厚生労働省が7月に公表した「一般職業紹介状況(令和8年5月分)」によると、有効求人倍率(季節調整値)は1.17倍、さらに新規求人倍率は2.11倍と高い水準で推移しています。

また、総務省の「労働力調査」でも、就業者数は6890万人と前年同月に比べ52万人の増加(4か月連続の増加)となるなど、人手不足を背景とした堅調な雇用環境が浮き彫りになっています。

個人の自律的なキャリア形成や労働市場の流動化(転職の円滑化)に向けた議論が活発になっています。

こうした社会的な背景から、キャリアアップを目的とした転職や早期退職を検討する方が増える一方、「今の勤続年数で辞めた場合、退職金はいくらもらえるのか」という疑問を持つ方も少なくありません。

退職金は「長く勤めるほど多くもらえる」というイメージがありますが、実際には勤続3年や5年で辞めた場合、「想定より少なすぎる」「そもそも支給されなかった」というケースもあるでしょう。

これは、企業ごとに定められた「自己都合退職の減額ルール」や、支給要件となる最低勤続年数の違いなどが影響していると考えられます。

本記事では、厚生労働省や経団連の公式調査データに基づき、勤続年数別(3年・5年・10年・20年)の退職金相場を提示するとともに、転職を決断する前に必ず確認しておくべき「自己都合退職の落とし穴」と「税金計算の仕組み」について客観的に解説します。

1. この記事の3つのポイント

  •  何年目からもらえるか: 退職金の支給要件は法律で義務付けられておらず、企業によって「勤続3年以上」などの条件が設定されている。
  •  実務上の落とし穴: 転職などによる「自己都合退職」の場合、会社都合や定年退職と比べて支給額が大幅に減額される規定(係数)が存在する。
  •  勤続20年の壁: 退職金にかかる税金を計算する際、「勤続20年」を境に非課税となる控除枠が大きく広がる税制上の仕組みがある。
齊藤 慧

元・社会保障専門紙の記者として労働行政の実態を取材してきた視点からお伝えすると、退職金に関する最も多い誤解は「正社員であれば必ず、基本給×年数分がもらえるはずだ」という思い込みです。

退職金(退職手当)の支給は労働基準法で義務付けられたものではなく、あくまで各企業の「就業規則」に基づく独自の制度です。

特に、自らの意志で退職する「自己都合退職」の場合、企業側には慰労金としての意味合いを割り引く規定(減額係数)が設けられていることが一般的です。転職活動を本格化させる前に、まずはご自身の勤務先の退職金規程を確認することが、資金計画のズレを防ぐ基本となります。

※本記事は、編集部および監修者が厚生労働省や国税庁等の公式資料を直接確認の上、執筆・検証しています。特定の行動や転職を推奨するものではありません。

2. 退職金は何年目からもらえる?「3年未満」が少ない理由

「入社して間もないけれど、退職金は出るのだろうか」と疑問に思う方は多いでしょう。結論から言えば、退職金が支給される条件は各企業が独自に定める「就業規則(退職金規程)」によって決まります。

2.1 【退職金制度の有無と支給条件の実態】

厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は約7割から8割程度で推移しており、すべての企業に退職金があるわけではありません。

また、制度がある企業であっても、自己都合退職の場合に退職金を支給するための「最低勤続年数」を設定しているケースがほとんどです。たとえば、「勤続3年以上」を支給の条件としている会社もありますが、この場合は勤続1年や2年で退職した場合、退職金は「ゼロ」となります。

勤続3年を超えて支給対象となった場合でも、初期の段階では企業側からの掛金拠出額が少なく、また後述する「自己都合退職の減額」が適用されるときもあるため、「想像以上に少ない」と感じる人もいるでしょう。

3. 【勤続年数別】3年・5年・10年・20年の退職金相場

では、実際にどれくらいの金額が支給されるのでしょうか。厚生労働省の調査データや東京都産業労働局の中小企業向け調査などを参考に、大卒・自己都合退職の場合の「目安となる相場」を勤続年数別にまとめました(※金額は企業規模や業種、役職によって大きく変動します)。

3.1 【勤続年数別の退職金目安(大卒・自己都合退職の場合)】

  • 勤続3年: 中小企業 約20万〜30万円 / 大企業 約30万〜40万円
  • 勤続5年: 中小企業 約40万〜50万円 / 大企業 約60万〜80万円
  • 勤続10年: 中小企業 約100万〜150万円 / 大企業 約200万〜300万円
  • 勤続20年: 中小企業 約350万〜500万円 / 大企業 約700万〜900万円

表から読み取れる通り、勤続年数が長くなるにつれて金額の上がり幅が大きくなる「カーブを描くような支給設計」を採用している企業が多く見られます。

これは、企業側が「長く勤めてくれた社員を優遇し、定着率を高めたい」という意図を持っているためです。

4. 【要注意】よくある勘違い・実務上の落とし穴(自己都合退職の減額係数)

退職金の額面を計算する際、多くの方が陥りがちな実務上の勘違いが存在します。それは、「基本給 × 勤続年数 = 退職金」という単純な計算式で考えてしまうことです。

4.1 【落とし穴:自己都合退職に対する「減額係数」の存在】

退職金には、退職の理由によって支給率を変える「退職事由別係数」が設定されていることが一般的です。

倒産やリストラといった「会社都合退職」や「定年退職」の場合は係数が1.0(満額)に近いですが、キャリアアップのための転職など「自己都合退職」の場合は、ペナルティや早期離職への減額措置として、大幅に係数が引き下げられます。

自己都合係数の目安は、勤続年数が短いほど係数が低く設定される傾向があり、本来の金額の「50%〜70%程度」にまで減額されるケースもあるでしょう。

たとえば、本来のベース金額が100万円であっても、自己都合係数が0.6であれば、実際の支給額は「60万円」となります。

退職金のシミュレーションを行う際は、ご自身の会社の退職金規程(ポータルサイトや社内規則)で、「自己都合の場合の支給率(係数)」がどのように設定されているかを必ず確認することが重要です。