本格的な夏を迎え、夏のボーナスなどをきっかけに、ご自身の将来に向けた資金準備や生活設計について改めて見つめ直している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
将来手にする公的年金に対して、「実際にいくら支給されるのか」「老後の生活をまかなえるだけの額になるのか」と不安を感じる方は決して少なくありません。
私はかつて証券会社に勤務し、ファイナンシャルアドバイザーとして多くのお客様のライフプランに寄り添った資産運用をご提案してまいりました。
その中で将来の年金に関するご相談も伺ってきましたが、年金の受給額は現役時代の収入や加入していた年金制度、さらには働き方によって大きく異なります。
特に、加入しているのが国民年金だけなのか、それとも厚生年金にも加入している会社員なのかによって、将来の受給額には格差が生じます。
本記事では、38年間「平均年収400万円」で働いた会社員のケースを例に、老後に受け取れる年金(厚生年金+国民年金)を試算します。
さらに、現役シニア世代の年金受給額の分布や、年金から差し引かれる税金・社会保険料の影響などについても詳しく見ていきましょう。
国税庁の最新データをもとに、企業規模で全体・男性・女性の「平均給与」はどれくらい違うのかも解説しますので、ライフプランを立てる際の参考にご覧ください。
1. 【平均年収】大企業・中小企業・個人事業所で最大400万円以上の開き
国税庁が発表した最新の「令和6年分 民間給与実態統計調査」のデータをもとに、企業の資本金や事業形態によって平均給与にどれほどの差が生じているのか解説します。
1.1 企業規模と事業所の形態別:全体・男性・女性の平均給与はいくら?
資本金10億円以上の大企業
- 全体の平均給与:673万円
- 男性の平均給与:789万円
- 女性の平均給与:426万円
資本金2000万円未満の企業
- 全体の平均給与:403万円
- 男性の平均給与:488万円
- 女性の平均給与:277万円
個人事業所(個人経営など)
- 全体の平均給与:266万円
- 男性の平均給与:305万円
- 女性の平均給与:248万円
資本金10億円以上の大企業(全体平均673万円)と、資本金2000万円未満の中小企業(全体平均403万円)を比較すると、年間の平均給与に270万円もの開きがあります。
これを月給換算(ボーナスを考慮しない単純計算)にすると、毎月約22万5000万円もの収入差が生まれていることになります。
さらに格差が顕著なのが、大企業と個人事業所(全体平均266万円)の比較です。
その差は400万円以上(407万円)にのぼり、大企業の平均給与は個人事業所の2.5倍以上という現実が浮き彫りになっています。
また、いずれの企業規模においても男性の平均給与が女性を上回る傾向にあります。
大企業で働く女性の平均給与(426万円)は、中小企業の女性(277万円)や個人事業所の女性(248万円)よりも遥かに高い水準にあり、企業規模がもたらす恩恵は性別を問わず大きいことがわかります。
老後受給できる年金は、加入していた年金の種類や年収などにより個人差が生じます。
国民年金や厚生年金の対象となるのは、それぞれどんな人なのでしょうか。
2. 老後の支えとなる公的年金の種類は?「国民年金」と「厚生年金」の仕組み
現役時代の平均年収が400万円だったとしても、38年間の現役生活において厚生年金の加入期間があるかどうかで、老後に受け取れる年金の総額には大きな違いが出てきます。
そこで、まずは日本の公的年金がどのような仕組みになっているのか、その基礎知識を確認しておきましょう。
我が国の公的年金制度は、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造で構築されています。
土台となる1階部分が、日本に住むすべての人に共通する「国民年金(基礎年金)」であり、その上に会社員などが上乗せして加入する2階部分の「厚生年金」が乗る形です。
- 第1号被保険者:自営業やフリーランス、学生、無職の方など
- 第2号被保険者:企業に勤める会社員や公務員
- 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者
国民年金は、日本国内に住所がある20歳以上60歳未満の全ての人が加入を義務付けられている制度です。
保険料は一律の定額となっているため、将来的に受け取る基礎年金の額に大きな個人差が生じにくいのが特徴です。
一方の厚生年金は、国民年金に上乗せされる形で支給される仕組みで、主に会社員や公務員が加入対象となります。
こちらの保険料は現役時代の収入(給与や賞与)に比例して決まるため、将来もらえる年金額も人によって大きな開きが出やすくなっています。
次の章では、これら国民年金と厚生年金の双方を支給されるケースを前提とし、「平均年収400万円」「勤務期間38年」という条件で、実際に老後にもらえる年金月額を算出してみます。
3. 【シミュレーション】平均年収400万円・勤続38年で老後にもらえる年金額は?
