パート・アルバイトとして働く中で、「収入を増やしたら社会保険に加入することになった」「厚生年金に入ると、かえって損なのでは」と感じたことがある人は少なくないでしょう。

今後は社会保険の加入条件そのものが見直される予定であり、これまで以上に「自分は対象になるのか」を正しく理解しておく必要性が高まっています。

本記事では、パート・アルバイトが厚生年金保険に加入するための条件を整理したうえで、今後の制度変更のポイントや、加入することで得られるメリットについて解説します。

加藤 聖人
証券会社に勤めていた頃も、パートで働くお客様から「社会保険に入ると損なのでは」というご相談をよく受けました。目先の手取りだけで判断してしまうのはもったいないというのが実感です。ご自身の働き方と照らし合わせながら読み進めていただければと思います。

1. パート・アルバイトが厚生年金に加入する仕組みとは

日本の公的年金制度は、「国民年金(基礎年金)」を土台に、「厚生年金」を上乗せする2階建て構造になっています。

日本の公的年金制度の仕組み1/2

日本の公的年金制度の仕組み

出所:日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」等を参考にLIMO編集部作成

パート・アルバイトであっても、後述する加入条件を満たせば、正社員と同じように厚生年金に加入することになります。

厚生年金に加入すると、国民年金だけに加入している場合と比べて、老後に受け取れる年金額が上乗せされる仕組みです。

これまで「扶養の範囲内で働く」ことを選んできた方にとっては、厚生年金への加入は「保険料を払う側」に変わることを意味します。

一方で、将来受け取る年金や、万一のときの保障が手厚くなる側面もあるため、単純に「損か得か」で判断するのは早計といえるでしょう。

1.1 加入すると何が変わるのか

厚生年金に加入すると、主に次の2つの変化が生じます。

  • 給与から厚生年金保険料・健康保険料が天引きされ、手取り収入が減る可能性がある
  • 将来受け取る年金に、老齢厚生年金が上乗せされる

保険料は労使折半のため、給与から天引きされるのは半分の負担分です。金額は収入水準によって変わりますが、目安として月収8万8000円程度の場合、厚生年金保険料の目安は月8052円になります。

一方で、厚生年金に加入している期間は、将来の年金額に反映されます。厚生年金に加入し続けた場合、加入しなかった場合と比べて、年間の年金受給額が数万円単位で増えるケースもあるでしょう。

また、年金だけでなく、健康保険の傷病手当金や出産手当金といった給付も、厚生年金・健康保険に加入することで新たに対象になります。

目先の手取りだけでなく、こうした保障面も含めて加入のメリットを考える必要があるでしょう。

2. 厚生年金保険の加入条件「5つの要件」を確認

パート・アルバイトが厚生年金保険に加入するかどうかは、以下の5つの要件によって判断されます。

社会保険に加入する短時間労働者(現行制度)2/2

出所:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 雇用期間が2カ月を超える見込み
  • 賃金が月額8万8000円以上(※2026年10月に撤廃予定)
  • 学生でないこと
  • 従業員数51人以上の企業に勤務(※今後段階的に撤廃)

それぞれの要件について、詳しく確認していきましょう。

2.1 週の所定労働時間が20時間以上

雇用契約書や就業規則に定められた、通常の勤務時間で判断されます。残業や休日出勤など、臨時に発生した労働時間は含まれません。

たとえば「1日5時間×週4日間」の勤務であれば、週の合計が20時間となるため、この要件を満たします。

なお、契約上は週20時間未満であっても、実際の労働時間が2カ月連続で週20時間以上となり、その後も続く見込みがある場合は、3カ月目から加入対象となります。

2.2 雇用期間が2カ月を超える見込み

雇用契約の期間が2カ月を超える場合、この要件を満たします。契約期間が2カ月以内であっても、契約書に「更新される場合がある」旨が明記されているなど、2カ月を超えて雇用される見込みがあると判断される場合は、要件を満たすことになります。

2.3 賃金が月額8万8000円以上(※2026年10月に撤廃予定)

現行制度では、基本給と諸手当の合計が月額8万8000円以上(年収換算で約106万円以上)であることが要件のひとつです。残業代や賞与、通勤手当などは、この金額に含まれません。

なお、この「賃金要件」は、2026年10月に撤廃される予定です。撤廃後は、賃金の金額にかかわらず、他の要件を満たす短時間労働者は社会保険の加入対象となります。

2.4 学生でないこと

学生は、原則として社会保険の加入対象外です。ただし、休学中の学生や、夜間部・定時制の学生など、一部のケースでは加入対象となることがあります。

2.5 従業員数51人以上の企業に勤務(※今後段階的に撤廃)

勤務先の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が51人以上であることも、現行の加入要件のひとつです。

この「企業規模要件」は、2027年10月から段階的に縮小され、2035年10月にはすべての企業が対象となる見通しです。

将来的には、企業の規模にかかわらず、週20時間以上働く短時間労働者は厚生年金に加入することになります。

3. 厚生年金保険に加入するとどのくらい年金額が増える?

ここまで確認してきた保険料や年金額の仕組みをもとに、実際に厚生年金に加入した場合、保険料と将来の年金額がどのくらいになるのか、具体的な数字で確認してみましょう。

3.1 加入期間による保険料負担の目安

標準報酬月額8万8000円(1等級)で厚生年金に加入した場合、本人負担分の保険料は月額8052円です。年間では、8052円×12カ月で、約9万6624円の負担となります。

3.2 加入期間による年金額の増加分の目安

老齢厚生年金の報酬比例部分は、日本年金機構の計算式によると「平均標準報酬額×5.481/1000×厚生年金の加入月数」で算出されます。

厚生年金(報酬比例部分)

厚生年金(報酬比例部分)

出所:日本年金機構「は行 報酬比例部分」

【報酬比例部分=A+B】

A:平成15年3月以前の加入期間
平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの加入期間月数

B:平成15年4月以降の加入期間
平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の加入期間月数

すべて「B:平成15年4月以降」に加入したものとして、標準報酬月額8万8000円を当てはめて試算すると、加入期間ごとの年金額の増加分は、次のようになります。

  • 10年間(120カ月)加入した場合:8万8000円×5.481/1000×120カ月=約5万7879円/年(月額約4823円)
  • 20年間(240カ月)加入した場合:8万8000円×5.481/1000×240カ月=約11万5759円/年(月額約9647円)

あくまで標準報酬月額8万8000円で一定と仮定した簡易試算ですが、加入期間が長くなるほど、老齢基礎年金に上乗せされる老齢厚生年金の額も比例して増えていくことがわかります。

たとえば20年間加入したケースでは、将来受け取る年金は生涯にわたって年間約11万5759円上乗せされます。

加藤 聖人
年金は一度受け取り始めると一生涯続くものなので、加入期間の差は想像以上に大きな差になります。目先の保険料負担だけでなく、この「一生涯続く上乗せ」という視点も持っておくとよいでしょう。

年金は原則として一生涯受け取れるため、単純に比較すれば、負担した保険料の総額を上回る年金を受け取れる可能性が高いといえます。

ただし、実際の年金額は、賃金の変動や賞与の有無、加入期間全体の平均標準報酬額によって変わるため、あくまで目安としてご参照ください。

実際に厚生年金を月15万円以上受け取っている人がどのくらいいるのか、平均受給額の全体像についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認 【2026年度の年金額改定】基礎年金と厚生年金のモデルケースは月額いくら?

より正確な見込み額を知りたい場合は、日本年金機構の「ねんきんネット」や「公的年金シミュレーター」を活用しましょう。