60歳代は、定年退職や再雇用、年金受給の開始などを迎え、これまでの「貯める家計」から「使いながら守る家計」へ意識を切り替える時期です。
筆者は老後資金や退職後の資産運用に関する相談を受けるなかで、保有資産の総額だけでなく、今後の収入や支出、資産の置き場所まで考えることが重要だと感じてきました。
本記事では、60歳代の金融資産保有額を世帯別に確認しながら、「老後資金2000万円以上」を持つ人の割合と、今から意識したい3つの備えについて解説します。
退職金が入金されて一時的に気が大きくなり、現役時代の消費水準のまま年金生活へ突入した世帯ほど、数年以内に資産の急減に直面します。高齢期の安心を決めるのは貯蓄総額の多寡ではなく、引き去り後の手取り年金に合わせて支出の基礎代謝をどれだけ早く落とせるかが大事です。
※本記事は、編集部が金融経済教育推進機構などが公表する公式資料を確認の上、執筆・検証しています。
1. この記事の3つのポイント
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60代の金融資産保有額は、退職金の有無や住宅ローンの完済状況によって二極化が極限まで進んでおり、中央値こそが実生活の現在地を測る正確な物差しとなる。 -
老後資産の枯渇を防ぐには、「余ったら貯蓄する」という成り行き頼みの管理を脱し、先取りシステムを導入することが不可欠である。 -
公的年金は支給総額のすべてが生活費として使えるわけではないため、実際の口座受取額(手取り収入)の範囲内に家計の基本支出を調和させることが生活防衛となる。
2. 【60歳代・二人以上世帯】平均貯蓄額は2683万円、中央値は1400万円
まずは、J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」から、60歳代・二人以上世帯の金融資産保有額を確認します。
※この調査における金融資産とは、預貯金のほか、株式や投資信託、生命保険などを指します。ただし、日常的な決済に利用する普通預金口座の残高は対象外です。
※金融資産を保有していない世帯も含みます。
2.1 60歳代・二人以上世帯の金融資産保有額
- 金融資産非保有 :12.8%
- 100万円未満 :4.7%
- 100~200万円未満 :3.9%
- 200~300万円未満 :3.0%
- 300~400万円未満 :2.8%
- 400~500万円未満 :1.8%
- 500~700万円未満 :6.2%
- 700~1000万円未満 :6.3%
- 1000~1500万円未満 :8.9%
- 1500~2000万円未満 :8.0%
- 2000~3000万円未満 :12.4%
- 3000万円以上 :27.2%
- 無回答 :2.0%
- 平均値:2683万円
- 中央値:1400万円
60歳代・二人以上世帯の金融資産保有額は、平均値が2683万円、中央値が1400万円です。
平均値は2000万円を超えていますが、中央値との差は大きく、一部の高額保有世帯が平均を押し上げていると考えられます。
「2000万円以上3000万円未満」の12.4%と「3000万円以上」の27.2%を合わせると、二人以上世帯で2000万円以上の金融資産を持つ割合は39.6%です。およそ5世帯に2世帯が、2000万円以上を保有している計算になります。
60歳代は、退職金の受け取りや住宅ローンの完済などで資産が増えやすい時期である一方で、定年退職や再雇用により収入の形が変わる年代でもあります。
平均値だけで判断せず、中央値や分布もあわせて確認しておきましょう。
3. 【60歳代・単身世帯】平均貯蓄額は1364万円、中央値は300万円
続いて、60歳代・単身世帯の金融資産保有額も見てみましょう。
※この調査における金融資産とは、預貯金に加えて株式や投資信託、生命保険などを指します。ただし、日常的に利用する普通預金口座の残高は対象外です。
3.1 60歳代・単身世帯の金融資産保有額
- 金融資産非保有:30.4%
- 100万円未満:9.1%
- 100~200万円未満:4.3%
- 200~300万円未満:2.4%
- 300~400万円未満:4.5%
- 400~500万円未満:3.1%
- 500~700万円未満:6.0%
- 700~1000万円未満:4.8%
- 1000~1500万円未満:8.1%
- 1500~2000万円未満:4.1%
- 2000~3000万円未満:5.5%
- 3000万円以上:15.6%
- 無回答:2.2%
- 平均:1364万円
- 中央値:300万円
平均額だけを見ると、一定の老後資金を備えている人が多いように感じられるかもしれません。しかし、中央値は300万円にとどまっており、平均額ほどの金融資産を持つ人が多数派とはいえない状況です。
分布を見ると、「金融資産非保有」が30.4%と最も高くなっています。「100万円未満」の9.1%も合わせると、約4割が金融資産100万円未満です(普通預金口座の残高を含まず)。
一方で、「2000万円以上3000万円未満」は5.5%、「3000万円以上」は15.6%です。両者を合わせると、21.1%が2000万円以上の金融資産を保有しています。
