アジアでは、もともと終身雇用などという幻想はないので、サラリーマンであっても危機意識は強いと感じていました。たとえば、公務員やサラリーマンであっても、親族で助け合って家業をやっていたりします。急に会社をクビになっても何とか食いつなげるよう、アパート経営など副業もしています。

特に、華僑・印僑などは危機意識が強いと感じます。私自身、サラリーマン時代から身近にいた多くの華僑・印僑から、いつの間にか健全な危機意識を学んだ気がします。日頃から最悪なシナリオを想定してコンティンジェンシープラン(緊急時対応プラン)を持つ癖も身につきました。

日本のサラリーマンの未来像

国際比較における日本のサラリーマンの上昇志向の弱さを問題視しているわけではありません。人間は環境に適応する生き物ですので、自分に危機が降りかかってくれば自然に意識は変わるものだと思っています。

そういう意味で、世界における日本経済や日本企業の地位が急降下していても、日本は本当の危機には陥っていないのでしょう(参考:世界のGDPにおける日本のシェアは1995年の17.6%→2020年5.3%[IMF予測]、世界時価総額ランキング上位50社における日本企業数は1989年32社→2018年1社)。

しかし、将来、日本企業の国際競争力がさらに減退すれば、非正規雇用へのしわ寄せ、正社員のリストラ、終身雇用の完全崩壊、本格的なAI導入など、残念ながら日本のサラリーマンにもアジア諸国並みに「上昇志向」を持たざるを得ない時期が来るかもしれません。

皆さんは、すでに多くの兆候にお気づきかと思います。たとえば、日本の働き方改革で副業・兼業などが話題になっていますが、将来、サラリーマンが自営業化せざるを得なくなる時は要注意です。また、外国人と仕事・ポジションを国内外で競争しなければならなくなる時は日本のサラリーマンにとって厳しい世の中になるでしょう。

本格的なAI時代に突入することにも警戒すべきです。AI時代になれば、規定の枠の中で考えて効率的に事務処理する能力がいらなくなりますので、たとえば、新しいアイデアを思いつく、それを情熱・意欲を持って取り組む、他人を説得して巻き込む等々、AIやコンピューターには絶対にできないことをやるしかありません。

そのような状況では自己研鑽は単なる「資格取得」ではなくなるでしょう。つまり、資格取得用の教材の内容を覚えて合格できるような資格はあまり意味がなくなるわけです。

日頃、日本企業を取り巻く環境の変化に気づき、危機感を持つ日本のサラリーマンは増えていると思っていましたが、今回の国際比較調査では私の予想と逆の結果が出ました。

決して独立・起業や転職を推奨しているわけではありませんが、今後は日本のサラリーマンも、危機感を感じたら考えているだけでなく、即、実行することが必要になるかもしれません。

つまり、一つの組織に過度に依存せず、あたかも自営業者のように世の中の変化を肌で感じつつ仕事のビジョンや戦略を立て、そのための自己研鑽に自分のお金と時間を投資するといった、アジア諸国ではごく普通である努力の積み重ねが大切になるのではないでしょうか。

大場 由幸