3. 約2倍の開きが生じる背景

大企業と中小企業でこれだけの差が生じる主な要因は、毎月の基本給(退職金計算のベース)の違いに加え、退職給付制度そのものの手厚さ(一時金に加えて確定給付企業年金などを併用しているか等)の違いにあります。

ご自身の勤務先がどちらの規模感に該当するかによって、想定すべきベースラインが大きく変わる傾向が見られます。

3.1 勤続年数と退職理由(自己都合 vs 会社都合)による違い

退職金は、長く勤めれば勤めるほど支給額が増加する仕組みが一般的ですが、「退職理由」によっても支給倍率(支給率)が大きく変わる点に注意が必要です。

【勤続年数別の支給額の傾向(目安)】

  • 勤続10年: 大学卒で約100万〜200万円前後
  • 勤続20年: 大学卒で約400万〜800万円前後
  • 勤続30年: 大学卒で約1000万〜1500万円前後
  • 定年(35年以上): 約1100万〜2100万円前後

3.2 【実務上のポイント:自己都合退職での減額ルール】

定年や会社都合(人員整理等)による退職の場合、退職金支給率は100%(満額)とされることが一般的です。

一方で、自己都合で中途退職する場合、勤続年数が浅いうちは「自己都合減額係数」などが適用され、会社都合の場合に比べて6割〜8割程度に減額されるケースもありえるでしょう。

定年を待たずに早期退職や転職を検討する際は、単に現在の勤続年数だけで計算するのではなく、「自己都合退職の場合の減額ルール」が自社の規程でどう定められているかを確認することが重要となります。

4. 「平均値」の罠と、知っておくべき「中央値」の考え方

メディアやニュースで「平均退職金〇〇万円」という数字を見る際、注意しなければならないのが「平均値」と「中央値」のズレです。

4.1 一部の高額回答が引き上げる平均値 

「平均値」は、全員の退職金の合計金額を人数で割った数値です。そのため、一部の役員経験者や大企業の高額受給者(例:5000万円以上など)が存在すると、全体の平均値が大きく引き上げられてしまいます。

一方で、データを金額順に並べたときにちょうど中央に位置する「中央値」を見ると、一般的な実感に近い数値は、ニュースで報じられる平均値よりも低い水準になる傾向があります。

「平均値に届いていないから自分の会社は極端に低いのではないか」と過度に焦るのではなく、統計の性質を理解した上で、客観的に数値を捉える視点が求められます。

5. 退職金制度の分類と近年のトレンド(ポイント制・DCの普及)

一言で「退職金」と言っても、企業によってその支給形態は多岐にわたります。主な分類は以下の通りです。

  • 退職一時金制度: 退職時に一括で現金を受給する伝統的な形式。
  • 確定給付企業年金(DB): 企業が運用リスクを負い、将来の給付額があらかじめ約束されている年金制度。
  • 企業型確定拠出年金(DC): 企業が拠出した掛金を従業員自身が運用し、運用の成果によって将来の受取額が変わる制度。
  • 退職金共済制度: 中小企業退職金共済(中退共)などを活用し、外部機関を通じて給付する仕組み。

5.1 過去20年で減少傾向にある退職金水準

厚生労働省の長期推移データ等を見ると、日本の退職金平均水準は過去20年ほどで全体的に減少傾向にあります。かつてのような「勤続年数と基本給に完全連動する仕組み」から、在職中の貢献度や役職に応じた「ポイント制退職金」や、運用結果が個人の自己責任となる「企業型DC」への移行が進んでいます。

時代の変化とともに、退職金の仕組み自体が多様化していることを押さえておきましょう。

6. 自社の退職金見込額を調べる方法と受け取り方の視点

世間の相場を把握した上で、重要なステップは「ご自身の勤務先で実際にいくらもらえるか」を正確に把握することです。

6.1 【自社の給付予定額を確認する手順】

  • 退職金規程(就業規則)の確認: 社内イントラネットや人事部門で退職金規程を閲覧し、計算式(基本給×支給倍率、または獲得ポイント×ポイント単価など)を確認します。
  • 確定拠出年金(DC)のWEBマイページの確認: 企業型DCが導入されている場合、運用管理機関のマイページで現在の資産残高(時価評価額)をいつでも確認できます。

6.2 実務上のポイント:一時金か年金かによる税制上の違い

退職金を受け取る際、一括で受け取る「一時金形式」と、分割で受け取る「年金形式」を選択できる企業もあります。

税制面においては、一時金形式には「退職所得控除」という大きな控除が適用される一方、年金形式で受け取る場合は「雑所得」扱いとなり、公的年金等控除の対象となります。

受取方法によって手取り額や社会保険料への影響が異なるため、ご自身の再雇用後の収入計画やライフスタイルに合わせて、どちらの形式が適しているかを慎重に検討してみるのも一つのアプローチです。