60歳代の単身世帯では、まとまった資産を持つ人がいる一方で、老後資金に不安を抱えやすい人も一定数みられます。
4. 【FPが解説】老後資金づくりで意識したい3つの備え
退職金の運用や老後資金について相談を受けるなかで感じるのは、資産額が多ければ必ずしも不安がなくなるわけではないということです。
まとまった資金を持っていても、毎月の収支や資産の使い道が整理できていなければ、将来への不安は残りやすくなります。
一方、資産額が平均を下回っていても、計画的に貯蓄し、支出を管理している人は老後の見通しを立てやすい傾向があります。
老後資金づくりでは、目標額を決めるだけでなく、日々の家計管理や資産の置き場所まで具体的に考えることが大切です。
ここでは、今から意識したい3つの備えについて解説します。
4.1 先取り貯蓄で「残ったら貯める」から抜け出す
老後資金を準備するうえで、まず見直したいのが貯蓄の順番です。
生活費を支払ったあとに残った分を貯めようとすると、予定外の出費があった月には貯蓄できないこともあります。貯蓄額が安定せず、計画どおりに資産を増やしにくくなるでしょう。
そこで取り入れたいのが、収入を受け取った時点で貯蓄分を分ける「先取り貯蓄」です。
例えば、給与が振り込まれたら一定額を別口座へ自動的に移す、積立定期を設定するといった方法があります。
運用期間を十分に確保でき、価格変動リスクを許容できる資金については、NISAを活用した積立投資も選択肢になるでしょう。
最初から使うお金と将来に残すお金を分けておけば、毎月の支出に左右されにくくなります。
無理な節約を続けるよりも、家計のなかに自然と貯蓄できる仕組みをつくることが重要です。
4.2 使う時期に応じて、お金の置き場所を分ける
退職金などのまとまった資金を「すべて預貯金で持つべきか、運用に回すべきか」と悩む人は少なくありません。
しかし、老後資金はすべてを同じ方法で管理する必要はありません。使う時期に応じて、お金の置き場所を分けることが大切です。
生活費の補てんや医療費、家電の買い替えなど、近いうちに使う可能性がある資金は、すぐに引き出せる預貯金で確保しておくとよいでしょう。
一方、10年後や20年後に使う予定の資金であれば、株式や投資信託などを活用して運用する方法もあります。
ただし、投資には元本割れのリスクがあります。生活費や緊急時の資金まで運用に回すと、相場が下落したときに損失を抱えたまま取り崩さなければならないかもしれません。
まずは日々の生活を守る資金を預貯金で確保し、そのうえで余裕資金の運用を検討しましょう。
4.3 年金生活を見据えて、支出水準を整える
老後に必要な資金は、保有資産の額だけでなく、毎月の支出によっても大きく変わります。
現役時代と同じ支出水準のまま年金生活に入ると、収入が減った分だけ貯蓄の取り崩しが増え、想定より早く資産が減る可能性があります。
特に確認しておきたいのが、住居費や保険料、通信費、サブスクリプション、自動車関連費などの固定費です。一度見直せば効果が続きやすいため、退職前から少しずつ整理しておくとよいでしょう。
また、退職後は生活リズムも変わります。在宅時間が増えて光熱費が上がる場合もあれば、趣味や交際費が増えるケースも考えられます。
老後を迎えてから急に支出を削ると、生活の満足度を大きく下げかねません。年金見込み額を確認したうえで、現役のうちから支出水準を段階的に調整し、無理なく続けられる家計へ近づけておくことが大切です。
5. まとめ
60歳代の金融資産保有額を見ると、二人以上世帯では平均値が2683万円、中央値が1400万円です。一方、単身世帯は平均値が1364万円、中央値は300万円となっており、世帯構成によって大きな差があります。
2000万円以上の金融資産を持つ割合は、二人以上世帯で39.6%、単身世帯で21.1%です。ただし、平均値と中央値の差も大きいため、平均貯蓄額だけで老後資金の実態を判断するのは難しいでしょう。
筆者が老後資金の相談を受けた経験からも、重要なのは資産額の多さだけではなく、毎月の収支や資産の使い道を具体的に把握することだと感じます。
まずは現在の資産状況と将来の年金見込み額を確認し、先取り貯蓄や固定費の見直し、お金の置き場所の整理など、無理なく続けられる備えから始めてみましょう。
6. 監修者コメント:「残高の錯覚」から脱却し、口座分割と手取り基準の支出管理を徹底しましょう
私が社会保障の取材や実務を通じて見てきましたが、自分の資産を『額面ではなく純手取りで評価する徹底した現実主義』が重要です。
公的年金は支給総額から地域の介護・医療保険料や税金が容赦なく引き去られるため、口座に振り込まれる現実は想像以上にシビアです。
さらに、まとまった退職金や預貯金があるからといって一つの口座で管理していると、日々の赤字補填の痛みを感じなくなり、気づいた時には資産の半分が消えていたという事態に陥りかねません。だからこそ、今すぐ資金を『使う時期』ごとにわけて、純手取りの範囲内に固定費をすり合わせる作業を行ってください。
早めに家計の基礎代謝を落とす行動を起こすことこそが、セカンドライフを豊かに、そして穏やかに保つ唯一の道です。

