ではここで、少し視点を変えてみましょう。

今回、小学2年生の女の子のママAさんにお話を聞くことができました。Aさんはかつて、ママ友にマウンティングしてしまい、それが原因でトラブルに発展した経験があるのだそうです。

「きっかけは些細なことでした。主人は大手企業で働いているのですが、ポロリと主人の働いている会社名を言うと、ママ友みんなが『すご~い!』と羨望のまなざしで私を見てくれたんです。『そんなことないよ』と言いながらも、なんだかすごく気分がよくて…」

それまでAさんは、子育てしている自分にまったく自信がなかったのだとか。
「まわりのみんながかわいい洋服を手作りしたり、美味しそうなお菓子を作ってインスタにアップしたりしているのをみて、『自分は何もとりえがない』と落ち込んでいたんです。それが、主人の会社名を伝えただけで、みんなの態度ががらりと変わって…。実際は変わってなかったのかもしれないですが、私には変わったように見えたんです」そのときの気持ちが忘れられず、Aさんはことあるごとにご主人の会社の話をするようになったのだとか。

「幼稚園の参観日に夫婦で出席したときに、友達から『パパも来られるなんてうらやましいわ』と言われて、つい『そうなの。主人の会社はとても理解があるいい会社だから…。他のご主人を見ていると、大変だなぁって思っちゃう』と言ってみたり、主人の残業の話しになったら『うちも残業というか、会食が多くてあまりご飯をうちで食べてくれないの。でも、それなりのポストだから仕方ないよね…』と言ったり。主人の話をするとみんなが『すごいね』と言ってくれるので、優越感にひたっていました」

しかし、だんだんと周りのママはAさんの話に反応を示さなくなります。「どうしたんだろう?と思ったんですが、『みんなひがんでるんだな』くらいにしか思っていなかったんです。そのうち集まりにも呼ばれなくなり、会っても挨拶しかしてくれなくなりました。さすがに凹んで学生時代の友人に相談すると、『あんた、最低じゃん。それマウンティングしてるんだよ』と一喝されました」

自分の言動を省みて、激しい自己嫌悪に襲われたAさん。しかし、時すでに遅し。幼稚園のママ友とはギクシャクしたまま卒園を迎えました。
「娘の通っていた園は、自宅から少し離れたところにあったので、同じ小学校に上がる子がいなかったのが救いです」

そして最後にAさんは「マウントをとる心理」について、こう語ってくれました。「私の場合はですが…、誰かに認めてもらいたい、という気持ちがどんどんエスカレートして、みんなに羨ましがってもらいたい、すごいと思ってもらいたい、という気持ちになったんだと思います。集団の中でチヤホヤされるのが気持ちよくて、もっとチヤホヤしてほしい、と感じるようになったのかな…。でも、その一方で褒められているのは主人の職業で、自分自身は何もない、というむなしさも抱えていました」マウントをとる側の人は、後で自己嫌悪に陥ることもしばしばあるのだな…と感じる発言でした。

マウントはとらない、とらせない

Aさんのように、周囲に気づかせてくれる人がいればいいのですが、自分がマウントをとっている自覚がない、という人がほとんど。また、冒頭で話した通り、たいていは夫や子どものスペックでマウントをとっており、当の本人がとりたててすごい、というわけではないのです。

相手は裸の王様だとわかっていても聞かされる方は、たまったもんじゃありません。誰も幸せになることができない「マウンティング」。もしマウンティングされたら「この人は自分に自信のない可哀想な人なんだな」とこちらが大人になるのが一番、なのかもしれません。

大中 千景