日本年金機構が6月3日に更新した「令和8年4月分からの年金額をお知らせする「年金額改定通知書」、「年金振込通知書」の発送を行います」によると、改定後の年金額を知らせる通知書の発送が開始されています。

ご自身の年金額を実際に目にするこの時期は、定年後の生活設計や働き方について改めて考える方も多いのではないでしょうか。

人生100年時代といわれる現代において、公的年金は老後の暮らしを支える大切な柱ですが、実は年金以外にも国から受け取れるお金があることをご存知でしょうか。

筆者はこれまで保険EC事業の立ち上げや責任者として多くの方の人生設計に関わってきましたが、複雑な公的制度を知らないまま損をしているケースは少なくありません。

これらの給付金の多くは、自分で申請しなければ受け取ることができません。

この記事では、60歳代以上の方を対象とした「申請しないともらえないお金」に焦点を当て、老齢年金に上乗せされる給付金や、働き続けるシニアを支える雇用保険関連の手当などを分かりやすく解説します。ご自身の状況と照らし合わせながら、利用できる制度がないか確認してみましょう。

※LIMOでは、個別の相談・お問い合わせにはお答えできません。

中本 智恵
本記事は、厚生労働省および日本年金機構が公表する公式資料を一次情報として参照し、制度内容や数値を確認のうえ、編集部が執筆・監修しています。

1. 長寿化が進む現代、シニア世代の仕事と年金の重要性

内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、65歳から69歳の就業率は男性で6割以上、女性では4割を超えています。

さらに70歳代前半でも、男性の約4割、女性の2割以上が仕事を続けている状況です。

年齢とともに働く人の割合は緩やかに減少しますが、シニア世代全体で見ると就業率は上昇傾向にあります。

一方で、60歳を過ぎると給与が減少するケースは少なくありません。

また、現役時代と同じように希望の職に就けなかったり、健康上の問題で就労が困難になったりする可能性も考えられます。

厚生労働省が公表した「令和6年簡易生命表の概況」によれば、日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.13歳です。

65歳以上のシニア世代にとって、「就労」は「公的年金」と並び、長くなる老後生活を支えるための重要な基盤となっています。

この記事では、シニア世代を対象とした給付金や手当のうち、特に申請が必要な「雇用保険関連の給付」と「公的年金への上乗せ」について、詳しく解説していきます。

2. 【申請が必要】老齢年金に上乗せされる2つの給付金

老齢年金を受け取っている方が、特定の条件を満たした際に、基本の年金額に加えて支給される2つの制度をご紹介します。

2.1 1. 加給年金:年金版の家族手当

「加給年金」とは、厚生年金に20年以上加入していた方が65歳になった時点で、生計を共にしている「年下の配偶者」や「子」がいる場合に年金額が加算される制度です。

これは、年金における「家族手当」のようなものと考えると分かりやすいでしょう。

以下の支給要件を満たし、「65歳未満の配偶者」または「18歳になった年度の末日までの子、もしくは1級・2級の障害を持つ20歳未満の子」がいる場合に、年金が上乗せされます。

加給年金の支給条件について

  • 厚生年金の加入期間が20年(※)以上ある方:65歳到達時(または定額部分の支給開始年齢に達した時点)
  • 65歳到達後(もしくは定額部分の支給開始年齢に達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった方:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)

(※)または、共済組合などの加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降に15年から19年ある場合

それぞれ上記のタイミングで、対象となる配偶者や子がいる場合に年金が加算されます。

ただし、配偶者が被保険者期間20年以上の老齢厚生年金や退職共済年金を受け取る権利がある場合、または障害年金などを受給している場合は、配偶者加給年金額は支給停止となる点に注意が必要です。

