1. 60歳男性、資産運用ゼロで定年退職を控え「もう遅い?」と後悔…現役IFAが伝えた「60歳からの運用のはじめ方」3つ

「もっと早く、資産運用を始めていればよかった」ー定年が近づいて老後資金と向き合ったとき、そのような後悔がこみ上げてくる方は少なくありません。

厚生労働省「令和7(2025)年簡易生命表の概況」によれば平均寿命は男性81.35年、女性87.33年となり、男女ともに延びています。今後も平均寿命が延びると考えられ、昨今の物価高ではより老後資金へ不安を感じる方も多いでしょう。

とはいえ、悔やんでいるだけでは資産は増えません。大切なのは、その後悔を「今からの一歩」にどう変えるかでしょう。

今回は、資産運用の経験がないまま60歳の定年を迎えようとする会社男性の悩みを例に、日々の面談の中で今からでもできることとしてIFAである筆者が提案している内容を解説します。

1.1 【60歳男性・定年退職前の後悔】運用は退職金が入ってから考えるつもりでいたが…

60歳の定年退職を控えた男性が直面したのは、「これまで資産運用をまったくしてこなかった」という後悔でした。預貯金は数百万円規模あり、毎月コツコツ貯めてはきたものの、「増やす」という発想を持たないまま定年間際を迎えていたのです。

実際に老後資金として必要な金額を試算してみると、想定よりもはるかに大きいことがわかります。「こんなに必要だとは思わなかった。もっと早く始めていれば…」という思いが募ったとのことです。

住宅ローンは残り数年で完済の見込みで生活の土台はできているだけに、なぜもっと早く一歩を踏み出さなかったのか…という悔しさは簡単には拭えません。退職金が入ってから考えるつもりでいたものの、いざ数字を突きつけられると運用の知識もなく、何から手をつければよいのかもわからない。定年までの残り時間で、今からできることなどあるのだろうか…そんな不安も重なっていました。

 筒井 亮鳳
IFAの立場からみると、この後悔の本当の原因は「始めるのが遅すぎた」という事実そのものではありません。「今日からでも始められる」と気づくまでに、時間がかかってしまったことにあります。過去は変えられませんが、これからの時間はまだ残っています。「もう60歳だから」と年齢を言い訳にして立ち止まるほど、もったいないことはありません。大切なのは、完璧を目指して動けなくなるのではなく、無理のない一歩から踏み出すことです。次に、その具体的な進め方をみていきましょう。

1.2 現役IFAが「60歳で資産運用の経験ゼロでもできる3つ」をアドバイス

実際に現役のIFAである筆者が60歳を迎えて資産運用をはじめる方に、日々の面談で伝えているポイントを解説します。

まずは「少額から始める」ことです。退職金というまとまったお金を、一括でいきなり投じる必要はありません。まずは月に数万円といった、家計に無理のない金額からはじめれば十分です。少額の積立で投資そのものに慣れておくと、大きなお金を動かす前に心の準備ができ、心理的なハードルも下がります。

たとえば、クレジットカードでの積立にすればポイントが貯まる仕組みもあり、負担を抑えながら続けやすくなります。「今が一番早い」と捉え直し、まずは口座を開くところから動き出すことが、何よりの一歩になります。

次に「分散する」ことです。いきなり一つの商品に絞り込むのではなく、成長が期待される国や地域も含めて、複数の投資信託を組み合わせておきます。値動きの異なるものに分けておくことで、一つの資産が不調のときの影響をやわらげられます。

運用が初めてで、どれが正解かわからないときほど、一点に賭けず、幅を持たせておくことが安心につながります。

最後に「相場を見ながら見直す」ことです。最初から完璧な配分を目指す必要はありません。まずはこの比率で始めてみて、相場の状況を見ながら金額や配分を調整していく。そう考えれば、経験がなくても一歩を踏み出せます。

「はじめた後に整えていけばよい」と考えることが、動き出すための後押しになります。少額からはじめ、分散し、相場を見ながら見直す。この三つを押さえれば、60歳からでも老後資金づくりは間に合うでしょう。