本章では、現役時代の生涯平均年収を400万円とし、民間企業で38年間サラリーマンとして働いたと仮定して、以下の前提条件のもと老後に受け取れる年金額をシミュレーションします。
- 2003年4月以降、38年間にわたり厚生年金に加入している
- 国民年金は20歳から60歳までの40年間のうち、学生納付特例(追納なし)などにより実質納付期間が38年と仮定する
- 配偶者や扶養家族はいないものとする
3.1 1. 「厚生年金」の受給額の目安
厚生年金として受け取れる金額は、国が定めた以下の計算方法に基づいて算出されます。
年金額=報酬比例部分 + 経過的加算 + 加給年金額
ちなみに「経過的加算」とは、定額部分の金額が老齢基礎年金を上回るケースでその差額を補填する仕組みであり、「加給年金」は生計を維持している配偶者や子供がいる場合に上乗せされる、いわば年金の家族手当です(いずれも一定の要件を満たす必要があります)。
今回の試算では、年金額のコアとなる「報酬比例部分」の金額を明確にするため、「経過的加算」および「加給年金額」は除外して計算を行っています。
この報酬比例部分は、さらに以下の計算式に沿って導き出されます。
報酬比例部分 = A + B
- A(2003年3月以前の加入期間):平均標準報酬月額 × 7.125 / 1000 × 2003年3月までの加入月数
- B(2003年4月以降の加入期間):平均標準報酬額 × 5.481 / 1000 × 2003年4月以降の加入月数
「平均標準報酬月額」とは、2003年3月より前の加入期間を対象として、毎月の標準報酬月額の合計を加入月数で割って求めた平均額です。
それに対して「平均標準報酬額」は、2003年4月以降の加入期間について、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)を合算し、その期間の月数で割って算出します。
例えば、2003年4月以降に38年間厚生年金に加入し、生涯の平均年収が400万円だった場合、ボーナスを含めた年収を12ヶ月で割ると、1ヶ月あたりの平均標準報酬額の目安は約33万3000円とみなせます。
この条件を当てはめて簡易的に試算すると、将来受け取れる厚生年金額は月額で約6万9000円となります。
3.2 2. 「国民年金」の受給額の目安
会社員などの厚生年金加入者は「第2号被保険者」となるため、老後は厚生年金だけでなく、土台となる国民年金も合わせて受給することができます。
ここでは、基礎部分である1階の国民年金(老齢基礎年金)がいくらになるかを確認していきましょう。
国民年金の受給額は、以下の計算式を用いて算出されます。
満額の金額(例:84万7,300円 ※昭和31年4月2日以後生まれの方が対象)を基準とし、そこに「保険料を納付した月数 ÷ 加入可能月数(480ヶ月)」を掛けて計算します。
今回のモデルのように、実質的な保険料の納付期間が38年間(456ヶ月)である場合、国民年金の受給額は月額で約6万7000円となります。
これらを合算すると、「平均年収400万円」で「38年間」就労した会社員が老後に受け取れる年金の合計額は、額面で月額約13万7000円となります。
4. 実際の受給状況は?「現役シニア世代」の年金月額データを解説
前章では、「平均年収400万円・勤続38年」というシミュレーションに基づき、老後にもらえる年金額の目安を導き出しました。
では、現在実際に引退して年金を受け取っているシニアの方々は、どれくらいの金額を受給しているのでしょうか。
厚生労働省年金局が発表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金(基礎年金)を併せて受給している厚生年金受給者の分布は以下のように示されています。
- 10万円未満を受給している割合:19.0%
- 10万円以上を受給している割合:81.0%
