4. 信用買いが招く「投げ売りの雪崩」リスク
これら3つの条件が揃うと、市場では何が起きるのでしょうか。泉田氏は、個人投資家の信用買いの多さが、ヘッジファンドにとって格好のターゲットになり得ると警鐘を鳴らします。
信用買いとは、証券会社からお金を借りて、自己資金以上の金額で株を買う(レバレッジをかける)取引です。もし株価が大きく下がった場合、担保の価値が下がり「追証(追加の保証金)」を求められます。
追証を払えなければ、強制的に株を売却して決済しなければなりません。
「株が借りやすい環境と、個人の信用残の積み上がり。この2つがあると、ちょっと揺らすと損切りやポジション解消の雪崩が起きやすいんです」
ヘッジファンドが大量の空売りを仕掛けて意図的に株価を少し下げると、それに耐えきれなくなった個人の信用買いが「投げ売り」を始めます。
その売りがさらなる株価下落を呼び、別の投資家の追証を誘発するという「売りが売りを呼ぶ雪崩」が起きてしまうのです。
「狙われているというより、条件が揃っているんです」と泉田氏が語るように、ヘッジファンドはサンリオを憎んで売っているわけではなく、単に「儲かる確率が高い構造」を見つけて合理的に仕掛けてきているに過ぎません。
さらに、最近になって米国子会社元役員の不祥事(報酬に関する問題)が発覚したことも、「機関投資家はまだ世間が知らないネガティブな情報を持っているのではないか」という市場の警戒感を高め、空売りを誘発する一因になっている可能性があります。
5. 企業の対抗策と「保守的な予想」の意図
このような需給の歪みや空売りの攻勢に対して、企業側は無力なのでしょうか。実は、株主が誰に株を貸すかは自由であるため、企業が直接「貸株を禁止する」といった形で空売りを止めることはできません。
しかし、企業には最強の対抗策があります。それは「業績で市場を驚かせること」です。
企業が予想を上回る素晴らしい業績(ポジティブサプライズ)を発表し、株価が急騰すれば、空売りをしているヘッジファンドは損失を防ぐために慌てて株を買い戻さなければなりません。
これを「ショートカバー」と呼びます。大量の買い戻しはさらなる株価上昇を引き起こし、空売り機関を焼き尽くす「スクイズ」と呼ばれる現象に発展します。
泉田氏は、サンリオが2027年3月期の業績予想を(2桁増収増益とはいえ)やや慎重に出してきた背景について、プロの視点からこう推測します。
最初から高すぎる目標を掲げて未達になるよりも、保守的な予想を出しておき、期中でそれを上回る実績を叩き出すことでポジティブサプライズを意図的に作り出し、ヘッジファンドにショートカバーを強いる戦略を練っているのではないか、という見方です。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日