3. おひとりさまの老後、「住まい」をどう考える?
おひとりさまの老後の家計で、意外と大きな差になるのが「住まい」です。持ち家か賃貸かで、老後の支出は変わってきます。
持ち家でローンを完済していれば、老後の住居費は固定資産税や修繕・管理費が中心で、比較的おさえやすくなります。ただし、設備の交換や大規模な修繕にまとまったお金がかかる時期もあるため、その分の備えは必要です。
賃貸の場合は、家賃が老後もずっと続きます。たとえば家賃が月7万円なら、25年で2000万円を超える計算です。一方で、体調や暮らしに合わせて住み替えができる、修繕の心配がないという安心もあります。
3.1 【見落とし注意】60代以降の「賃貸を借りにくくなる」問題
持ち家か賃貸かを考えるうえで、家賃の総額以外にもうひとつ知っておきたいことがあります。それが、高齢になるほど賃貸住宅の契約が難しくなるという現実です。
国土交通省の調査では、高齢者の入居に「拒否感がある」と答えた大家(賃貸人)が約7割にのぼるとされています。緊急時に連絡できる親族がいない、家賃の滞納や孤独死のリスクへの不安などが背景にあるとみられます。
この課題に対応するため、2025年には「住宅セーフティネット法」の改正が行われ、借主が亡くなると同時に契約が終了する「終身建物賃貸借契約」の普及などが進められています。今後、単身高齢者が賃貸を借りやすくなる仕組みは徐々に整いつつありますが、それでも「今住んでいる部屋を、老後もそのまま借り続けられるとは限らない」という前提は持っておいたほうがよさそうです。
3.2 持ち家vs賃貸、30年間の「隠れコスト」を比較してみると
次に、家賃以外もあわせた総額で、持ち家と賃貸のコストを比較してみましょう。以下は、あくまで一定の条件を置いた場合の目安であり、実際の費用は住宅の種類や地域、契約条件によって大きく異なります。
持ち家(ローン完済済み・一戸建てを想定)30年間の目安
- 固定資産税等(年10万円想定):30年で約300万円
- 大規模修繕・設備交換(外壁・屋根・給湯器等):30年で約500万〜800万円
- 火災保険・地震保険(年3万円想定):30年で約90万円
- 合計目安:約900万〜1200万円程度
賃貸(家賃月7万円を想定)30年間の目安
- 家賃:7万円×12ヵ月×30年=2520万円
- 更新料(2年ごとに家賃1ヵ月分、15回想定):約105万円
- 火災保険(年1万円想定):30年で約30万円
- 合計目安:約2655万円
この目安で比較すると、持ち家と賃貸の差は30年間で1500万円前後にもなる計算です。ただし賃貸には、住み替えの自由度や、修繕の負担がないという価値もあるため、金額だけで優劣を決められるものではありません。大切なのは、どちらを選ぶ場合でも「老後、住まいにいくらかかりそうか」を一度見積もっておくことです。
4. 年金と住居費から考える、「あなたに必要な貯蓄額」の見積もり方
「必要な貯蓄額」は、年金の見込み額、日々の生活費、そして住居費という3つの要素の組み合わせで決まります。総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月14万8445円、そのうち住居費は6069円です。この住居費が低いのは、調査対象の多くが持ち家世帯であるためと考えられ、賃貸の場合はここに実際の家賃相当額を上乗せして考える必要があります。
ここでは、年金の見込み額別に、持ち家・賃貸それぞれのケースで毎月どの程度の不足が生じそうかを試算してみます(生活費は前述の統計をもとに、賃貸の場合は家賃7万円等を上乗せしたケースです)。
- 国民年金のみ(月5万9310円)の場合:持ち家で月8万9135円不足/賃貸で月15万6816円不足
- 厚生年金(女性平均・月11万1413円)の場合:持ち家で月3万7032円不足/賃貸で月10万4713円不足
- 厚生年金(全体平均・月15万289円)の場合:持ち家はほぼ収支が合う/賃貸で月6万5837円不足
この不足額に30年(65〜95歳)をかけると、たとえば国民年金のみのケースでは、持ち家で約3200万円、賃貸で約5600万円が目安の準備額になります。今回のおひとりさまの貯蓄額(中央値100万円・120万円)と比べると差は大きく見えますが、これは「今すぐ全額を用意すべき」という意味ではなく、「今後何年でどれくらい積み立てる必要があるか」を逆算するための出発点です。
前職で家計の相談を受けてきた立場から、住まいを軸に、今日からできることを3つお伝えします。
ひとつめは、老後の毎月の支出に「住居費」を必ず入れて試算すること。賃貸なら家賃を、持ち家なら修繕や管理の費用を見込みます。年金の見込み額から住居費を含めた生活費を引けば、毎月いくら不足しそうかが見えてきます。
ふたつめは、住居費以外の固定費を見直すこと。保険の重複や、スマホの料金プランなど、一度見直せば節約が毎月続きます。浮いたお金は、そのまま老後資金に回せます。
みっつめは、少額からでも老後資金を「育てる」こと。当面使わないお金は、新NISAなどの制度で長期の運用を続ける選択肢もあります。ただし投資には元本割れのリスクがあり、金融商品や投資方法などによってリスクが異なるため、当面の生活費(生活防衛資金)は預貯金で確保したうえで、無理のない範囲で始めましょう。
5. まとめ
40歳代・50歳代おひとりさまの貯蓄は、40歳代で平均859万円・中央値100万円、50歳代で平均999万円・中央値120万円でした。中央値でみれば準備はこれからという人も多く、いま動き出せば十分に間に合います。
老後の必要貯蓄額を左右する大きな要因のひとつが「住まい」です。賃貸は家賃の総額だけでなく、高齢期に契約が難しくなる可能性も踏まえておく必要があり、持ち家はローン完済後も修繕費などの備えが欠かせません。まずは自分の年金見込み額と、想定する住まいのコストを重ね合わせて、必要な貯蓄額のおおよそのイメージを持つことから始めてみましょう。
