2. 限界利益率の高さの源泉「垂直統合型モデル」
村田製作所が持つもう一つの大きな強みが、他社には真似できない独自のビジネスモデルです。それが「垂直統合型モデル」と呼ばれる仕組みです。
一般的なメーカーは、外部から材料を仕入れ、外部の機械メーカーから製造装置を買ってきて製品を作ります。しかし、村田製作所は異なります。
MLCCの材料となるセラミック(土)の配合ノウハウから、それを作るための製造装置自体に至るまで、すべて自社で開発・製造しているのです。
2.1 利益が爆発的に伸びる収益構造
この垂直統合型モデルは、企業の収益構造にどのような影響を与えるのでしょうか。泉田氏は「限界利益率(売上が増えた際に、どれだけ利益が増えるかを示す割合)」の高さに直結していると分析します。
「垂直統合型モデルってもちろん内部にR&D(研究開発)も抱えなきゃいけないし、ものづくりする機能も必要なんで固定費高くなりがちなんだけど、1回売上が増えると全部利益なんだよね」
すべてを自前で用意するため、平時の固定費は高くなります。しかし、一度損益分岐点を超えて売上が伸び始めると、外部から新たに機械や技術を買ってくる必要がないため、増えた売上の大部分がそのまま利益として手元に残る構造になっています。
「売上が増えるステージに入ったら村田の利益がドンって増えると、マーケットも知っているんですよ」
泉田氏がこう指摘するように、AI需要の拡大によって大量の注文が入り、工場の稼働率が上がれば、村田製作所の利益は加速度的に伸びていきます。
これが、同社が部品メーカーでありながら高い収益力を誇る最大の理由です。
3. 業績見通しを読み解く:利益横ばいから一転、大幅増益へ
このような強固なビジネスモデルを持つ村田製作所の実際の業績はどのように推移しているのでしょうか。
直近の決算発表(2026年3月期通期)と、次期(2027年3月期)の業績予想を紐解いてみましょう。
2026年3月期の実績は、売上収益が前期比5.0%増の1兆8,308億円(1,830,856百万円)と増収でしたが、本業の儲けを示す営業利益は2,818億円で前期比0.8%増、最終的な純利益も2,339億円で前期比横ばいという結果でした。
売上が伸びているのに利益が増えていないという、やや物足りない着地となっています。
しかし、注目すべきは2027年3月期の業績予想です。会社側は、売上収益が7.1%増の1兆9,600億円、営業利益が34.8%増の3,800億円、純利益が25.3%増の2,930億円と、一転して大幅な増収増益を見込んでいます。
3.1 増益の鍵を握る「操業度益」と「品種構成の良化」
なぜ次期はこれほどまでに利益が急拡大する予想になっているのでしょうか。決算説明会資料では、その理由として「操業度益」と「品種構成の良化(プロダクトミックスの改善)」が挙げられています。
操業度益とは、工場の稼働率が高まることで製品1個あたりの固定費負担が下がり、利益が出やすくなる効果のことです。
前述した垂直統合型モデルの強みがまさにここで発揮されます。AIデータセンター向けの注文が大量に入ることで工場がフル稼働し、限界利益率の高さが業績を押し上げるのです。
さらに、品種構成の良化について泉田氏は次のように解説します。
「同じ1個を売るにしても、安いものじゃなくて高いものが売れるので利益率が高くなりますよ、と言っていますね」
AIサーバー向けに要求される高品質なコンデンサは、スマートフォン向けなどの汎用品に比べて単価が高く設定されています。
つまり、「たくさん作れるようになって効率が上がる」ことと、「単価の高い製品がよく売れる」という2つの強力なエンジンが同時に回ることで、2027年3月期の大幅な増益予想が導き出されているのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日