2026年度における加給年金の金額

加給年金の加給年金額1/7

加給年金の加給年金額

出所:日本年金機構「加給年金額と振替加算」

2026年度における「加給年金」の年金額は、以下の通りです。

  • 配偶者:24万3800円
  • 子(1人目・2人目):各24万3800円
  • 子(3人目以降):各8万1300円

また、老齢厚生年金を受け取っている方の生年月日に応じて、配偶者加給年金額には3万6000円から17万9900円の特別加算が上乗せされます。

振替加算の概要

配偶者が65歳になると加給年金の支給は終了しますが、一定の条件を満たすことで、今度は配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」として一定額が加算される仕組みがあります。

2.2 2. 老齢年金生活者支援給付金:所得が低い方への支援

「老齢年金生活者支援給付金」は、老齢基礎年金を受給している方のうち、所得や世帯収入が一定の基準を下回る場合に、生活を支援する目的で支給される給付金です。

この給付金は、年金本体とは異なる法律に基づいており、その名の通り「給付金」として位置づけられています。

老齢年金生活者支援給付金の支給対象となる条件

  • 65歳以上で老齢基礎年金を受給している
  • 同じ世帯の全員が市町村民税非課税である
  • 前年の公的年金などの収入金額(※1)とその他の所得の合計が、昭和31年4月2日以降生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である

※1 障害年金や遺族年金といった非課税収入は含まれません。
※2 昭和31年4月2日以降に生まれた方で合計額が80万9000円を超え90万9000円以下の場合、また昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下の場合には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給されます。

老齢年金生活者支援給付金の基準額

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額3/7

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額

出所:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」をもとにLIMO編集部作成

2026年度における老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は、月額5620円となり、前年度から3.2%の増額となりました。

実際の給付金額は、この基準額を基に保険料の納付状況などを考慮して計算されます(後述の①と②の合計額)。

老齢年金生活者支援給付金の計算方法

  • ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
  • ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円 × 保険料免除期間 / 被保険者月数480月

※保険料免除期間に乗じる金額は、毎年度の老齢基礎年金額の改定に応じて変動します。

3. 働くシニア世代が対象となる雇用保険関連の給付金

就労意欲のあるシニア世代を支援する「雇用保険関連」の給付金を3つご紹介します。

3.1 1. 再就職手当(65歳未満の方向け)

再就職手当は、失業した方の早期の再就職を支援するための制度です。

失業期間が短いほど、より多くの手当を受け取れる仕組みになっています。

再就職手当を受け取るための条件

  • 対象者:雇用保険の受給資格者で、基本手当の受給資格を持つ方
  • 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者として再就職するか、または事業主として被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あり、その他一定の要件を満たした場合に支給されます。

再就職手当の給付率の詳細

  • 手当の額:就職日の前日までに失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数に応じて、給付率が以下のように変わります(1円未満は切り捨て)。
    • 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合:「支給残日数の60%」
    • 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合:「支給残日数の70%」

再就職手当の具体的な金額

なお、再就職手当を受け取った後、再就職先で6カ月以上雇用され、その間の賃金が離職前の賃金より低い場合には、「就業促進定着手当」の対象となる可能性があります。

3.2 2. 高年齢雇用継続給付

高年齢雇用継続給付は、60歳から65歳未満で働き続ける方を対象とした給付金制度です。

60歳時点の賃金と比較して、現在の賃金が一定の割合まで低下した場合に支給されます。

高年齢雇用継続給付の支給条件

  • 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者
  • 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満の状態で働き続ける場合

高年齢雇用継続給付の支給率について

  • 支給額:最高で賃金額の10%(※)に相当する額
    ※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たした方は15%

高年齢雇用継続給付の早見表(2025年4月1日以降)

老齢年金を受け取りながら厚生年金に加入し、「高年齢雇用継続給付」を受給する場合、在職老齢年金制度による支給停止に加えて、最大で標準報酬月額の4%(※)相当額が年金から支給停止される点に注意が必要です。
※2025年3月31日以前に支給要件を満たした方は6%

3.3 3. 高年齢求職者給付金(65歳以上の方向け)

