60歳代に入り、セカンドライフが少しずつ現実味を帯びてくると、「年金だけで暮らしていけるのだろうか」「貯蓄はどのくらいあれば安心なのか」といった不安が頭をよぎる方も多いのではないでしょうか。
筆者はこれまで、証券会社やIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)として、資産運用から保険、相続対策まで、お金に関するご相談をトータルでお受けしてきました。その経験から感じるのは、老後のお金の不安の多くが「全体像が見えないこと」から生まれているということです。
そこで本記事では、公的な統計データをもとに、65歳以上の夫婦世帯の「家計収支」「貯蓄額」「年金受給額」「生活意識」という4つの視点から、シニア世帯のリアルな暮らし向きを全体像から整理していきます。
特に「生活意識」についてはこの7月にデータが公表されたばかりで、令和シニアの本音が浮き彫りとなっています。
ご自身のライフプランを見つめ直す際の判断材料として、ぜひ参考にしてください。
1. この記事の3つのポイント
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65歳以上の無職夫婦世帯は、平均で毎月約4万2000円の赤字。貯蓄の取り崩しで補う人も -
65歳以上・無職夫婦世帯の平均貯蓄額は2494万円 -
高齢者世帯の52.1%が生活を「苦しい」と感じており、年金だけに頼らない早めの生活設計が大切になる。
2. 【65歳以上・無職夫婦】1カ月の家計収支はどのくらい?
老後資金について具体的なイメージを持つための一歩として、「今のシニアの収支」はひとつの参考になります。
そこでまず紹介したいのが、総務省統計局の「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」にまとめられている、「65歳以上の夫婦のみで構成される無職世帯」の家計収支です。
勤労世帯を除く、いわゆる「年金生活に入った世帯」は、いくらの収入でやりくりしているのでしょうか。
2.1 65歳以上無職のシニア夫婦世帯・毎月の収入内訳
- 収入合計:25万4395円
- うち社会保障給付(主に年金):22万8614円
2.2 65歳以上無職のシニア夫婦世帯・毎月の支出内訳
- 消費支出:26万3979円
- 非消費支出:3万2850円
支出合計29万6829円
平均の上では、1カ月の収入は25万4395円で、支出の合計は29万6829円です。収入のうち約9割にあたる22万8614円が、公的年金などの社会保障給付で占められていました。
一方で支出の内訳を見ると、社会保険料や税金といった「非消費支出」が3万2850円、食費や光熱費などの「消費支出」が26万3979円となっています。
毎月約4万2000円が不足する計算になり、この赤字分は貯蓄を取り崩すなどして補うことになると考えられます。そこで重要なのが、現役時代のうちに貯めた「老後資金」というわけです。
3. 【65歳以上・無職夫婦】平均貯蓄額は2494万円
そこで本章では、65歳以上・無職夫婦の貯蓄事情を見ていきます。こちらは総務省統計局の「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」という資料が参考になります。
3.1 貯蓄現在高の推移を追う
2025年時点のデータでは、世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上世帯)の平均貯蓄額は2494万円でした。
- 2019年:2218万円
- 2020年:2292万円
- 2021年:2342万円
- 2022年:2359万円
- 2023年:2504万円
- 2024年:2560万円
- 2025年:2494万円
過去の推移を見ると、平均貯蓄額は増加傾向にあることがわかります。貯蓄の内訳に注目すると、特に有価証券の割合が年々増加している点が特徴的です。
2000万円以上が平均と聞くと、不安に思う方もいるでしょう。しかし平均は一部の大きな値に引っ張られる傾向にあるため、必ずしも実態を表しているとはいえません。
大事なのは、「自分の老後に不足する金額を、しっかり準備できているか」という視点になります。
4. 【最新データ】高齢者世帯の生活意識「苦しい」が52.1%に
厚生労働省は2026年7月、「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」という資料を公表しました。
筆者が興味深く感じたのは、資料の中の「高齢者世帯の生活意識」の項目です。高齢者世帯とは、65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯をいいます。
4.1 高齢者世帯が感じる生活のゆとり
- 大変苦しい:21.0%
- やや苦しい:31.1%
- 普通:41.7%
- ややゆとりがある:5.4%
- 大変ゆとりがある:0.9%
