2. 夫婦の年金月15万円、生活費16万円――額面での不足額は?
まず、額面ベースでの収支を確認します。
厚生労働省の資料によれば、厚生年金の平均年金月額は15万289円です。
夫婦とも厚生年金に加入していても、勤続年数や国民年金加入期間の有無によっては、世帯合計の年金額が平均を大きく上回らないケースもあります。ここでは仮に、この夫婦世帯の年金を合計月15万円、老後の生活費を月16万円とすると、収支は次のようになります。
- 毎月の不足額(額面ベース):1万円
- 1年間の不足額:12万円
額面だけを見ると、不足額はそれほど大きくないように感じられるかもしれません。しかし、実際の暮らしでは「額面通りの年金」をそのまま使えるわけではない点に注意が必要です。
3. 年金の「手取り」と、上昇し続ける社会保険料
年金を受け取る際には、所得税や住民税に加え、国民健康保険料(75歳以上:後期高齢者医療保険料)や介護保険料などが差し引かれます。
仮に額面から1割程度が差し引かれるとすると、手取りの年金額はおよそ13万5000円になります。
さらに、介護保険料をはじめとする社会保険料は、高齢化の進展を背景に年々上昇する傾向にあります。
今後15年、さらにその先の老後期間を通じて、この負担割合がさらに重くなる可能性も念頭に置いておきたいところです。
手取りベースで見直すと、生活費16万円との差額は次のように広がります。
- 毎月の不足額(手取りベース):2万5000円
4. 物価上昇(インフレ)を考慮すると、65歳時点の不足額はどうなる?
次に、時間の経過による物価上昇の影響を考えます。
生活費は今後15年間、物価上昇の影響を受けて金額そのものが膨らんでいくと考えられます。
仮に物価上昇率を年1%とすると、現在の生活費16万円は、15年後の65歳時点ではおよそ18万6000円に相当する計算になります(16万円×1.01の15乗)。
一方、公的年金の受給額は物価などを踏まえて毎年度改定される仕組みになっていますが、近年の改定率は物価上昇率をやや下回る形で調整される傾向があり、実質的な購買力は目減りしていく可能性があります。
ここでは仮に、65歳時点の手取り年金額を現在と同水準の13万5000円程度と仮定すると、65歳時点での月間の不足額は次のようになります。
- 65歳時点の生活費(物価上昇後、仮定):18万6000円
- 65歳時点の手取り年金(仮定):13万5000円
- 毎月の不足額:5万1000円
額面ベースでは月1万円だった不足額が、手取りとインフレの影響を踏まえることで、5万円超まで拡大する計算です。
5. 老後資金はいくら必要?貯蓄のみの場合と資産運用を使う場合を比較
65歳時点で月5万1000円の不足が生じると仮定し、老後期間を25年間(65~90歳)とすると、必要な老後資金の総額は次のようになります。
- 老後トータルでの必要額:5万1000円×12か月×25年=1530万円
この1530万円を、50歳から65歳までの15年間で準備する場合、貯蓄のみで備えるケースと、資産運用を活用するケースとでは、必要な毎月の積立額に差が出ます。
- 貯蓄のみ(運用なし)の場合:1530万円÷15年÷12か月=毎月約8万5000円の積立が必要
- 資産運用を活用する場合(仮に年利3%で運用できたとすると):毎月約6万7000円の積立で到達可能
資産運用を組み合わせることで、毎月の負担を1万8000円ほど軽減できる計算です。
ただし、資産運用には価格変動リスクが伴うため、年3%の運用益が必ず得られるとは限らない点には留意が必要です。
6. 【筆者からのアドバイス】
50歳という年齢は、老後資金の準備において「まだやり直しがきく」タイミングでもあります。
- まずは「ねんきん定期便」で、ご自身の年金見込み額(額面)を確認する
- そこから税金・社会保険料を差し引いた「手取りベース」の金額感を把握しておく
- iDeCoやNISAなど、税制優遇のある制度を活用し、資産運用を無理のない範囲で組み込む
- 社会保険料の負担増や物価上昇など、将来的に条件が悪化する可能性も織り込んで、余裕を持った目標額を設定する
15年という準備期間は、決して短くはありませんが、無限にあるわけでもありません。まずは現状の年金見込み額と生活費の差額を数字で把握し、そこから逆算した目標額をもとに、貯蓄と資産運用のバランスを考えていくことが大切です。
7. まとめ
夫婦の年金を月15万円、生活費を月16万円と仮定すると、額面ベースでの不足額は月1万円にとどまります。
しかし、年金から差し引かれる税金や社会保険料、そして物価上昇による生活費の膨らみを考慮すると、65歳時点での実質的な不足額は月5万円を超える可能性があります。
この不足を老後25年間で補うとすると、必要な老後資金はおよそ1500万円規模になる計算です。
貯蓄だけで備えるか、資産運用を組み合わせるかによって、毎月準備すべき金額には数万円単位の差が生まれます。
50歳から65歳までの15年間は、こうした前提条件も踏まえながら、貯蓄と資産運用のバランスを見直す貴重な準備期間と言えるのではないでしょうか。
8. 参考:もし55歳から準備を始めたら、必要な積立額はどう変わる?
本文では、50歳から65歳までの15年間で1530万円を準備するケースを試算しました。では、同じ1530万円という目標額を、もし55歳から10年間で準備するとしたら、毎月の負担はどう変わるでしょうか。
準備期間が5年短くなる分、毎月の積立額は増加します。
- 貯蓄のみ(運用なし)の場合:1530万円÷10年÷12か月=毎月約12万7500円の積立が必要(50歳スタートと比べ、約4万2500円の増加)
- 資産運用を活用する場合(年利3%と仮定):毎月約10万9500円の積立で到達可能(50歳スタートと比べ、約4万2000円の増加)
準備期間が5年短くなるだけで、毎月の負担は4万円以上増える計算です。「あと5年」の差が家計に与えるインパクトは決して小さくありません。老後資金の準備は、始めるタイミングが早いほど月々の負担を軽くできるという点も、あわせて押さえておきたいポイントです。
参考資料
和田 直子
