7月に入りました。6月からの年金支給額の改定を踏まえて、家計のやりくりを再確認している方も多い時期ではないでしょうか。
特に、すでに仕事から離れて年金収入をベースに生活している「65歳以上の無職夫婦世帯」にとって、今後の物価動向と手元の貯蓄残高は日々の関心事と言えます。
将来の老後資金を計算する際、「年金だけで生活できるのか」「毎月いくら貯蓄を切り崩すことになるのか」という疑問は、多くのシニア世代が共通して抱えるテーマです。
65歳以上夫婦は、ひと月に平均いくら使い、どのような収支バランスで暮らしているのでしょうか。
本記事では、公的機関の最新データをもとに、65歳以上・無職夫婦世帯のリアルな家計収支や赤字額、平均貯蓄額を詳しく解説します。
さらに、実際の年金受給月額やシニア世帯の生活に対する意識調査、平均寿命などの周辺データを交え、これからの家計管理に欠かせない客観的な指標を提供します。
1. 65歳以上の無職夫婦世帯における家計の収支状況
老後のお金について具体的にイメージするため、総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の家計収支を見てみましょう。
1.1 夫婦のみで暮らす65歳以上・無職世帯の家計収支内訳
1.2 無職の65歳以上夫婦世帯における月々の収入額
- 収入合計:25万4395円
- うち社会保障給付(主に年金):22万8614円
1.3 無職の65歳以上夫婦世帯における月々の支出額
- 消費支出:26万3979円
- 非消費支出:3万2850円
支出合計29万6829円
この世帯の場合、ひと月の収入は25万4395円、その約9割の22万8614円を公的年金などの社会保障給付が占めます。
一方で支出の合計は29万6829円。そのうち社会保険料や税などの「非消費支出」が3万2850円、いわゆる「生活費」にあたる消費支出が26万3979円でした。
この夫婦世帯の場合、毎月約4万2000円の赤字となり、貯蓄の取り崩しなどでカバーすることになるでしょう。
2. 65歳以上の無職夫婦世帯が保有する平均貯蓄額
総務省統計局の「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」より、世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上の世帯)の平均貯蓄額を確認していきましょう。
2.1 世帯主が65歳以上の無職世帯における貯蓄種類別の推移

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」
世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上世帯)の平均貯蓄額は、2494万円でした(2025年時点)。
- 2019年:2218万円
- 2020年:2292万円
- 2021年:2342万円
- 2022年:2359万円
- 2023年:2504万円
- 2024年:2560万円
- 2025年:2494万円
平均貯蓄額は増加傾向にあります。
貯蓄の内訳の推移を見ていくと、とくに有価証券が年々増えていることがわかります。
3. 有職者も含む65歳以上世帯の貯蓄額データ
次に「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」から、働くシニア世帯も含めた、世帯主が65歳以上世帯全体の貯蓄額を見てみましょう。
3.1 2025年版:世帯主が65歳以上の世帯における貯蓄保有額の分布
二人以上で暮らす65歳以上世帯の貯蓄額:平均と中央値の比較
- 平均値:2564万円
- 貯蓄保有世帯の中央値(※):1777万円
働くシニア世帯を含めた65歳以上の二人以上世帯における平均貯蓄額は2564万円です。
ただし、貯蓄現在高が0円の世帯を除いた中央値は1777万円。平均値と約787万円の乖離があります。
平均値が、一部の貯蓄が多い世帯により引き上げられていると考えられます。
4. 国民年金と厚生年金の平均受給額と男女間の差
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2024年度末現在の平均年金月額は以下の通りです。
※厚生年金の被保険者は第1号~第4号に区分されており、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。また、厚生年金の月額には国民年金(老齢基礎年金)部分が含まれています。
4.1 平均月額から見る国民年金・厚生年金の個人差
4.2 国民年金(老齢基礎年金)の平均的な月額
〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
4.3 厚生年金(国民年金部分を含む)の平均的な月額
〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
※国民年金の金額を含む
データを見てまず押さえておきたいのが、厚生年金の平均受給額が約15万円となっている点です。この金額には基礎年金(国民年金)部分も含まれている点には注意が必要です。
厚生年金は、現役時代の収入や加入期間によって受給額に差が出る仕組みのため、平均額はあくまでひとつの目安にすぎません。平均だけを見て判断するのではなく、自身の状況に当てはめて考えることが大切です。
特に女性の場合、働き方の多様化により、今後この平均値も大きく変動していくことが予想されます。こうした背景を踏まえると、将来の生活設計においては「自分はいくら受け取れるのか」を早めに把握しておくことが重要といえるでしょう。
誕生月に届く「ねんきん定期便」や、いつでも確認できる「ねんきんネット」を活用すれば、年金見込み額を具体的に確認できます。現状を把握しておくことで、iDeCoやNISAなどを活用した資産形成も検討しやすくなります。
