7月15日に厚生労働省が公表した「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」によると、高齢者世帯の平均所得は336.1万円で、そのうち「公的年金・恩給」が61.3%を占めています。多くの方にとって、公的年金が老後の生活を支える重要な収入源となっていることが分かります。
筆者はこれまで1000人以上のライフプランや資産形成のご相談をお受けしてきました。その中で、「自分は将来いくら年金を受け取れるのか分からない」「老後の生活費は足りるのだろうか」といった不安の声を数多く耳にしてきました。
老後の生活設計を考えるうえで大切なのは、まず自分が受け取る年金の目安を知ることです。そのためには、モデルケースだけでなく、実際の平均受給額や年金制度の仕組みも理解しておく必要があります。そうした思いから、今回はこのテーマを取り上げました。
公的年金は原則として偶数月に2か月分まとめて支給されるため、「モデル夫婦なら約47万円」が支給されます。
しかし、この約47万円は厚生労働省が示す「標準的な夫婦世帯」のモデルケースであり、すべての人が受け取れる金額ではありません。実際の受給額は、国民年金か厚生年金か、加入期間や現役時代の収入などによって大きく異なります。
この記事では、公的年金制度の基本的な仕組みを整理するとともに、2026年度のモデル年金額や、厚生年金・国民年金それぞれの平均受給額、男女差などについて分かりやすく解説します。
1. この記事の3つのポイント
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年金支給額「約47万5000円」は特定の夫婦世帯を前提としたモデルケース -
2026年10月に「106万円の壁」の賃金要件が撤廃され、モデルケースの前提が変わるかも -
妻が厚生年金に加入する世帯が増えれば、将来の年金額は増える一方、モデルケースとの実態のズレが拡大
2. 公的年金は「国民年金」と「厚生年金」の2階建てで構成
日本の公的年金制度は、土台となる「国民年金」と、その上乗せとして支給される「厚生年金」の2階建て構造となっています。
国民年金は、原則として日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する制度で、公的年金の基礎部分にあたります。
国民年金保険料(※1)は加入者全員が同じ金額である一方、厚生年金は会社員や公務員などが国民年金に上乗せして加入する制度で、保険料(※2)は毎月の給与や賞与に応じて決まります。
国民年金は、保険料を480カ月すべて納付すると、65歳から満額(※3)の老齢基礎年金を受け取ることができ、納付していない期間がある場合は、その期間に応じて受給額が減額されます。
厚生年金は、加入期間や納付した保険料の額に応じて受給額が決まる仕組みのため、公的年金の受給額は人それぞれ異なります。
なお、厚生労働省が毎年公表する「年金額のモデルケース」は、おおよその目安として参考にできます。
2026年度のモデルでは、「標準的な夫婦世帯」の場合、6月15日の年金支給日に約47万5000円が振り込まれる水準となっています。
※1 国民年金保険料:2026年度は月額1万7920円
※2 保険料額は標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算される
※3 国民年金の満額:2026年度は月額7万608円
3. 6月15日の年金支給日は「4月分・5月分」の2カ月分をまとめて受給
公的年金は、原則として偶数月の15日に支給されます(※)。
そのため、6月15日の支給日には4月分と5月分、合わせて2カ月分の年金が振り込まれました。
厚生労働省によると、2026年度の年金額例は以下のとおりです。
※15日が土日祝日の場合、直前の平日に前倒しされます。
- 国民年金(老齢基礎年金):7万608円(1人分※1)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2)
※1 昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円
※2 平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準
モデル世帯では、夫婦2人分の年金は月額23万7279円です。
これは「夫の老齢厚生年金」と「夫婦2人分の老齢基礎年金」を合計した金額となります。
年金は2カ月分まとめて支給されるため、6月15日の支給額は47万4558円となり、「約47万5000円」と案内されています。
4. 「約47万5000円」を受け取る標準的な夫婦とは?
1回の支給で約47万5000円を受け取る「標準的な夫婦世帯」とは、厚生労働省が示すモデルケースに基づくものです。
厚生労働省では、次のような世帯を想定しています。
男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45.5 万円)で 40 年間就業した場 合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。
引用:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします ~年金額は前年度から国民年金(基礎年金)が 1.9%の引上げ 厚生年金(報酬比例部分)が 2.0%の引上げです~」
このモデルでは、夫は平均標準報酬月額45万5000円(年収換算約546万円)で40年間勤務した会社員などを想定しています。
一方、妻は専業主婦や扶養内で働いていたケースを前提としており、厚生年金には加入せず、国民年金のみを受給する設定です。
この条件で夫婦の年金額は月23万7279円となり、支給日には2カ月分の47万4558円がまとめて振り込まれます。
なお、実際の振込額は老齢年金から住民税や介護保険料などが特別徴収(天引き)されるため、額面どおりにはなりません。
控除内容や実際の振込金額は、毎年6月頃に送付される「年金振込通知書」などで確認できます。
1回の支給額だけを見ると約47万5000円と大きく感じられますが、2カ月分を合算した金額であり、1人あたりの月額に換算すると、必ずしもゆとりのある水準とは限りません。
また、公的年金は給与のように毎月支給されるのではなく、2カ月ごとの受け取りとなるため、家計管理の方法も現役時代とは異なる点を意識しておくことが大切です。
4.1 モデルケースと実際の受給額はどれくらい違う?