2. 【監修者コメント】厚生年金のモデル夫婦の年金額は23万7279円。65歳以上の生活費は「赤字」がふつうに

定年近くになってから「思ったよりも老後資金が必要だった」「今から運用をはじめたいけど年齢的に遅い?」と悩む方は少なくありません。

2.1 年金不足や生活費の赤字に悩む人も。監修者コメントつき

老後の平均的な年金と生活費1/1

老後の平均的な年金と生活費

出所:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)―2025年(令和7年)平均結果の概要」と厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」をもとに筆者作成

厚生労働省によれば、令和8年度の厚生年金のモデル夫婦の年金額は23万7279円(※男性の平均的な収入で40年間就業した場合の老齢厚生年金と、2人分の老齢基礎年金の満額の合計)。月23万円台で税金と社会保険料を払いながら生活できるかというと難しく、家計は毎月赤字というご家庭も少なくありません。

実際に総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から65歳以上の夫婦のみの無職世帯の生活費をみると、平均で月4万2434円の赤字です。

「もっと早くはじめていれば」という後悔は、それだけ真剣に老後資金と向き合っている証でもあるでしょう。ただ過去を悔やむ時間は、これからの準備には使えません。

証券会社に勤めていた時代に感じたのは、資産運用に「遅すぎる」と言い切れる年齢は意外とないということです。生活の土台が整い、退職金という原資も見えている60歳は、むしろ落ち着いて始められる時期だと考えられます。

大切なのは大きな金額をいきなり動かして増やそうとするのではなく、無理のない範囲で「慣れながら育てる」こと。少額から始めて投資に慣れ、値動きの違うものに分散し、相場を見ながら段々と慣れていき、少しずつ整えていく。この進め方なら、経験がなくても、大きな失敗を避けながら前に進むことができます。そもそも投資は誰しも完璧にできませんから、慣れていくことが大切なのです。完璧な正解を最初から探す必要はありません。はじめてみて、確かめながら調整していけばよいのです。

宮野茉莉子

定年は、これまでの働きをねぎらう区切りであると同時に、お金と新しく向き合い直す出発点でもあります。まずは、老後に必要な金額を試算し、無理のない積立を一つ設定してみることから始めてみてはいかがでしょうか。今日が、これからでいちばん早い日です。

2.2 国民年金、厚生年金、NISA…老後に向けた資産形成で知っておきたい用語の解説

最後に本文で触れた言葉の中から、老後資金の確認と資産形成を行う中で知っておきたい言葉をご紹介します。

  • 国民年金:20歳以上60歳未満のすべての人が加入する公的年金の土台(1階部分)で、老後は「老齢基礎年金」として受け取ります。自営業・フリーランスから会社員まで共通して加入します
  • 厚生年金:会社員や公務員が加入する公的年金で、国民年金(基礎年金)に上乗せされる「2階部分」にあたります。保険料や受け取る額は、現役時代の報酬や加入期間に応じて決まります。厚生年金を平均的な15万円以上もらえる人の割合はこちら。
    • 年金の仕組みや、国民年金と厚生年金の年金の平均受給額、また1万円刻みで受給権者数を解説している年金一覧表の記事はこちらをご確認ください。平均はいくらなのか、金額ごとにどれくらいの人が受け取っているか、おおよそ把握する目安になります。
  • NISA:投資で得た利益にかかる税金が、一定の範囲で非課税になる制度です。年齢にかかわらず利用でき、これから始める人にも向いています。NISA制度の詳しい説明と、積立投資のシミュレーション(毎月5万円を15年間、年利1〜5%での運用)はこちらで解説しています。
  • 積立投資(つみたて):毎月など決まったタイミングで、一定額をコツコツ買い付けていく方法です。少額から始められ、買う時期を分けることで購入単価を平準化していきます。
  • 分散投資:値動きの異なる資産や地域に資金を分けて持つことで、一つが値下がりしたときの影響をやわらげる考え方です。

参考資料

筒井 亮鳳