5. 高齢者世帯が抱える生活への意識調査
厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」から、高齢者世帯(※)の生活意識に関するリアルな結果を見ていきます。
※高齢者世帯:65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯
5.1 高齢者世帯の生活実感に関する調査結果
- 大変苦しい:25.2%
- やや苦しい:30.6%
- 普通:40.1%
- ややゆとりがある:3.6%
- 大変ゆとりがある:0.6%
この調査結果からは、シニア世帯の暮らし向きが、経済状況によって大きく3つの層に分かれている様子が見えてきます。
まず、半数以上(55.8%)が「大変苦しい」「やや苦しい」と回答し、日々の生活に経済的な厳しさを感じています。
その一方で、「ややゆとりがある」「大変ゆとりがある」と回答した世帯は合計してもわずか4.2%。経済的な余裕を実感できているシニア世帯はごく一握りのようです。
そして、これら両者の中間にあたるのが、40.1%を占める「普通」と回答した層です。この割合は「苦しい」層には及ばないものの、「ゆとりがある」層を大きく上回りました。
経済的な余裕があるとは言えないものの、堅実に暮らす一定数のシニア世帯が、厚い中間層を形成している様子もうかがえます。
6. 最新データに見る平均寿命と平均余命(令和6年簡易生命表より)
私たちは日頃「平均寿命」という言葉を何気なく使っていますが、これは0歳の平均余命を指します。
厚生労働省が2025年7月25日に公表した「令和6年簡易生命表の概況」によると、最新の平均寿命は男性が81.09年、女性が87.13年でした。
前年と比較すると、男性は横ばい(▲0.00年)、女性はわずかに下回りました(▲0.01年)。また、平均寿命の男女差は6.03年で、前年より▲0.01年とわずかながら縮まっています。
過去の推移も見てみましょう。
- 昭和22年:男50.06 女53.96 男女差3.90
- 昭和25-27年: 男59.57 女62.97 男女差3.40
- 昭和30年: 男63.60 女67.75 男女差4.15
- 昭和35年: 男65.32 女70.19 男女差4.87
- 昭和40年: 男67.74 女72.92 男女差5.18
- 昭和45年: 男69.31 女74.66 男女差5.35
- 昭和50年: 男71.73 女76.89 男女差5.16
- 昭和55年: 男73.35 女78.76 男女差5.41
- 昭和60年: 男74.78 女80.48 男女差5.70
- 平成2年: 男75.92 女81.90 男女差5.98
- 平成7年: 男76.38 女82.85 男女差6.47
- 平成12年 :男77.72 女84.60 男女差6.88
- 平成17年:男78.56 女85.52 男女差6.96
- 平成22年:男79.55 女86.30 男女差6.75
- 平成27年 男80.75 女86.99 男女差6.24
- 令和2年 男81.56 女87.71 男女差6.15
- 令和3年 男81.47 女87.57 男女差6.10
- 令和4年 男81.05 女87.09 男女差6.03
- 令和5年 男81.09 女87.14 男女差6.05
- 令和6年 男81.09 女87.13 男女差6.03
長期的なデータを見ると、男女ともに平均寿命が大きく延びており、「人生100年時代」が現実味を帯びてきたことを実感することができます。
長くなった老後を豊かに過ごすためには、現役時代からの計画的な貯蓄や資産形成、さらには公的年金制度への理解が大切となってくるでしょう。
7. まとめ:マクロな「平均値」ではなく、ご自身の「手取りと支出」に焦点を当てよう
本記事で紹介したような「毎月の平均的な赤字額は〇〇円」といったデータを見ると、「自分の家計はそこまでマイナスになっていない」と安心したり、逆に「貯蓄が足りないのでは」と焦ったりしがちです。
しかし、家計管理において世間の平均値に合わせる必要はありません。ご自身の老後生活を守るためにまずやるべきことは、以下の2点です。
- 「年金振込通知書」の控除後振込額(手取り額)を確認する
- 直近3ヶ月の生活費を計算し、年金の手取り枠内に収まるように「固定費」を1つだけ見直す
平均寿命や平均貯蓄額は、あくまで日本全体の傾向を示す数字に過ぎません。自身のリアルな手取り額を直視し、その範囲内で生活を営む仕組みを作ること。
客観的な数字に基づく地道な支出管理こそが、インフレ時代を乗り切る方法となるでしょう。
8. 【監修者のコメント】この記事の総括とこれからの実務上の注意点
本記事で取り上げられている『65歳以上・無職夫婦世帯の家計収支データ』は、ご自身の老後資金計画を見直すうえで有益な判断材料となります。
『世間の平均生活費』や『平均赤字額』といった目安の数字に過剰に引っ張られ、ご自身の本来の暮らしのサイズを見失っている人もいるかもしれません。
統計上の平均値は、一部の極端な家計データによって引き上げられているケースが多々あります。
そのため、平均的な赤字額を埋めようと無理な資産運用に手を出したり、必要以上に生活を切り詰めたりするのは避けるべきです。
第一に優先すべきは、ご自身・ご夫婦の『年金の手取り額』を正確に把握することです。そして、その枠内に日々の生活費を無理なく収める工夫をすること。この基本セオリーを淡々と実践することが、将来のキャッシュフローを安定させる確実な防衛策となります。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」
- 厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」用語の説明
- 厚生労働省「令和6年簡易生命表の概況」1 主な年齢の平均余命
川勝 隆登