前章で紹介した厚生労働省が公表している「約47万5000円」は、標準的な夫婦世帯を想定した「2人分・2カ月分」のモデルケースです。
そのため、この金額がすべての年金受給者に当てはまるわけではありません。
実際の公的年金は、加入していた年金制度や加入期間、現役時代の収入などによって受給額が異なります。
5. モデル世帯の前提が崩れる?「年収106万円の壁」2026年10月撤廃の最新動向
前章で紹介した「標準的な夫婦世帯」のモデルケースには、実は重要な前提が隠れています。厚生労働省が想定する妻の働き方は、「国民年金保険料の未納期間がなく、厚生年金には加入していない」、つまり社会保険の扶養内で働くパートやアルバイトという立場です。
このモデルケースの前提そのものが、2026年に大きく変わろうとしています。
5.1 「106万円の壁」とは何か
パート・アルバイトが勤務先で社会保険(厚生年金・健康保険)に加入するかどうかの分岐点となってきたのが、いわゆる「106万円の壁」です。従業員51人以上の企業(特定適用事業所)で、月収8.8万円(年収106万円相当)以上働くと、社会保険への加入義務が生じる仕組みでした。
この壁を避けるために、意図的に働く時間を抑える「働き控え」が課題として指摘されてきました。
5.2 2026年10月に賃金要件が撤廃予定
2025年6月に成立した年金制度改正法により、この「月収8.8万円」という賃金要件は、2026年10月に撤廃される予定です。全都道府県の最低賃金が時給1,016円を超えたことで、週20時間以上働けば自動的に月収8.8万円以上になるため、賃金要件自体の意味がなくなったことが背景にあります。
撤廃後は、賃金の額にかかわらず「週20時間以上勤務」が社会保険加入の主な基準になります。なお、企業規模の要件(現行は従業員51人以上)は2027年10月から段階的に縮小され、2035年10月には全企業が対象となる予定です。
6. モデルケースの妻が「厚生年金に加入する側」になったら
これまでのモデルケースは、妻が扶養内で働き、厚生年金には加入しないという前提でした。しかし壁が撤廃されれば、週20時間以上働く妻の多くが厚生年金に加入することになります。
保険料負担が生じる一方で、将来の年金額は増えます。目安として、月収9.8万円程度で20年間加入した場合、将来受け取る年金額は年間で約12万円増えるとされています。加えて、傷病手当金や出産手当金といった、これまで扶養内では受けられなかった給付も対象になります。
つまり、これまで「夫の年金+妻の国民年金のみ」で計算されていたモデルケースの約47万5000円という金額は、妻自身が厚生年金に加入する世帯が増えるにつれて、実態とのズレがさらに広がっていく可能性があります。
6.1 混同しやすい「130万円の壁」は別制度として残る
なお、社会保険の被扶養者認定の基準となる「130万円の壁」は、106万円の壁とは別の制度であり、撤廃されるわけではありません。2026年4月からは、これまでの「残業代を含めた見込み額」ではなく、労働契約書に記載された基本収入で判定される方式に変更されています。
一時的な収入増だけでは扶養から外れなくなった点は、パートで働く人にとって覚えておきたい変更点です。
7. 元銀行員の視点から:「106万円の壁」撤廃で変わる、夫婦世帯のマネープラン

銀行員時代、パートで働くご主婦の方から「扶養の範囲内で働きたいけれど、どこまでなら大丈夫か」というご相談を数多く受けてきました。多くの方が「106万円の壁」を意識して勤務時間を調整されていましたが、この壁が2026年10月に撤廃されるというのは、これまでの働き方の前提を大きく揺るがす変化だと感じています。
記事にもあるとおり、これまでのモデルケースは「妻は扶養内で厚生年金に加入しない」という前提で成り立っていましたが、壁の撤廃によって週20時間以上働く方の多くが厚生年金に加入することになります。窓口時代の実感としては、「扶養から外れると損」という発想で働き控えをされる方が多い一方、実際に厚生年金に加入した場合の将来の年金額や、傷病手当金・出産手当金といった給付面のメリットまで含めて比較検討されている方は、意外と少なかったように思います。
目の前の手取りが多少減ったとしても、将来受け取る年金額が増えるという長期的な視点は、老後の生活を考えるうえで軽視できないポイントです。とくにこれから制度改正が段階的に進む中、ご自身が「壁を避け続ける」か「積極的に加入する」かを選べる立場にある方は、目先の収入だけでなく、将来の年金額や万一の際の給付まで含めたトータルでの比較を、早いうちから行っていただきたいと思います。ねんきん定期便やねんきんネットを活用しながら、ご自身の働き方が将来の年金にどう影響するのかを、この機会に確認してみてはいかがでしょうか。
8. 自分の年金見込額を事前に確認しておこう
今回は、公的年金の仕組みと2026年度のモデルケース、そして年金額の男女差や制度改正の動向について解説しました。
「標準的な夫婦世帯で47万5000円」という数字は、あくまで特定の働き方を前提とした目安であり、2026年10月の「106万円の壁」撤廃によって、この前提となる働き方自体が今後変化していくことが見込まれます。
ご自身やご家族の年金がどう変わっていくのか、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」を活用しながら、制度改正の動向にも注目しておくことをおすすめします。
参考資料
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」
筒井 亮鳳

