物価高が続くいま、「年金だけで本当に老後を過ごせるのか」という不安は、世代を問わず広がっています。

実際、総務省の調査では、65歳以上の無職夫婦世帯は毎月平均で約4万2000円の赤字が生じており、貯蓄を取り崩しながら生活しているのが実態です。さらに70代・二人以上世帯の貯蓄額を見ると、3000万円以上を持つ世帯が25.2%いる一方で、貯蓄がまったくない世帯も10.9%存在し、世帯間の差は決して小さくありません。

この記事では、公的データから「なぜ赤字になるのか」「なぜ格差が生まれるのか」を紐解き、これから老後を迎える50〜60代が今のうちに取り組める備えについて、FPの視点から解説します。

1. この記事の3つのポイント

  •  65歳以上無職夫婦世帯は毎月平均▲4万2434円の赤字
  •  70代の貯蓄は平均2416万円だが中央値は1178万円、格差が大きい
  •  NISA・iDeCo活用や就労継続など、50代からの備えが鍵

2. 「毎月4万2000円の赤字」シニア世帯のリアルな家計収支

老後の暮らしをイメージするために、まずは現シニア世代の家計収支を確認しましょう。総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上・無職夫婦世帯の平均的な家計収支は次のとおりです。

  • 収入(平均月額):25万4395円(うち社会保障給付:22万8614円)
  • 支出(平均月額):29万6829円(うち消費支出:26万3979円、非消費支出:3万2850円)
  • ひと月の収支:▲4万2434円

年金を中心とした収入だけでは、生活費をまかないきれず、毎月4万円台の赤字が生じているのが「平均的な暮らし」の実態です。この赤字は貯蓄を取り崩すことで補填するほかなく、物価上昇や社会保険料の負担増が続けば、さらに膨らむ可能性もあります。では、そもそも年金収入はどの程度で、なぜこれだけの赤字が生まれてしまうのでしょうか。

3. なぜ赤字になる?年金収入を確認

厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、年金の平均受給額を確認します。

3.1 厚生年金:平均15万289円、ボリュームゾーンは10万円台前半

民間企業などに勤めていた人が受け取る厚生年金保険(第1号、国民年金部分を含む)の平均年金月額は15万289円です。男女別では男性16万9967円、女性11万1413円と、5万8000円以上の差があります。受給者が最も多い「ボリュームゾーン」は10万円以上11万円未満の層で、111万人超が該当します。

3.2 国民年金:平均5万9310円、満額に近い水準がボリュームゾーン

厚生年金の加入期間がなかった人が受け取る国民年金(老齢基礎年金)の平均月額は5万9310円で、男女差は4000円程度と厚生年金より小さくなっています。ボリュームゾーンは6万円以上7万円未満で、満額に近い水準を受け取っている人が多い一方、5万円未満の層も一定数おり、加入期間の長さによって受給額に幅があります。

厚生年金・国民年金いずれも「平均額」だけを受け取れるとは限らず、現役時代の働き方や加入期間によって個人差が大きい点が、そのまま老後の赤字の大きさに直結しているのです。

奥田 朝
厚生年金で男女に5万8000円以上の差が生じる背景には、勤続年数や賞与の有無だけでなく、結婚・出産などで一時的に扶養に入る期間があったかどうかも影響しています。特に女性は、将来受け取る年金額が「思っていたより少ない」と感じやすい傾向があります。50代のうちに「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で自分名義の見込み額を確認し、年金だけで赤字が出るとしたら、それをどう埋めるかを早めに考えておくことが、老後の安心につながります。

4. 赤字を埋める貯蓄はあるのか?70代で広がる「老後格差」

年金収入だけでは赤字になるとして、それを埋める貯蓄はどの程度あるのでしょうか。J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」から、70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)を確認します。

※金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。

70歳代の貯蓄額(二人以上世帯)4/5

70歳代の貯蓄額(二人以上世帯)

出所:J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」をもとにLIMO編集部作成

70歳代・二人以上世帯の平均貯蓄額は2416万円ですが、これは一部の富裕層が数字を大きく押し上げている「平均値の罠」があり、実態に近いとされる中央値は1178万円です。さらに分布を見ると、貯蓄がまったくない「金融資産非保有」の世帯が10.9%を占める一方、3000万円以上を保有する世帯は25.2%に上ります。同じ70代でも、資産状況には4人に1人が「余裕あり」、10人に1人が「貯蓄ゼロ」という、はっきりとした二極化が起きているのです。

ここで、先ほどの「毎月4万2434円の赤字」を、仮に20年間補填し続けた場合の試算をしてみましょう。

4万2434円 × 12カ月 × 20年 = 約1018万円

これは、70代の貯蓄額の中央値である1178万円の約9割に相当する金額です。つまり、「中央値」程度の貯蓄を持つ世帯であっても、赤字を貯蓄の取り崩しだけで補い続ければ、20年ほどでほぼ底をつく計算になります。老後の安心は、平均や中央値といった「みんなの数字」ではなく、自分自身の貯蓄額と年金額でどこまで持ちこたえられるかという「自分の数字」で考える必要があることが、この試算からも見えてきます。

奥田 朝
「平均2416万円」という数字を見て安心してしまうのは危険です。実際の実態に近いのは中央値の1178万円であり、しかもその金額は、月々の赤字を20年補填し続ければほぼなくなってしまう水準です。まず大切なのは、自分の家計が「毎月いくらの赤字(またはプラス)」で、それが何年続くと貯蓄がどうなるかを、実際の数字で一度書き出してみることです。漠然とした不安のままにせず、「自分の数字」を可視化することが、老後格差の「上位グループ」に入るための第一歩になります。