2026年6月を迎え、各自治体から届く住民税の決定通知書や、日本年金機構からの年金振込通知書がご自宅のポストに揃い始める時期となりました。
物価高による生活費の圧迫が続くなか、高齢期の生活防衛の要として確実に押さえておきたいのが、ベースとなる老齢年金とは別に用意されている「シニア向けの公的給付」の存在です。
これらの制度は、一定の年齢や働き方、家族構成などの要件を満たせば数十万円単位のまとまったお金や毎月の上乗せを受け取れる心強い味方です。
しかし、落とし穴は「自分から年金事務所やハローワークへ出向いて申請しない限り、国は一切教えてくれないし振り込んでもくれない」という点にあります。
本記事では、定年退職や再雇用、年金受給スタートといった人生の節目で忘れずに手続きすべき「5つの給付金」を一覧で整理し、それぞれの受給条件をわかりやすく解説します。
あわせて、現役シニアの働き方に直結する「最新の年金制度改正」のポイントについても確認していきましょう。
1. 意外と多い?申請しないと受け取れない公的なお金
公的年金(老齢年金・障害年金・遺族年金)は、私たちの暮らしを支える大切なセーフティーネットです。
ただし、支給要件を満たしたら自動的に支給されるわけではありません。年金を受け取るためには「年金請求書」を提出して請求手続きをおこなう必要があります。
国や自治体による「手当」「給付金」「補助金」などの多くもまた、受け取るためには申請手続きが必要です。
申請期限や添付書類などのルールを守れなかった場合、本来受け取れるはずのお金が減額されたり、受け取れなくなってしまったりする可能性もあります。
公的な支援制度を必要に応じて確実に活用するためには、自分がどのような支援内容の対象となるかを理解し、手続きをしっかりおこなうことが大切です。
2. 老齢年金に上乗せできる2つの給付制度
シニア世代の生活を支える公的年金には、通常の老齢年金に加えて、受給額を補完する制度がいくつか用意されています。
今回はその中から、老齢年金を受給している人が一定の条件を満たした場合に、年金に上乗せして受け取れる2つの給付制度を紹介します。
2.1 1. 年金生活者支援給付金
年金生活者支援給付金は、基礎年金を受給中で、かつ一定の所得基準を下回る方を支援するための給付金です。
老齢・障害・遺族の各基礎年金にそれぞれ設けられていますが、ここではシニアの暮らしに直結する「老齢年金生活者支援給付金」について解説します。
支給の条件について
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である
※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される
給付の基準となる金額
2026年度、老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度より3.2%増額されました。
この基準額をもとにして、保険料納付状況等により給付金額が算出されます(下記①と②の合計額)。
給付額の計算方法
- ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
- ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円 × 保険料免除期間 / 被保険者月数480月
※保険料免除期間に乗ずる金額は、毎年度の老齢基礎年金の額の改定に応じて変わります。
2.2 2. 加給年金
加給年金は、いわば「年金の扶養手当(家族手当)」とも例えられる制度です。
老齢厚生年金を受給している方が、年下の配偶者や子どもを扶養している場合、一定の要件を満たすと年金に上乗せして支給されます。
支給の条件について
- 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
- 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)
※または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年
上記の時点で、生計を維持している以下の対象者がいる場合に加算されます。
- 65歳未満の配偶者
- 18歳到達年度の末日までの間の子(または1級・2級の障害状態にある20歳未満の子)
配偶者自身が「被保険者期間が20年以上ある老齢厚生年金や退職共済年金」を受け取る権利がある場合、あるいは障害厚生年金、障害基礎年金、障害共済年金などを受給している場合、配偶者加給年金は支給されません。
給付される金額
「加給年金」の年金額(2026年度の年額)は以下のとおりです。
- 配偶者:24万3800円
- 1人目・2人目の子:各24万3800円
- 3人目以降の子:各8万1300円
さらに、老齢厚生年金を受給する本人の生年月日に応じて、配偶者の加給年金額に3万6000円から17万9900円の特別加算額が上乗せされます。
なお、配偶者加給年金は、対象となる配偶者が65歳に到達すると支給が終了します。ただし、その配偶者が老齢基礎年金を受け取る際、一定の要件を満たしていれば、配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」として引き継がれます。
3. 働き続けるシニア向け|雇用保険から受け取れる3つの給付金
60歳以降も働き続けるシニアが増えている一方で、現実問題として「60歳を境に収入が大きく下がる」ケースは珍しくありません(※)。また、若い頃と違って再就職活動がスムーズに進まないこともあるでしょう。
そんなシニア世代の就労を力強くサポートしてくれるのが、雇用保険の制度です。今回は、知っておきたい「3つの給付金・手当」について、もらえる条件や金額の目安をわかりやすく解説します。
※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円
3.1 1. 65歳未満の方向け「再就職手当」
再就職手当は、早期の再就職を促進するための手当で、「失業~再就職」「失業~事業開始」までの期間が短いほど、支給額が多くなります。
支給の条件
- 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
- 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給
給付率の仕組み
- 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
- 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
