パーソル総合研究所による「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」の結果が8月27日に発表されましたが、そこでは日本のサラリーマンの上昇志向の弱さが浮き彫りになりました。今回は、アジア太平洋地域の中で異彩を放つ日本のサラリーマンの働く意識について考えてみたいと思います。
働く意識に関する国際比較調査で異彩を放つ日本人
同調査の実施期間は2019年2月6日〜3月8日、対象はアジア太平洋(14ヵ国・地域)の主要都市、サンプル数は各国1,000、調査対象者の平均年齢は40〜44歳、フルタイム勤務者割合は93%〜99%、主な勤務先業種は製造業でした(注:国によって異なる)。
このアンケート結果が浮き彫りにした日本のサラリーマン像は、他のどの国と比べても出世意欲が弱く、自己研鑽せず、転職や独立志向も弱いというものでした。
特に気になったのは、日本のサラリーマンの約5割が「社外で自己研鑽していない」と回答していたことです。形ばかりの「意識高い系」になるのはどうかと思いますし、自己研鑽の中身が問題ではありますが、それにしても東南アジアやインド・中国では「社外で自己研鑽していない」という回答は1割未満でしたので、その差はかなり大きいと言えます。
終身雇用が崩れつつあるのに、なぜ上昇志向が減退?
日本では、新卒は「3年以内に3割が退職」というのが実態です。厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況 (2018年10月)には、3年以内離職率の年度別推移が出ています。それを見ると、この現象は最近に始まったことではなく、過去30年間、同じような傾向が続いていることがわかります。
このような終身雇用の崩壊という風潮にあるとすれば、なぜ、出世意欲が弱く、自己研鑽せず、転職・独立志向が弱いのか、という素朴な疑問が湧いてきます。常識的には、仕事環境が厳しさを増せば個人は上昇志向で頑張るしかないはずなのに、そうならないのは不思議です。
今回の調査対象者の平均年齢は40〜44歳でしたので、リスクを冒して無理に独立・転職しなくとも、今の会社にいれば毎月最低限の給与はもらえる、今の会社で管理職・役員になっても責任が重くのしかかるだけで給与に大差ないので無理に出世したくない、といった感覚でしょうか。
そう考えれば、社外で自己研鑽するよりも、社内飲み会に参加したり、同僚に合わせて長時間残業したり、有給休暇を取らないなど、社内の空気を読むことの方が大切になるのかもしれません。
日本では、なぜか「転職35歳限界説」という先入観があり、35歳くらいを過ぎると多くの日本人は「現状維持」に走るのかもしれません。また、無意識に自分の会社だけは潰れないだろう、給与は毎月振り込まれてくるはずだ、という希望的観測もあるかと思います。
ボーっとしていた私の日本でのサラリーマン生活
私自身、日本でサラリーマンをしていた1990年代を振り返ると、たしかに危機感はなくボーっと生きていました。バブルが弾けて日本経済が長期停滞に入っていたことすら気がついていませんでした。
大卒後11年間勤めた政府系金融機関では、社内に研修制度があり、その恩恵を受けていました。多くの通信教育を受講したり、選抜されて半年間の英語研修を受けたり、半ば修行のような在ハノイ日本大使館派遣などを経験し、社外で自己研鑽している暇もありませんでした。一方、大企業に勤めていた知人・友人には米国MBA派遣を経験していた人も多くいました。
当時を振り返れば、与えられた仕事環境に満足していたように思います。やはり社内の飲み会を最優先していました。週末にMBAコースに通っていた先輩が同じ部に1人いて、その方は社内の飲み会には参加していませんでした。その姿勢を立派だなと尊敬すると同時に、日本企業ではMBAがさほど評価されないのに、なぜそこまでストイックになれるのかなと疑問すら感じていました。
日夜、価値観が近い同僚仲間と一緒で楽しかったですが、新たな発想や斬新なアイディアは出にくい職場環境だったと思います。
華僑・印僑から学んだ危機意識
私の転機は、初めての転職以降、アジア業務に舵を切ったことでした。これまで約20年間、駐在・出張を含めアジア諸国で仕事をし、最近7年間はマレーシアで生活しています。