7. まとめ

退職金の平均相場と、実務上で押さえておきたいポイントは以下の通りです。

  1. 企業規模の格差: 定年退職金の平均相場は大企業で約1900万〜2100万円前後、中小企業で約1100万〜1200万円前後と、規模によって開きが見られる。
  2. 退職理由の影響: 自己都合退職の場合、勤続年数が浅い時期は会社都合や定年退職に比べて減額率が大きくなる傾向がある。
  3. 中央値の重要性: 統計上の平均値は高額支給者に引き上げられる傾向があるため、実態の目安としては中央値や自社規程の確認が欠かせない。
  4. 制度の変化: 近年は基本給連動型から「ポイント制」や「企業型確定拠出年金(DC)」へ移行する企業が増加している。
  5. 受取方法の検討: 一時金受け取りと年金受け取りで税金や手取り額の計算ルールが異なるため、事前の情報収集が推奨される。

平均相場はあくまで一つの目安に過ぎません。ご自身の勤務先の規程や積立状況を客観的に確認し、正確な見込額をベースに老後のマネープランを組み立ててみてはいかがでしょうか。

8. 執筆者コメント:自社の「現実の数字」を起点に、計画的な準備を

齊藤 慧

退職金の相場情報を調べることは全体の立ち位置を知る上で有益ですが、最終的にご自身の老後を支えるのは「自社から振り込まれる現実の金額」です。

最近では企業型DCの普及に伴い、ご自身で運用商品を選択する機会も増えています。 退職金だけに依存するのではなく、公的年金の見込額や私的な資産形成(NISAやiDeCoなど)も含めた全体のバランスを俯瞰し、ご家族とともに長期的な視点で準備を進めていくことを検討してみてはいかがでしょうか。

9. よくある質問

9.1 Q1. 退職金がない会社はどれくらいあるのでしょうか?

A. 厚生労働省の調査(令和5年就労条件総合調査)によると、退職金制度(一時金または年金)を設けている企業の割合は74.9%となっており、逆に言えば約2割強(25.1%)の企業には退職金制度が存在しません。

特に小規模な企業や新興企業などでは、退職金制度を設けず、その分を毎月の給与や賞与に還元する方針をとっている場合もあります。ご自身の勤務先に制度があるかどうかは、就業規則や労働条件通知書で確認することができます。

9.2 Q2. 転職した場合、前の会社の勤続年数は通算されますか?

A. 原則として、別の会社へ転職した場合、前の会社での勤続年数が次の会社に引き継がれることはありません。退職金は会社ごとに独立して計算されるため、転職するたびに一度リセットされるのが一般的です。

ただし、グループ企業間での移籍や、企業型確定拠出年金(DC)のポータビリティ制度を活用して年金資産を次の会社のDCやiDeCoに移管する手続きを行えば、資産自体を持ち運ぶことは可能です。

9.3 Q3. 退職金は退職した当日に振り込まれるのでしょうか?

A. 多くの企業において、退職金は退職当日に即座に振り込まれるわけではありません。会社の就業規則や退職金規程で「退職日から1ヶ月以内」や「退職月の翌月20日」など支払時期が定められています。

一般的には退職後1ヶ月〜2ヶ月程度経過してから指定口座に振り込まれるケースが多いため、退職直後の生活資金に余裕を持たせておくことが推奨されます。

9.4 Q4. パートや契約社員でも退職金はもらえるのでしょうか?

A. 正社員以外の雇用形態(パート・アルバイト・契約社員等)に退職金を支給するかどうかは、各企業の就業規則の定めによります。かつては正社員のみを対象とする企業が多く見られましたが、近年は「同一労働同一賃金」のガイドラインに基づき、不合理な待遇差を解消する観点から、勤続年数や貢献度に応じて手当や退職金を支給する企業も少しずつ増えています。まずは自社の非正規雇用向け就業規則を確認してみることをお勧めします。

9.5 Q5. 退職金から引かれる税金は確定申告が必要ですか?

A. 退職時に勤務先へ「退職所得の受給に関する申告書」という書類を提出していれば、会社側が退職所得控除を適用した上で正しく源泉徴収(税金の天引き)を行ってくれます。

そのため、原則としてご自身で確定申告を行う必要はありません。ただし、この書類を提出し忘れた場合や、年の途中で退職して再就職しておらず年末調整を受けていない場合などは、確定申告を行うことで払いすぎた税金が還付されるケースがあります。

参考資料

齊藤 慧