5. 【役場の窓口で聞いた声】時給が上がると相談が増える

元公務員として役場で国民健康保険と後期高齢者医療の担当をしていた立場から見ると、最低賃金の改定シーズンにはある不安を抱える人がいると考えています。

「パートの時給が上がって、扶養から外れそうで心配」「働く時間を減らしたほうがいいのだろうか」といった不安です。

夫の扶養に入りながらパートで働く人にとっては、同じ勤務時間でも年収130万円を超えることもあります。夫の勤める会社の社会保険の被扶養者から外れることになるかもしれないと、不安になる方もいるでしょう。

役場の職員として住民税は担当外でしたが、国民健康保険の資格や保険料の観点から「扶養から外れた場合はこう変わる」という現状を確認できるよう、庁内での連携や案内の準備を進めることが多かったように思います。

6. 気をつけたい2つのライン:130万円と国民健康保険の保険料軽減

最低賃金が上がると、パート・アルバイトで働く方の年収は上がることもあります。ここで確認しておきたい2つのラインを紹介します。

6.1 年収「130万円」の壁

会社員の配偶者に扶養されているパート勤務の場合、年収130万円(一定規模以上の勤務先では106万円)を超えると、社会保険の被扶養者から外れます。自身で健康保険と厚生年金、または国民年金・国民健康保険の保険料を負担することになります。

もっとも、これは働き方を制限することを推奨する趣旨ではありません。手取りが一時的に減ったとしても、厚生年金に加入することで将来の年金額が増えるという考え方もあり、家計全体でどちらが望ましいか、勤務先の状況とあわせて確認したいところです。

不安がある場合は、勤務先の総務や年金事務所等の相談窓口で、具体的な数値を出しながら相談すると判断がしやすくなります。

6.2 国民健康保険の保険料軽減

国民健康保険には、世帯の所得に応じて保険料が軽減される制度があります。前年の世帯所得が基準額以下であれば、均等割と平等割が7割・5割・2割のいずれかの割合で軽減される仕組みです。

この判定所得は、自治体ごとの独自加算もありますが、国が示す基準額が段階的に見直されてきました。時給の上昇によって、パート勤務の方や、年金を受給しながらパートで働く方の所得が押し上げられると、これまで軽減の対象だった世帯が翌年度は対象外になる可能性もあります。

役場で相談を受けていた頃、「去年までは軽減の通知が来ていたのに、今年は来なかった」という相談もありました。判定は前年の所得で行うため、時給上昇の影響は翌年度の保険料に反映されます。

心配なときは、お住まいの自治体の国民健康保険の担当窓口で確認するのが確実です。

7. まとめ

令和8年度の最低賃金は、全国加重平均で1176円と、過去2番目の引上げ幅となる目安が示されました。地方が大都市を上回る答申は、地域格差を縮める意図がにじむ内容といえます。

ただし、この答申どおりに決まるかは各都道府県の地方最低賃金審議会次第です。8月から9月にかけての地元審議会の動向、そして10月からの発効額に注目していきましょう。

そして、時給上昇がもたらすのは家計へのプラスだけではありません。130万円の壁や国民健康保険の保険料軽減基準など、扶養や保険料の判定に影響する場面も少なくありません。

役場や年金事務所の窓口を活用しながら、自身の家計にとって望ましい働き方を確認していきたいですね。

参考資料

太田 彩子