- 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」
再就職手当をもらって再就職先で6カ月以上雇用され、その6カ月間の賃金が「前の職場より下がってしまった」という場合には、さらに「就業促進定着手当」というサポートを受けられる可能性があります。
3.2 2. 60歳から65歳未満の方向け「高年齢雇用継続給付」
高年齢雇用継続給付は、「60歳以降も同じ会社などで働き続けるけれど、給与が大きく下がってしまった」という人を経済的にカバーするための給付金です。
支給の条件
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
- 支給条件:賃金が60歳時到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合
支給率の仕組み
- 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%
老齢年金を受給しながら、厚生年金に加入して「高年齢雇用継続給付」を受け取る場合、在職による年金の支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となる点に留意しておく必要があります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%
3.3 3. 65歳以上の方向け「高年齢求職者給付金」
65歳以上で退職・失業した場合、通常の失業手当の代わりに受け取れる給付金です。
支給の条件
- 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
- 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
- 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
- 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す
給付される金額の目安
- 支給額
- 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
- 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額
なお、65歳未満が受け取る「失業手当」は4週間に1回ずつ認定を受けて少しずつ受け取りますが、この高年齢求職者給付金は「一括支給」というのが大きな特徴です。
4. 在職老齢年金の見直しや106万円の壁。シニアが知っておくべき年金改正の重要トピック
2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が衆議院で修正のうえ可決され、年金制度改正法が成立しました。
働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成等の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、私的年金制度の拡充や所得再分配機能の強化などによって、老後の暮らしの安定や、所得保障機能の強化に繋げていくことが主な狙いです。
今回の改正の主な見直しポイントを整理していきましょう。
4.1 主な見直しの概要
社会保険の加入対象の拡大
- 短時間労働者の加入要件(賃金要件・企業規模要件)の見直し(年収「106万円の壁」撤廃へ)
在職老齢年金の見直し
- 支給停止調整額「月65万円」へ大幅緩和(2025年度は月51万円)
遺族年金の見直し
- 遺族厚生年金の男女差を解消
- 子どもが遺族基礎年金を受給しやすくする
保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ
- 標準報酬月額の上限を、月65万円→75万円へ段階的に引き上げ
私的年金制度
- iDeCo加入年齢の上限引き上げ(3年以内に実施)
- 企業型DCの拠出限度額の拡充(3年以内に実施)
- 企業年金の運用の見える化(5年以内に実施)
将来の基礎年金の給付水準の底上げ
- 今後の社会経済情勢を見極めた上で、基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合に、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドを同時に終了させる措置を講じる
こうした内容からも、公的年金制度は現役世代の働き方やライフプランと深い関わりを持っていることが分かります。
5. 6月に届く通知書の点検をスタートラインに。制度変更の波を乗りこなす賢い家計防衛策
60代以降の数年間は、定年、再雇用、完全リタイアなど、働き方やライフステージが目まぐるしく変化する「手続きの要注意期間」です。
今回ご紹介した5つの公的給付は、どれもシニア世代の家計を力強く支えてくれる制度ですが、管轄が年金事務所(日本年金機構)とハローワークに分かれているため、全体像が把握しづらく手続きが漏れてしまうケースもあるでしょう。
また、「年金制度改正法」により、働きながら年金をもらう際の支給停止基準(在職老齢年金)が月額65万円へと大幅に引き上げられ、シニアがより稼ぎやすい環境へと見直しが進んでいます。
その一方で、短時間労働者への社会保険適用拡大(いわゆる106万円の壁の見直し)など、パート収入や手取りに影響する変更も順次予定されています。
「難しくてよくわからないから」と、届いたハガキや会社から渡された書類を放置してしまうのは、もらえるはずだった大切なお金を自ら放棄することに他なりません。
まずは今週末、ご自宅のテーブルの上に届いた通知書や案内を広げ、ご自身の年齢やこれからの働き方に合致する給付がないか、ご夫婦やご家族でしっかりと点検する時間を作ってみてください。
最新の制度変更を正しく理解し、賢く手続きを行うことこそが、セカンドライフの安心を守る確実な一歩となります。
参考資料
- 日本年金機構「初めて老齢年金を請求するとき」年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)様式第101号
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
- 日本年金機構「か行 加給年金額」
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」
- 厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」






