3. 電機大手で見劣りするROEが映す「様子見」
では、株価はこの改革をどう評価しているのでしょうか。7月24日の終値3,883円をもとにすると、会社予想の1株利益(予想EPS約180円)に対する予想PER(株価収益率)は約22倍、1株純資産(BPS)約2,232円に対するPBR(株価純資産倍率)は約1.7倍です。予想配当利回りは約1.4%となります。
ここで浮かび上がるのが、株主資本利益率(ROE)の低さです。2026年3月期のROEは約3.8%。同じ電機大手でも、ソニー(約16%)、日立製作所(約13%)、三菱電機(約10%)と比べて大きく見劣りします。改革費用で一時的に沈んでいる面はありますが、市場が長年パナソニックに冴えない評価を与えてきた根っこには、この資本効率の低さがあります。株価が改革の成果を全面的に織り込みきれていないのは、「本当にROEを引き上げられるのか」を市場がまだ様子見しているから、と読むのが自然です。PBR約1.7倍という水準は、期待と不安がせめぎ合う、ちょうど中間地点にあるといえます。
4. 改革の「実行力」を見極める
パナソニックの成長を担うのが、EV(電気自動車)向けの車載電池です。米テスラなどに供給し、北米で工場を拡大してきました。加えて、空調・家電、B2Bのソリューション事業など、幅広い事業を抱えています。改革によって不採算事業を整理し、これら成長・高収益の領域に経営資源を集中できれば、ROEの改善余地は大きいといえます。増配計画も、その自信の表れと受け取れます。
一方でリスクもあります。EVの需要が世界的に鈍れば、期待の車載電池が伸び悩む可能性があります。改革は計画を描くのは簡単でも、やり切れるかどうかは別問題で、実行力が問われます。株価がすでに高値圏を意識する水準にあるだけに、新年度の計画の達成に黄信号がともれば、失望を買いやすい局面でもあります。派手な「V字回復」の計画そのものより、それが四半期ごとの数字で着実に裏づけられていくかを見極める姿勢が大切です。
5. 執筆者の視点
私はかつて『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』という本を書いたことがあります。かつて世界を席巻した日本の電機メーカーが、なぜ韓国・台湾・中国勢に押され、明暗が分かれたのか。そのテーマをずっと追いかけてきた立場から見ると、いまのパナソニックは日本の電機産業の縮図のように映ります。
ヒントになるのは、同じ電機大手の日立製作所です。日立は早くから不採算事業を大胆に切り、稼げる事業に絞り込むことでROEを二桁まで引き上げ、株価も大きく水準を切り上げました。パナソニックがいま進めているのは、まさにこの「日立が通った道」です。総合電機という幕の内弁当のような事業構成のままでは、市場は評価に困り、コングロマリット・ディスカウントで安く据え置かれがちです。ここから抜け出せるかどうかは、事業を絞る覚悟と、資本効率を経営の物差しに据え続けられるかにかかっています。私が以前から言い続けているのは、株式市場は「良い会社かどうか」より「その良さが続くと信じられるか」で動くということ。パナソニックの場合、まだ市場は信じ切っていません。だからこそ、改革が数字で証明され始めた瞬間に評価が変わる余地がある——そこが、これからのパナソニック株の一番の注目ポイントです。
泉田 良輔
著者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日