- 15万円以上を受給している割合:49.8%
- 20万円以上を受給している割合:18.8%
- 20万円未満を受給している割合:81.2%
- 30万円以上を受給している割合:0.12%
国民年金と厚生年金の双方を支給されている人のうち、月額15万円以上を得ている人の割合は、全体の約49.8%とほぼ半数に達していることが分かります。
その一方で、今回の試算結果(約13万7000円)に近い水準である「月額13万円未満」の受給者も、全体の約38.7%を占めており、一定の割合で存在しています。
ただし、ここで示されている金額はすべて税金や社会保険料が引かれる前の「額面」であり、実際の口座振込額(手取り額)はこれよりも少なくなる点に注意が必要です。
5. 年金から差し引かれる「税金・社会保険料」の現実
前章までで「平均年収400万円・38年間勤務」のケースをベースにした年金額の目安を確認しましたが、これはあくまで「額面」の金額であり、そのまま全額を使えるわけではありません。
年金収入も現役時代の給料と同じく、所定の税金や社会保険料が差し引かれる仕組みになっているため、実際の「手取り額」は表示された見込み額よりも目減りします。
年金から毎月天引きされる主な公的負担には、以下のような項目があります。
- 所得税
- 住民税
- 医療保険料(国民健康保険料や後期高齢者医療保険料)
- 介護保険料
実際に老後の家計がどのようになっているか、総務省の「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」に掲載されている、65歳以上の単身無職世帯(一人暮らし)の収支データを見てみましょう。
- 実収入(額面の月額収入):13万1456円
- 可処分所得(実際の手取り額):11万8465円
- 消費支出(生活費などの支出):14万8445円
- 非消費支出(税金や社会保険料):1万2990円
この統計が示す通り、年金などによる月額の額面収入(実収入)が13万1456円あったとしても、税金や社会保険料として1万2990円が引かれるため、実際に本人が自由に使える手取り額は11万8465円にまで減少してしまいます。
実際に差し引かれる金額は、住んでいる地域や年金以外の収入、家族構成などによって異なりますが、一般的には額面の「約10%〜15%」が天引きされるのが目安と考えられます。
6. 老後の暮らしに向けて「制度・働き方・年金の手取り額」を把握しよう
今回は、日本の公的年金が持つ仕組みの基本を確認しつつ、「平均年収400万円・38年間勤務」という会社員のモデルをベースに、老後の年金受給額をシミュレーションしました。
この条件で試算を行うと、国民年金と厚生年金を合わせた合計の受給額は、月額約13万7000円という結果になりました。
一方で、実際の高齢者の受給実態を見ると、月額15万円以上を受け取っている人が半数近くいる一方で、月額13万円未満の受給者も全体の約38.7%を占めるなど、受給額には個々の現役時代の状況に応じた格差が見られます。
また、算出された年金額はすべて額面であり、そこから税金や社会保険料が天引きされるため、実際の「手取り」は10%〜15%ほど少なくなってしまうという現実もあります。
これらを踏まえると、老後の安心な暮らしを設計するためには、単に受給額の数字を見るだけでなく、年金の仕組みや「実際の手取り額」までをトータルで捉え、計画的に資産形成を進めていくことが重要だと言えます。
参考資料
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 日本年金機構「は行 報酬比例部分」
- 日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 国税庁長官官房企画課「令和6年分 民間給与実態統計調査-調査結果報告-令和7年9月」
安達 さやか