決算内容が会社予想を上回って着地しても、株価が同じ方向に反応するとは限りません。翌期予想が公開される場面では、着地した実績よりも次の1年の見通しの微妙な変化が意識されることがあります。NTT(9432)の直近半年の株価は、その典型と受け止められる動きを見せました。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

それでは早速見ていきましょう。

1. 通期予想を上回って着地、しかし翌期見通しが示した鈍化の輪郭

2026年3月期通期の決算内容を眺めますと、売上収益は14兆4,091億円で前期比+5.1%、営業利益は1兆7,062億円で+3.4%、当期利益は1兆370億円で+3.7%と、増収増益で着地しました。第3四半期時点で示していた通期予想(売上収益14兆1,640億円、営業利益1兆6,600億円)はいずれも上振れる格好で、進捗率で見ますと売上収益で101.7%、営業利益で102.8%と、控えめに置いていた会社予想を実績が押し上げた姿として読み取れます。

もっとも、同時に開示された翌2027年3月期の会社予想は、売上収益15兆600億円で+4.5%と増収基調を維持する一方、営業利益は1兆7,100億円で+0.2%、当期利益は9,800億円で-5.5%と、利益面で明確に鈍化しています。増収基調の中で利益成長率が横ばい〜減益転換にまで踏み込んだ点が印象的です。

過去5期の営業利益を振り返りますと、2022年3月期の1兆7,686億円から2024年3月期の1兆9,229億円まで積み上がったのち、2025年3月期には1兆6,496億円と前期比-14.2%の急減を経験しました。直近の2026年3月期はそこから+3.4%の戻りにとどまり、2024年3月期の水準にはまだ届いていません。翌期予想の営業利益+0.2%という数値は、この戻りの勢いが翌期は一段落する構図とも受け止められる水準です。

2. 総資産が期末で1.55倍——装置産業の資本配分がフェーズを切り替えた輪郭

背景にあるのは、資本配分のフェーズ転換ではないでしょうか。バランスシートを眺めますと、2025年3月期末の総資産30兆624億円に対して、2026年3月期末は46兆7,213億円と実に1.55倍に膨張しています。自己資本比率は34.0%から20.8%へと13ポイントを超える低下を見せ、有利子負債の増加を伴った大型調達がバランスシートに刻まれた期であったと読み取れます。情報・通信業296社(2026年3月期)の自己資本比率中央値が66.5%であることを踏まえますと、同社のポジションは中央値の3分の1弱に沈んでおり、装置産業型の資本構造としても目立つ水準にあります。

キャッシュフローの動きもこの読み解きを支持します。設備投資(CAPEX)は2022年3月期の1兆6,876億円から2026年3月期の2兆3,260億円まで、5年間で+37.8%の水準で厚みを増してきました。一方、営業キャッシュフローは2025年3月期の2兆3,640億円から2026年3月期は1兆4,852億円へと-37.2%と大きく減少し、財務キャッシュフローは前期の-3,430億円から+4,413億円へとプラス転換しています。稼ぐ力の一時的な鈍化と大型調達の同居——装置産業に固有の投資と回収のサイクルの中で、投資フェーズが前面に出た局面と解釈できるでしょう。

3. 14期連続増配とDOE中央値超え——利益率が試される局面での還元姿勢

見るべきは、こうした資本配分の切り替えの中でも株主還元姿勢が緩んでいない点ではないでしょうか。分割調整後の1株配当は2022年3月期の4.6円から2023年3月期4.8円、2024年3月期5.1円、2025年3月期5.2円、2026年3月期5.3円と積み上がり、翌2027年3月期は5.4円が予想されています。連続増配は14期に達しました。純資産配当率(DOE)は4.7%と情報・通信業中央値の4.3%を上回り、配当性向も42.0%と中央値の36.8%を超える水準にあります。

一方、資本効率の相対水準は綱渡りの領域に入ってきました。2026年3月期のROE(自己資本利益率)は10.4%と、業種中央値11.1%をやや下回る位置にあります。もっとも営業利益率は11.8%と中央値の8.4%を大きく上回っており、稼ぐ力そのものの厚みは維持されている姿です。

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出所:各種資料をもとにLIMO編集部作成

出所:各種資料をもとにLIMO編集部作成

株価の直近半年の推移も、この綱引きを反映していると考えられます。2026年1月26日の156.9円を起点に、3月27日には期間内の最高終値である159.0円まで切り上がる場面もありましたが、決算開示日の5月8日終値は150.2円と実績上振れの中で伸び切らず、7月1日には期間内の最安終値142.8円まで下落しました。そこから7月24日終値の151.3円まで+6.0%と戻したものの、半年トータルでは-3.6%と、緩やかな下押しが残っています。翌期予想の減益転換と大型投資フェーズへの踏み込みが、実績の上振れと綱引きになった構図として読み取れる動きです。

利益率と資本効率が試される局面でも還元姿勢は継続、しかし翌期予想は利益成長率の鈍化を織り込んでいる——連続増配銘柄の株価は、実績の水準だけでなく利益成長率の変化と資本配分のフェーズを同時に見ないと、動きの意味が読み解きにくい局面にあります。単一の増配ニュースや通期上振れだけで還元姿勢や業績のトレンドを判定するのではなく、資本コスト意識と投資フェーズをセットで見る着眼点が有効ではないでしょうか。

3.1 免責事項

  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。

  • 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。

  • 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。

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石津 大希