3. そもそも「カードの貸し借り」は規定違反

根本的な問題として、家族であっても名義人以外の人間がキャッシュカードを使い、暗証番号を入力して現金を引き出す行為は、金融機関の利用規定違反(契約違反)にあたります。

「介護費用に使うのだから問題ないだろう」というAさんの主張は心情的には理解できますが、金融機関側には「それが本当に親のために使われるのか(他の親族との間でトラブルにならないか、一部の親族による使い込みではないか)」を確認する術がありません。

だからこそ、本人以外の利用を厳格に弾くルールになっているのです。

3.1 親のお金で介護費用を払う!凍結後の「合法的な」2つの正攻法

では、Aさんのように完全に手詰まりになってしまった場合、あるいは親の認知症が進行して窓口での手続きができなくなった場合、どうすれば「合法に」親のお金を引き出せるのでしょうか。

こっそりATMで下ろすようなグレーな手法ではなく、正面から堂々と対応する手段があります。

【その1】全国銀行協会の指針に基づく「特例引き出し」

どうしても本人の資金がすぐに必要な場合、まずは金融機関の窓口に事情を正直に相談しましょう。

かつては「本人の意思確認ができない=一切引き出し不可」という対応が一般的でしたが、社会問題化する口座凍結問題を受け、2021年に全国銀行協会(全銀協)が新たな指針を示しました。

それは、「本人の認知能力が低下していても、医療費や施設費など本人の利益になる明確な使途があれば、親族からの引き出しに応じる」というものです。

この特例を利用するには、口頭での説明だけでは不十分です。「エビデンス(証拠)」を提示することが極めて重要になります。

具体的には、以下のような書類を窓口に提出します。

  • 介護施設や病院からの請求書・見積書
  • 本人の戸籍謄本や住民票(親族関係を証明する書類)
  • 手続きに来た家族の身分証明書

これらの書類をもとに、金融機関が「間違いなく本人のための支払いである」と確認できれば、引き出しが許可されたり、金融機関から直接施設や病院へ振り込みを行ってくれるケースがあります。

「こっそりATMで下ろす」のではなく、「請求書というエビデンスを持って窓口で相談する」のが正解です。

【その2】最終手段にして最大の法的保護「成年後見制度」

特例引き出しは非常に助かる制度ですが、あくまで「銀行ごとの個別判断」や「緊急時の例外規定」に過ぎません。

継続的な生活費の引き出しや、介護費用を捻出するための実家の売却、定期預金の解約など、大掛かりな財産処分には対応できないことが多いのが実情です。

今後の財産管理を法的に完全な形で代理するには、家庭裁判所に申し立てて「法定後見人」を選任してもらう「成年後見制度」を利用する必要があります。

専門家(司法書士や弁護士など)が後見人に選任された場合は毎月の報酬(数万円程度)が継続的に発生するなどのデメリットもありますが、親の財産を1円単位で透明に管理し、法的に親を不当な契約や親族間のトラブルから守るための、最も確実で強力な制度です。