久々にシネコンで 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 を鑑賞

この映画、公開前から気になっていました。マイケル・ルイス著の原作を出版直後に読んでいましたし、そもそも出世作『ライアーズ・ポーカー』以来のマイケル・ルイスのファンでしたので楽しみでした。

三連休に時間ができたので、妻と近くのシネコンに向かいました。前日夜に予約サイトを見るとがらがらでしたが、実際に館内に入ると観客は結構入っています。

妻は金融の知識はありませんので、前日に筆者は簡単なレクチャーをしました。MBS、CDS、CDO*などなどの仕組みの説明や、サブプライムとはなにか、なぜサブプライムローンの崩壊が起きたのか、予見はできたのかなどをインプットしておきました。

* MBS:不動産担保証券(モーゲージ債)、CDO:債務担保証券、CDS:クレジット・デフォルト・スワップ

金融関係者である筆者の感想は「面白い」

筆者はいわゆるリーマンショックの時に直接これらの商品を売買する当事者ではありませんでしたが、仕事柄、無縁でもありませんでした。ですので、一定の背景知識を持っています。また、社会人になった頃に日本のバブルの崩壊過程を経験しています。

そんな私から見ると、この映画はとても面白かったです。まず、2000年代半ばにアメリカの住宅市場がダウンサイクルに入るとは誰も真剣に考えていなかった時代の雰囲気がうまく描かれています。

次に、時代の風潮に逆行するポジションを取ったいわば「異端者」たちが、実に地道に、そして緻密にその崩壊を予見する部分です。筆者の本業は証券アナリストですので、地味な裏付け調査の重要性を身に染みて知っているつもりです。登場人物に少しだけ自分の姿が投影できたような気がしたことが、この映画に対する良い印象につながっているのでしょう。

最後に、自分の相場観に確信を持った時、果敢にそのポジションを取りに行く行動力にも惹かれるものがありました。投資家や取引相手である投資銀行に対するネゴシエーションの場面は圧巻でした。

「中央銀行に逆らうな」に逆らってみる

筆者はエコノミストではありませんので精緻な議論はできませんが、住宅市場のバブルの形成にグリーンスパン時代のFRBのハト派的な金融政策が関与していたと考えていいと思います。

特に2000年代初頭のITバブルの崩壊後、FRBは資産市場の価格引き上げで景気を浮揚しに行ったと記憶しています。そんな背景があるため、クラッシュが起きることはなかなか想像できなかったのではないでしょうか。

しかし、ここに登場する人物は通説を疑い、時には中央銀行に逆らうようなポジションを取ろうと動きます。このあたりの思考様式、行動様式には学ぶべき点が多いと率直に思いました。

一方、後半になって、こんな彼らが実は無自覚的に「市場メカニズム」をおおらかに信任していたことに気づかされます。この展開にも筆者は大変考えさせられました。

本質を伝えるにはもう少し丁寧な説明が必要

妻に感想を聞くと、金融の現場が分かって面白かったということでした。特に、サブプライムローンがCDOになり、シンセティックCDOになるあたりの描写は、あれ以上簡単に説明できないのではないかというぐらい、直感的に理解できたということでした。

しかし、筆者の事前レクチャーがないとなかなか分かりにくい、とも漏らしていました。

そもそも「サブプライム」の本当の定義や、「ショート」は不足という意味のほかに金融の世界では売り(空売り)を意味することなどをもう少し丁寧に描くと、予備知識なく楽しめ、学べる映画になったのではないでしょうか。

バトンはAIとフィンテックへ渡されたのか

さて、この映画を10年後に見たらどんな感想になるでしょうか。

サブプライムローンの延滞を一件一件丹念に調べ上げたり、フロリダ(記憶が正しければ)へ物件の実査に行く様子が描写されていますが、10年経つとこうした行動は手間暇をかけた時間の無駄に見えることでしょう。

また、住宅市場の崩壊で利益が出る保険を投資銀行に掛け合って買いに行くシーンもありますが、こうした交渉もオンラインに完全移行していることでしょう。

10年後には、朝ロボットに起こされ「そろそろあなたは、このモーゲージローンの延滞状況を調べようとするだろうと予想して、調べておきました」と調査結果を渡されているかもしれません。そして、筆者が保険を買おうとすると、そのロボットに「もう買っておきましたよ、いまこれぐらい儲かっています」と先回りされていることでしょう。

やることのなくなった筆者が、仕方なくこの『マネー・ショート』を見て「昔は良かった」とつぶやく、そんな状況にならないよう、自分が日々できることをしてきたいと思いました。

【2016年3月25日 椎名 則夫

■参考記事■

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椎名 則夫