高年齢求職者給付金は、65歳以上の雇用保険加入者が失業した場合に、一時金として支給される制度です。

高年齢求職者給付金の支給対象と条件

  • 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した方
  • 支給要件:以下のすべての条件を満たす必要があります。
    1. 離職日以前1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上あること
    2. 失業の状態にあること(就職への積極的な意思と能力があり、求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態)

高年齢求職者給付金の給付額

  • 支給額
    • 被保険者であった期間が1年未満の場合:基本手当の30日分に相当する額
    • 被保険者であった期間が1年以上の場合:基本手当の50日分に相当する額

65歳未満の方が受け取る基本手当(いわゆる失業手当)が4週間に一度の認定を経て分割で支給されるのに対し、高年齢求職者給付金は一括で支給される点が大きな特徴です。

4. 2025年年金制度改正のポイント:遺族年金の見直し

2025年6月に成立した「年金制度改正法」の主な目的の一つは、働き方や家族構成の多様化に対応した年金制度を構築することです。

この改正では、社会保険の適用拡大(いわゆる「106万円の壁」の見直し)に加え、遺族年金に関する重要な変更も含まれています。

4.1 遺族厚生年金における男女差の是正

現行の遺族厚生年金制度には、受給者の性別によって以下のような違いが存在しました。

現行の遺族厚生年金制度

  • 女性
    • 30歳未満で配偶者と死別:5年間の有期給付
    • 30歳以上で配偶者と死別:無期給付
  • 男性
    • 55歳未満で配偶者と死別:給付なし
    • 55歳以上で配偶者と死別:60歳から無期給付

このような男女間の差異を解消するための見直しが、2028年4月から施行される予定です。

改正後の制度(2028年4月施行予定)

改正後は、「原則5年間の有期給付」の対象となるための要件が、男女共通でより詳細に規定されました。

  • 女性:施行直後(2028年4月)に原則5年間の有期給付の対象となるのは、「18歳年度末までの子がいない、2028年度末時点で40歳未満の方」です。(※既に受給中の方や、2028年度に40歳以上になる女性は影響を受けません。)
  • 男性:新たに5年間の有期給付の対象となるのは、「18歳年度末までの子がいない60歳未満の方」です。
  • 子がいる場合:18歳年度末までの子がいる場合は、子がその年齢に達するまでは現行制度と同様で、見直しの影響はありません。子が18歳年度末に達した後、さらに5年間は増額された有期給付および継続給付の対象となります。

4.2 有期給付と継続給付の拡充内容

特別な配慮が必要な場合の給付についても、金額や要件がより具体的になりました。

  • 有期給付の増額:有期給付には新たに「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金額の約1.3倍に増額されます。
  • 継続給付の要件:5年間の有期給付が終了した後も、障害状態にある方や収入が不十分な方は、引き続き増額された遺族厚生年金を受給できます。単身者の場合、就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下であれば継続給付が全額支給され、月額20万円から30万円程度を超えると全額が支給停止となります。

また、今回の改正では「遺族基礎年金」の見直しも行われました。

これまで同一生計の父または母がいて遺族基礎年金を受け取れなかった場合でも、2028年4月からは、子が単独で「遺族基礎年金」を受給できるようになります。

5. まとめ

今回は、60歳代以上のシニア世代が対象となる、申請しないと受け取れない公的給付金について解説しました。

老齢年金に上乗せされる「加給年金」や、働き続ける方を支援する「高年齢雇用継続給付」など、様々な制度が用意されています。

これらの制度は、ご自身の状況によって対象となるかが異なり、また自動的に支給されるものではないため、自ら情報を集めて手続きをすることが重要です。

本格的な夏を迎え、ライフプランを見直す良い機会かもしれません。

まずは日本年金機構のウェブサイトや、お近くの年金事務所、ハローワークなどで、ご自身が利用できる制度がないか確認してみてはいかがでしょうか。

少しの手間が、将来の安心につながるかもしれません。

参考資料

橋本 優理