7. 最後の砦「成年後見制度」の利用率はわずか1.7%…

成年後見制度は、高齢の親の財産を守るための有効な仕組みですが、利用には慎重な判断と事前準備が欠かせません。

2023年の調査では、成年後見制度の利用者数は24万9484人となり前年より増加しましたが、利用割合で見ると約1.7%にとどまっています。

利用が広がらない背景には、手続きの複雑さや長期間にわたる費用・心理的な負担といったシビアな制約があると考えられます。

一方で、制度を適切に活用できれば、親の財産管理や老後の備えとして大きな助けになるのも事実です。利用を検討する際は、家庭裁判所や専門家へ早めに相談すると安心です。

また、今後は法改正によって、必要な期間だけスポットで利用できるようになるなど、これまでよりも柔軟で使いやすい制度へ見直される動きも進んでいます。

今後はより身近で使いやすくなっていく可能性があるため、その動向にもぜひ注目しておきたいところです。

8. 「まだ大丈夫」が危ない!元気なうちに始める財産管理の備え

Aさんが最も後悔したのは、「認知症の兆候が出てから慌ててキャッシュカードを作った」という後手に回った対応でした。

判断能力が十分でなくなってからでは、特例引き出しの交渉や成年後見制度の申し立てなど、時間も手間もかかる選択肢しか残されません。

一方で、親の意思能力がしっかりしているうちであれば、より柔軟で家族の負担も少ない制度をあらかじめ利用しておくことが可能です。

8.1 家族信託(民事信託)

親が元気なうちに、財産の管理や処分の権限を信頼できる家族(子どもなど)へ託しておく契約です。

認知症になった後でも、契約内容に沿って家族が預金を引き出したり、不動産を売却したりすることができるため、スムーズな財産管理につながります。

8.2 任意後見制度

将来、認知症などで判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ「誰に」「どのようなことを任せるか」を公正証書で決めておく制度です。

法定後見制度とは異なり、自分の意思で信頼できる家族などを後見人候補に指定しやすい点が特徴です。

8.3 金融機関の代理人指名(予約型代理人など)

近年は、多くの金融機関が代理人登録サービスを導入しています。

事前に窓口で家族を代理人として登録しておけば、本人が認知症になった後でも、登録された家族が正式な代理人として預金の引き出しや各種手続きを行えるようになります。

9. まとめにかえて|正しい知識で親の財産と家族を守るために

多くの親世代が「子どもたちの世話にはなりたくない。自分のお金で老後をまかないたい」という尊いプライドを持っています。

しかし、どれほど十分な老後資金や年金が準備されていたとしても、認知症によって口座がロックされ、必要なときに使えなくなってしまっては、その尊い意思も途絶えてしまいます。

介護費用を巡る親子間の話し合いは、心理的な抵抗感が伴いやすく、どうしても先送りにされがちです。

しかし、本人の判断能力が低下してからでは選択肢が極めて限られ、手続きの手間や家族の負担は増えます。

親が健康で意思能力が十分なうちに、家族信託や任意後見、金融機関の代理人指名サービスなどの事前対策を検討することは、結果として親自身の財産を確実に守り、本人が希望する介護生活を実現するための最も有効な手段となるでしょう。

高齢期の資産管理とは、単なる「いくらあるか」という金額の問題だけにとどまらない、ということ。

必要なときに適切な手続きで引き出せる「環境整備」の問題です。親が元気なうちからの対話を通じて家族全員で備えておくことこそが、介護が始まった直後の資金ショートを防ぎ、大切な家族の暮らしを守る確実な一歩となります。

10. 監修者からのコメント

熊谷 良子

親が認知症になったときの口座凍結問題は、一つの家族だけの話ではなく、高齢社会を生きる私たち全員にとって身近なリスクです。

これに備えるための仕組み(家族信託や任意後見、銀行の代理人登録など)は、どれか一つだけを選ぶのではなく、それぞれの特徴や費用を考えて上手に組み合わせることがとても大切です。

例えば、日々の生活費の出し入れには手軽な代理人登録サービスを使い、将来の実家の売却や大きな定期預金の解約には、より権限の強い家族信託を準備しておくといった、段階的な工夫も有効と言えそうです。

それぞれの仕組みの違いを客観的に見極め、最適な組み合わせを早い段階で専門家に相談しておくことが、もしものときの安心に繋がります。

参考資料

池上 翠