5. 「勤続20年の壁」と退職金にかかる税金(退職所得控除)

退職金について検討する際、金額そのものだけでなく「税金の仕組み」も理解しておく必要があります。退職金は長年の労働に対する対価であるため、通常の給与よりも税金が安くなる優遇措置(退職所得控除)が設けられています。

ここで重要になるのが、税金計算における「勤続20年の壁」です。退職所得控除の非課税枠は、勤続年数が20年を超えるか超えないかで、1年あたりの控除額が大きく変わります。

5.1 【退職所得控除額の計算式】

  • 勤続年数が20年以下の場合:40万円 × 勤続年数 (※最低80万円)
  • 勤続年数が20年超の場合:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

※勤続年数5年以下の場合、計算式が異なるケースがあります

たとえば、勤続10年で退職した場合の非課税枠は「400万円」です。仮に退職金が200万円であれば、全額が非課税枠に収まるため、退職金に対する所得税・住民税はかかりません(※事前に「退職所得の受給に関する申告書」の提出が必要です)。

一方、勤続年数が20年を超えると、1年増えるごとの非課税枠が「40万円から70万円」へと拡大し、税負担がより軽くなる仕組みになっています。

なお、近年の労働市場の流動化を背景に、政府の税制調査会等において「勤続20年の壁を見直し、一律の控除額にする」といった税制改正の議論が進められているため、今後の動向には留意が必要です。

6. 退職・転職前に確認すべき実務ステップと家計への備え

ここまでの事実を踏まえ、転職や退職を検討する際の実務ステップを整理します。

6.1 就業規則(退職金規程)を確認する

総務部や人事部の社内ポータル等で、退職金の支給条件(最低勤続年数)と、自己都合退職時の減額規定(乗率や係数)を正確に把握します。

6.2 確定拠出年金(企業型DC)の有無を確認する

退職金が「一時金」だけでなく、「企業型DC」として運用されている場合があります。転職する場合、企業型DCの資産は非課税のまま「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や転職先の制度へ移管(持ち運び)する手続きが必要です。

6.3 退職金に依存しない自律的な資産形成を行う

今後は会社に依存せず、個人が自律的に金融資産を管理する時代へと移行しています。自己都合退職で退職金が目減りするリスクを補うためにも、NISAなどを活用して計画的な資産形成を行うことが家計防衛の基本となってきています。

7. まとめ

勤続年数別の退職金相場と、実務上の注意点のまとめは以下の通りです。

  • 支給の目安: 退職金は法律上の義務ではなく、自己都合退職の場合は「勤続3年以上」などを支給条件としている企業もある。
  • 年数別の相場: 勤続3年〜5年では数十万円程度にとどまることが多く、年数が長くなるほど支給額の上がり幅が大きくなる傾向がある。
  • 自己都合の落とし穴: 転職などの自己都合退職では、会社都合や定年退職に比べて支給額が50%〜70%程度に減額される規定が一般的である。
  • 勤続20年の壁: 退職金にかかる税金(退職所得控除)は、勤続20年を超えると非課税枠が拡大し、税負担が軽くなる仕組みになっている。
  • 事前確認の徹底: 退職後の資金計画を狂わせないためにも、事前に就業規則(退職金規程)と自己都合係数を確認することが重要である。

退職金の仕組みを客観的に理解することは、転職のタイミングや老後の資金計画を見極めるための重要な指標となります。

8. 監修者コメント:退職金ルールの変化を見据え、会社に依存しない資金計画を

齊藤 慧

近年、企業年金制度の廃止や確定拠出年金(DC)への移行など、退職金制度は大きな転換期を迎えています。また、国全体でも「勤続20年の壁」の税制見直しが議論されるなど、「同じ会社に長く勤めること」への優遇措置は徐々にフラットな形へと変わりつつあります。

「10年勤めたからこれくらいもらえるだろう」という推測ではなく、給与明細や退職金規程というデータに基づき、ご自身の現在地を正確に把握することが、不確実な時代における確実な家計防衛策となります。

退職金の制度は専門用語が多く複雑に見えますが、押さえるべきポイントは「最低勤続年数」と「自己都合の支給率」の2点です。まずは社内のポータルサイトや入社時に配られた就業規則のPDFを開き、退職金に関する項目を一度読み直してみることをおすすめします。

9. よくある質問(FAQ 5問)

9.1 Q1. 会社都合退職と自己都合退職で、退職金に違いが出るのはなぜですか?

A. 多くの企業が退職金に「功労報奨(会社への貢献への労い)」と「長期勤続の奨励」の2つの意味を持たせているためです。自らの意志で辞める自己都合退職に対しては、会社が定めた期間を満了していないことに対する減額措置として、支給率(係数)を引き下げる規定が設けられているのが一般的です。

9.2 Q2. パートやアルバイトでも勤続年数が長ければ退職金はもらえますか?

A. 原則として、パートやアルバイトに退職金を支給するかどうかも企業の就業規則によります。近年は「同一労働同一賃金」の観点から、正社員と同等の業務・責任を負っている場合には支給を求める動きもありますが、依然として正社員のみを対象とする規程を設けている企業が多いのが実態です。

9.3 Q3. 勤続年数の計算に「休職期間」は含まれますか?

A. 育児休業や介護休業、私傷病による休職期間を勤続年数に含めるかどうかも、企業の退職金規程によって異なります。期間の一部のみを算入する、あるいは完全に除外して計算するなど、細かなルールが定められているため、事前の確認が必要です。

9.4 Q4. 退職金を受け取る際、自分で確定申告をする必要はありますか?

A. 退職前に勤務先へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、会社側で税金(所得税・住民税)が正しく計算され、源泉徴収された後の金額が振り込まれるため、原則としてご自身での確定申告は不要です。提出を忘れると、一律で20.42%の所得税が源泉徴収されてしまうため注意が必要です。

9.5 Q5. もらった退職金が相場より著しく少なかった場合、どうすればよいですか?

A. まずは勤務先の「退職金規程」と照らし合わせ、計算式や減額係数が正しく適用されているかを確認します。規程通りに計算されている場合は、それがその企業のルールとなります。もし規程に反して不当に減額されている疑いがある場合は、労働基準監督署や労働問題に詳しい専門家へ相談することを検討してください。

参考資料

齊藤 慧