3. 市場予想(コンセンサス)はどこまで織り込んでいるか
村田製作所の業績予想が市場から高く評価されている背景には、同社特有のビジネスモデルがあります。同社は、材料の配合から製造装置の開発までを自社で手がける「垂直統合型モデル」を採用しています。
このモデルは、研究開発や設備投資に多額の費用がかかるため固定費が高くなりがちですが、ひとたび損益分岐点を超えて売上が増え始めると、利益が爆発的に伸びるという特徴を持っています。
外部から調達するコストが少ないため、売上の増加分がそのまま利益に直結しやすい(限界利益率が高い)のです。
現在、AIサーバー向けなどデータセンター関連の需要増によって工場の稼働率が高まっています。
さらに、AIサーバーに搭載されるコンデンサは、大電流を安定させるために極めて高い品質が求められるため、単価の高い製品が飛ぶように売れています(プロダクトミックスの改善)。
稼働率の向上と高単価製品の販売増が組み合わさることで、利益率が急上昇する局面に突入しているのです。
3.1 会社予想を上回るIFISコンセンサスの実態
では、現在の垂直上昇した株価は、こうした好材料をどこまで織り込んでいるのでしょうか。泉田氏は、外部の市場予想である「IFISコンセンサス」のデータを用いて、市場の期待値を読み解きます。
会社側が発表した次期の予想は、売上1兆9,600億円、営業利益3,800億円です。しかし、複数の証券アナリストの予想を平均したIFISコンセンサス(市場予想)を見ると、売上は1兆9,878億円、営業利益は4,000億円を超えています。
つまり、市場のプロたちは、会社が提示した大幅な増益予想でさえ「まだ保守的だ」と判断し、為替のプラス効果やデータセンター需要の伸びをさらに上乗せして評価しているのです。
現在の株価の強さは、こうした市場の極めて高い期待を反映した結果と言えます。
4. 投資家が警戒すべき「逆回転」の危険シグナル
株価が急騰し、市場が強気に傾いている時こそ、投資家は冷静にリスクを見極める必要があります。「逆回転の危険シグナル」が気になる方も多いでしょう。これに対し、泉田氏は明確に「在庫(棚卸資産)」の動向を挙げました。
「今は注文がいっぱい来てるから在庫は貯めないといけない。貯めてどんどん出せたら一番いいんだけど……ただキャンセルが来た時に在庫どうするのって話じゃない」
決算説明会資料によれば、2026年3月末の棚卸資産は5,205億円と、前期比で376億円増加しています。もちろん、売上が伸びている局面で生産を増やせば、それに伴って在庫が増えるのは健全な動きです。
しかし、泉田氏が警告するのは「売上の伸び率以上に在庫が急増し始めた場合」です。特に、顧客の仕様に合わせて作られた高単価な部品は、一度キャンセルされて在庫になると、他の顧客への転用が難しくなります。
もし将来、顧客側で設備投資の過剰感が台頭し、注文のキャンセルが発生すれば、積み上がった在庫が業績の重荷となり、株価が逆回転する引き金になりかねません。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日