全体の半数を超える52.1%が「大変苦しい」または「やや苦しい」と回答しており、日々の生活に経済的な厳しさを感じていることがわかります。
その一方で、「ややゆとりがある」「大変ゆとりがある」と回答した世帯は合計で6.3%です。
「悠々自適な老後生活」を目指している方にとっては意外な数字だったのではないでしょうか。経済的な余裕を実感できているシニア世帯は、実は少数派であることが示されています。
なお、これらの中間に位置するのが41.7%を占める「普通」と回答した層です。この割合は「苦しい」と感じる層よりは少ないものの、「ゆとりがある」層を大幅に上回っています。
実際、公的年金だけで生活している高齢者世帯は半数以下だというデータもあるのです。
同じく「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」によれば、収入が公的年金・恩給のみである世帯の割合は41.3%だったのです。
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯:41.3%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が80~100%未満の世帯:17.1%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が60~80%未満の世帯:14.1%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が40~60%未満の世帯:13.6%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が20~40%未満の世帯:9.7%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が20%未満の世帯:4.2%
残りの58.7%の高齢者世帯は、公的年金や恩給以外にも何らかの所得があり、それで生活費を補っていることがわかります。
冒頭で見てきた、65歳以上無職世帯の収支状況ともつながるデータとなりました。
年金だけで生活するのは難しい可能性を知り、老後の備えを行うことが重要です。
5. 【筆者のアドバイス】収入・支出・資産、3つの見える化から始めよう
ここまで見てきたように、統計上のモデルケースでは毎月約4万2000円の赤字となる一方、年金額も貯蓄額も世帯ごとの差が非常に大きいのが実情です。
だからこそ、平均値との比較で一喜一憂するのではなく、「わが家の数字」で考えることが老後準備の第一歩になります。
その第一歩としておすすめしたいのが、「収入」「支出」「資産」の3つを一枚に書き出して、全体像を見える化することです。年金見込額は「ねんきん定期便」で確認し、退職後の支出は現在の生活費をベースに見積もれば、毎月の過不足がおおよそ見えてきます。
そのうえで、不足が見込まれる場合の対応策は1つではありません。働く期間を延ばす、固定費を見直す、貯蓄を計画的に取り崩す、資産運用を取り入れるなど、複数の手段をバランスよく組み合わせることが大切です。
相談の現場では「もっと早くやっておけばよかった」と積立投資を挙げる方が多い一方、資産運用には元本割れのリスクがあります。
私自身、若い頃に短期の売買で苦い経験をしたこともあり、生活費の確保を最優先にしたうえで、余裕資金の範囲で長期的な目線で検討することをおすすめしています。
また、退職金の受け取り方や資産の引き継ぎ方によって税金の扱いが変わるケースもあります。判断に迷う場面では、税務署や税理士など専門の窓口に確認しながら進めることをおすすめします。
「収入・支出・資産の見える化」のなかで、私が特に見落とされやすいと感じてきたのは、社会保険料と税金の「非消費支出」の部分です。年金の手取り額は、額面から国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料、所得税、住民税が差し引かれた金額になります。
ねんきん定期便で額面の見込額を確認したあと、市区町村の窓口や税理士に手取りベースでの試算を相談すると、より実感に近い家計設計につながります。運用や積立の判断はそのあとでも遅くありません。
6. まとめ
本記事では、家計収支・貯蓄・生活意識のデータからシニア世帯の暮らしを整理しました。
無職夫婦世帯のモデルケースでは毎月約4万2000円の赤字となる一方、実態は世帯差が大きいのが現実です。
物価高騰が続く中では貯蓄を築いていくことが難しく、貯金だけで貯めていくことは十分な対策と言えないでしょう。
老後生活がスタートする前に十分な貯蓄を確保するため、貯金以外の方法として積み立て投資があります。
資産運用では元本割れのリスクがあるものの、長期的な積立投資は安定したリターンにつながる傾向があるため、早いタイミングからコツコツ進めていきたいですね。
まずはご自身の年金見込額と支出を確認し、必要な備えを検討してみてはいかがでしょうか。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」
川勝 隆登



