この記事の読みどころ

日本経済成長の牽引役であった貿易収支額は、2011年から赤字に転落し、2014年には▲10兆円を超える貿易赤字額を計上しました。

最大の要因は、原発の稼働停止等に伴うエネルギー輸入額の激増です。昨今の原油価格下落で赤字幅は縮小しましたが、中国向け輸出の停滞などで厳しい状況にあります。

貿易収支が早期に復活することは期待できそうにありません。日本経済は大丈夫なのか?と不安になってしまいます。

貿易収支について考えてみる

ここ2~3年、新聞やテレビのニュースで「今月の貿易収支は○○億円の赤字になりました」「貿易収支は○か月連続の赤字です」という類の話をよく見聞きします。

「貿易」とか「収支」とか言われると、何だか難しいイメージがあるので、深く考えなかったり、読み飛ばしたりしている人も少なくないと思います。今回は、ほんの少しだけ気合を入れて、この「貿易収支」について考えます。

日本は加工貿易国、貿易収支の拡大が経済成長を牽引

小学校の社会の授業で、“日本は加工貿易国である”と勉強した人も多いでしょう。加工貿易とは、原材料を海外から輸入して、それを加工した製品(半製品含む)を輸出する貿易の形態を言います。

具体例の1つとして、石油、鉄鋼、金属、ゴム等を輸入し、それを加工して自動車や精密機器を生産して輸出しています。日本は、この加工貿易の収支が大きく拡大し、世界有数の経済大国へ成長してきました。

貿易収支は大幅赤字に陥り始めている

つまり、原材料の輸入金額よりも、(それを加工した)製品の輸出金額が大きく上回ってきたのです。この輸出金額と輸入金額の差を「貿易収支」と言いますが、昨今、この貿易収支が赤字(マイナス)に、しかも大幅な赤字に陥っているのです。

昔、小学校の社会の授業で学んだ“貿易収支の増加が日本経済を発展させている”というのは、現在は完全に当てはまっていません。極端なことを言うと、子供の頃に学校で叩き込まれた常識が、大きく覆されているのです。もっとも、小学校では「貿易収支」という難しい言葉は使わなかったと思いますが。

貿易収支の赤字転落は2011年以降、エネルギ-輸入額が激増

日本の貿易収支が赤字に転落したのは2011年からです。それまでは、あのリーマンショック時も含めて、着実に貿易黒字を計上してきました。2011年は1ドル=80円を超える超円高が続きました。あの超円高に見舞われた2011年以降、輸出が減ってしまったのでしょうか?

出所:財務省、日本銀行の資料をもとに著者作成

輸出が思うほど伸びていないことは確かでしょう。特に、アベノミクス開始以降、大幅な円安になったにもかかわらず、輸出の伸びが今一つとなっているのは、企業の産業構造の変化の表れと言えます。

しかし、貿易収支が赤字になった最大の理由は、輸入が急増したからに他なりません。そして、何がそんなに増えたのかと言えば、主にエネルギー(原油、天然ガス、石炭など)の輸入額です。

東日本大震災による原発稼働停止が契機に

2011年3月に東日本大震災が起きて以降、国内では原子力発電所が全面停止しました。その後、ごく一部が再稼働しましたが、稼働率が極めて低いのはご存知の通りです。しかし、国内の電力需要はどんどん回復してきました。そして、原発が稼働停止した後、火力発電の稼働率上昇のためのエネルギー輸入が激増したのです。

加えて、円安による輸入価格の上昇、及び、資源価格高騰が追い打ちをかけた結果、2014年の貿易収支は▲10兆4千億円という、記録的な赤字を計上するに至りました。

資源価格の下落で貿易赤字額もやや縮小しているが…

なお、原油価格が下落し始めた2014年秋以降、貿易収支は改善方向にあります。2015年3月には21か月ぶりに貿易黒字へ転じ、年間の貿易赤字額も▲6,431億円に縮小しました。やはり、原油を始めとするエネルギー価格の下落は、貿易収支改善に大きく貢献しています。

ただ、それでもマイナスに留まっているのは、中国向け輸出の落ち込みが厳しいためです。ちなみに、直近の2016年1月の貿易収支は▲4,110億円の赤字となりましたが、これは2か月ぶりのマイナスであり、赤字額としては1年ぶりの大きさとなっています。

貿易収支の復活は望み薄、日本経済は大丈夫か?

いずれにせよ、日本の経済成長を牽引してきた貿易収支は、かつてのような黒字額には遠く及ばない見込みのようです。これはアベノミクスの失敗例なのでしょうか? 日本の経済成長はもう見られないのでしょうか? 非常に心配になってしまいますが、次回はこれを「経常収支」という観点から見てみることにします。

【2016年3月30日 投信1編集部】

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LIMO編集部