなど、制度の規程によっては「退職金の半分を一時金として受け取り、残りの半分を年金として受け取る」といった併用が可能なケースがあります。勤務先の制度が併用に対応しているか、事前に規程を確認することが大切です。
9.4 Q4. 退職金にも社会保険料(健康保険・厚生年金)はかかりますか?
A. 退職金を「一時金」として一括で受け取る場合、その金額に対して社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)はかかりません。しかし、「年金」として分割で受け取る場合は雑所得となるため、翌年の国民健康保険料等の計算対象に含まれる場合があります。
9.5 Q5. 転職する場合、退職金はどうなりますか?
A. 勤務先の独自の退職一時金は、退職時に精算されて支払われます。一方、企業型確定拠出年金(DC)の場合は、転職先の企業型DCや、個人型確定拠出年金(iDeCo)へ資産を「移換」して運用を継続する手続きが必要です。移換手続きには期限(退職後6ヶ月以内など)があるため注意が必要です。
参考資料
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況 退職給付(一時金・年金)の支給実態」
- 国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 中小企業退職金共済事業本部「従業員が退職した際の手続きの流れ」
- 人事院「国家公務員の退職手当法の概要」
齊藤 慧

