4. 「本人の年金は少ないのに3割負担」が起こる理由とは?世帯合算の落とし穴

前述のとおり、窓口負担割合は本人の収入だけで決まるわけではありません。同じ世帯にいる後期高齢者全員の所得を合算して判定されるため、「自分の年金収入は少ないから負担も軽いはず」とは必ずしも言えない点に注意が必要です。

例えば、本人の年金収入がそれほど多くなくても、配偶者に一定以上の所得がある場合は、世帯全体で「現役並み所得者」と判定され、窓口負担が3割になることがあります。判定のカギとなるのは「世帯内に課税所得145万円以上の後期高齢者がいるかどうか」であり、該当者がいれば原則としてその世帯は3割負担の対象になります。

特に、夫婦のどちらか一方に年金や収入が集中している世帯では、単身世帯よりも世帯合算の基準を超えやすい傾向があります。「自分の所得」ではなく「世帯全体の所得」で判定されるという制度の仕組みを、あらかじめ理解しておくことが大切です。

5. 医療費・介護費が想定以上にかさんだとき、公的な仕組みはどこまで頼れる?

窓口負担割合とは別に、医療費や介護費が一定額を超えた場合の負担を抑える公的な仕組みがあります。ここで押さえておきたいのは、「マイナ保険証を使っていれば手続きなしで反映されるもの」と「自分で申請しなければ受けられないもの」に分かれている点です。この違いを知っておくだけで、使える制度を取りこぼさずに済みます。

5.1 マイナ保険証なら手続き不要:高額療養費制度の自己負担上限

1カ月(月の初めから終わりまで)に病院窓口で支払った医療費が、所得区分ごとの「自己負担限度額」を超えた場合、超えた分が払い戻される、または窓口での支払い自体が上限で止まる仕組みです。後期高齢者医療制度の限度額は70〜74歳の設定より低めで、令和8年8月診療分以降の基準では、2割負担の「一般Ⅱ」で外来(個人ごと)月額22,000円(年間上限216,000円)、入院を含む世帯全体で月額61,500円(多数回該当は44,400円)となります。1割負担の「一般Ⅰ」等は、これとは別の限度額が所得に応じて適用されます。

以前は「限度額適用認定証」を事前に取得して窓口に提示しなければ、一時的に高額な立て替え払いが必要でした。現在はマイナ保険証を使えば、受付の顔認証付きカードリーダーで本人が同意するだけで、事前申請なしに窓口の支払いが自動的に上限までに抑えられます。資格確認書で受診する場合も、多くの所得区分では医療機関への提示で上限までとなりますが、住民税非課税世帯の食事代減額や非対応の医療機関では、従来どおり事前申請が必要です。

5.2 申請しないともらえないお金①:入院時の食事代「長期該当」

入院時の食事代(標準負担額)は高額療養費の対象外で、1食550円(一般の場合)を別途自己負担します。住民税非課税世帯(区分II)は手続きをすれば1食270円まで下がりますが、さらに過去12カ月で通算90日を超えて入院した場合、91日目以降は申請によって1食220円まで引き下げられる「長期該当」というルールがあります。この長期該当は、マイナ保険証を使っていても自動では判定されません。入院日数の分かる領収書などを添えて、役所や加入する健康保険へ自分で申請しない限り、割引は適用されないままになります。

5.3 申請しないともらえないお金②:医療費と介護費のダブル負担を減らす仕組み

1年間(毎年8月1日〜翌年7月31日)にかかった医療保険と介護保険の自己負担額を世帯単位で合算し、基準額を超えた分が支給される「高額医療・高額介護合算療養費」という制度もあります。対象世帯には原則通知が届きますが、都道府県をまたぐ引っ越しや、75歳になって会社の健康保険から後期高齢者医療制度へ切り替わったタイミングでは、行政間でデータが引き継がれず通知が来ないことがあります。時効は2年で、過ぎると受け取れなくなるため、心当たりがある場合は自分から以前の保険者に「自己負担額証明書」を取得し、申請する必要があります。

松本 真奈
高額医療・高額介護合算療養費は、対象になれば通知が届く制度ですが、引っ越しや75歳への切り替えのタイミングでは通知が届かないことがあります。医療費と介護費の両方がかさんだ年があった場合は、通知が来ていなくても一度、お住まいの自治体や以前加入していた保険者に確認してみることをおすすめします。時効は2年なので、思い当たる方は早めに動いておくと安心です。

6. まとめ

後期高齢者医療制度では、75歳になると自動的に保険が切り替わり、窓口負担は所得に応じて1割・2割・3割のいずれかになります。この判定は本人だけでなく世帯全体の所得で決まるため、「自分の年金は少ないから安心」とは限らない点に注意が必要です。

また、高額療養費制度や食事代の減額、長期該当、高額医療・高額介護合算療養費といった負担を抑える仕組みも用意されていますが、その一部は自分で申請しなければ適用されません。制度の内容を理解し、必要な手続きを漏らさないようにしておくことが、医療費の負担を実際に軽くする近道になります。

参考資料