「老後、月々いくらあれば暮らしていけるのか」
蒸し暑さを感じる日が少しずつ増え、季節の移り変わりを実感する頃となりました。夏の賞与や物価の動向が話題になるなか、シニアの年金額改定や将来の生活費について気になり始めている方も多いのではないでしょうか。
まずは、総務省が公表した最新データ(2025年家計調査)をもとに、65歳以上の単身世帯が実際にどの程度の生活費を必要としているのかを見ていきましょう。
65歳以上の生活費

出所:総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
65歳以上の単身無職世帯における消費支出は、月平均14万8445円となっています。一方、税金や社会保険料などを差し引いた可処分所得は11万8465円にとどまり、毎月およそ3万円(2万9980円)の赤字が発生している計算です。
こうしたデータから見えてくる一つの目安が、「月15万円前後」という生活防衛ラインです。
では、公的年金だけでこの水準に届いている人は、実際にどの程度いるのでしょうか。次章では、公表資料をもとに、現役世代のうちから知っておきたい年金受給額の現実について詳しく見ていきます。
1. 【年金制度】国民年金と厚生年金による「2階建て」の仕組みを整理
日本の公的年金制度は、「国民年金(基礎年金)」を土台に、その上へ会社員や公務員などが加入する「厚生年金」が上乗せされる仕組みとなっており、一般的に「2階建ての年金制度」と呼ばれています。
まずは、それぞれの制度がどのような特徴を持っているのかを確認していきましょう。
【1階部分】国民年金(基礎年金)
- 加入対象:原則として日本に住む20歳から60歳未満のすべての人
- 保険料:全員定額、ただし年度ごとに改定される(※1)
- 受給額:保険料を全期間(480カ月)納付した場合、65歳以降で満額の老齢基礎年金(※2)を受給できる。未納期間分に応じて満額から差し引かれる
※1 国民年金保険料:2026年度月額は1万7920円
※2 国民年金(老齢基礎年金)の満額:2026年度月額は7万608円
【2階部分】厚生年金
- 加入対象:会社員や公務員、またパートなどで特定適用事業所(※3)に働き一定要件を満たす人が、国民年金に上乗せで加入
- 保険料:収入に応じて(上限あり)決定される(※4)
- 受給額:加入期間や納付済保険料により、個人差が出る
厚生年金は、企業などに勤める人が基礎年金に加えて加入する制度で、定額制の国民年金とは計算方法が大きく異なります。
この違いによって、将来受け取れる年金額には差が生まれ、どのような働き方をしてきたか、どの程度の収入で働いていたかによって老後の受給額も変わってきます。
また、公的年金は一度決まった金額が固定されるわけではなく、物価や現役世代の賃金動向を踏まえて、毎年度改定がおこなわれる仕組みになっている点も重要なポイントです。
※3 特定事業所:1年のうち6カ月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業など
※4 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算される
2. 【年金制度】2026年度から実施される年金増額改定の内容とは
公的年金の支給額は、物価や賃金の変動を反映する形で毎年度見直されています。2026年度は、国民年金(基礎年金)が前年度比1.9%、厚生年金の報酬比例部分が2.0%引き上げられ、4年連続のプラス改定となりました。
- 国民年金(老齢基礎年金(満額)):7万608円(1人分 ※1)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2)
※1 昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円(対前年度比+1300円)です。
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。
国民年金のみを受給するケースでは、保険料を全期間納めて満額(※3)となった場合でも、月額はおよそ7万円にとどまります。さらに、受給開始を75歳まで繰り下げて増額(※4)したとしても、月13万円には届かない水準です。
※3 国民年金(老齢基礎年金)の満額:国民年金保険料を480カ月納付した場合に、65歳から受け取れる年金額
※4 繰下げ受給:老齢年金の受給開始年齢を66歳~75歳までの間に後ろ倒しする制度。「繰下げ月数×0.7%」の増額率が適用され、75歳で受給開始した場合の増額率は84%。
3. 【年金制度】厚生年金と基礎年金を合わせて月15万円に届く人はどれくらいいるのか?
厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給者の平均受給額は、基礎年金部分を含めて男女合計で月15万289円となっています。
受給額ごとの分布は以下のとおりです。
3.1 厚生年金の受給額ごとの受給権者数
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
厚生年金を月額15万円以上受け取っている人は全体の49.8%にとどまり、半数には達していません。
さらに、この統計は厚生年金受給者のみを対象としているため、そもそも厚生年金に加入していない国民年金のみの受給者を含めて考えると、「月15万円以上」の割合はさらに低くなる点にも注意が必要です。
4. 【年金制度】働きながら年金を受け取る高齢者が増えている背景
老後の暮らしを考えるうえで、「定年後は年金収入だけで生活する」という従来型のイメージは、少しずつ変わりつつあります。
近年は、年金を受給しながら働き続ける高齢者が増えており、その働き方もフルタイムだけでなく、短時間勤務やパート勤務など多様な形へ広がっています。
その背景には、物価上昇による生活費負担の増加に加え、「完全に仕事を辞めるよりも、無理のない範囲で社会とのつながりを持ち続けたい」と考える人が増えていることがあります。
現在の老後は、「年金だけで暮らす」というよりも、年金・貯蓄・就労収入を組み合わせながら家計を支えるスタイルへと変化しつつあります。
4.1 シニア就業率は上昇が続いている
内閣府の調査から、シニアの就業率を見てみると、上昇傾向が続いていることがわかります。
年齢階級別に見ると、75歳以上はおおむね横ばいで推移している一方、65~69歳は53.6%(前年比+1.6ポイント)、70~74歳は35.1%(前年比+1.1ポイント)となっており、シニア世代で働く人の割合は着実に増加しています。
特に近年は、定年延長や再雇用制度の普及が進み、「65歳で完全に引退する」という働き方だけではなくなってきました。加えて、人手不足を背景に、高齢者を積極的に採用する企業も増えています。
こうした流れを受けて、老後も一定の収入を得ながら暮らすスタイルは、以前よりも一般的なものになりつつあります。
「短時間勤務」という働き方が広がる
もっとも、現役時代と同じようにフルタイムで働き続ける人ばかりではありません。
4.2 「短時間勤務」という働き方が広がる
一方で、現役時代と同じような働き方を続ける人ばかりではありません。
実際には、
- 週に数日だけ働く
- 午前中のみ勤務する
- 短時間のパート勤務に切り替える
- 体力に合わせて勤務日数を調整する
といった、柔軟な働き方を選ぶケースが多く見られます。
老後の就労では、「できるだけ多く稼ぐ」というよりも、「生活費を少し補いながら、無理なく長く続ける」という考え方が中心になりやすい点が特徴です。
4.3 「年金+少額収入」で家計を補うケースも多い
高齢期の家計では、毎月数万円程度の赤字が続くケースも珍しくありません。
その不足分を、短時間勤務による収入で補っている人も増えています。
例えば、年金収入だけでは毎月2万〜5万円ほど不足する場合でも、月5万円前後の就労収入が加われば、預貯金を取り崩すペースを抑えやすくなります。
特に高齢期は、医療費や住居費など固定的な支出が続きやすいため、「少し働いて不足分を補う」というスタイルが、家計の安定につながるケースも少なくありません。
4.4 「働ける前提」に偏りすぎない視点も必要
ただし、老後の就労が誰にでも同じように可能とは限りません。
健康状態や体力の変化、家族の介護などによって、働き続けることが難しくなる場合もあります。
そのため、「老後は働けば何とかなる」と考えるのではなく、あくまで選択肢の一つとして捉えておくことが大切です。
現在の老後資金は、「年金だけ」「貯蓄だけ」で支える時代ではなく、複数の収入源や資産を組み合わせながら備えていく方向へ変わりつつあります。
5. 【年金制度】「106万円の壁」見直しと制度改正のポイントを確認
2025年6月に成立した年金制度改正法では、パートやアルバイトなど短時間労働者の働き方に大きく関わる「年収106万円の壁」の見直しが盛り込まれました。
前章で紹介したように、老後も働き続けることを考えている人にとって重要な制度変更となるため、内容を正しく理解しておきたいところです。
5.1 「年収106万円の壁」とは?
一般に「106万円の壁」とは、短時間労働者が年収106万円を超えると、配偶者の扶養から外れ、自身で社会保険(健康保険・厚生年金)へ加入し、保険料を負担する必要が生じる目安を指します。
社会保険料の負担によって一時的に手取り収入が減少することから、あえて勤務時間や収入を抑える、いわゆる「働き控え」の一因とされてきました。
さらに、社会保険の適用範囲はこれまでも段階的に拡大されており、2024年10月以降は、従業員51人以上の企業で働く短時間労働者も対象となっています。
今回の制度改正では、こうした条件の見直しが進められ、「賃金要件の撤廃(3年以内)」と「企業規模要件の段階的廃止(10年程度)」が盛り込まれました。
5.2 「社会保険の加入対象の拡大」短期労働者の加入要件の見直し
2025年時点では、パートタイムなどの短時間労働者が社会保険に加入するためには、次の条件をすべて満たす必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
- 所定内賃金が月額8万8000円以上(賃金要件)
- 従業員数51人以上の企業で働いている(企業規模要件)
今回の改正により、このうち「賃金要件」と「企業規模要件」は順次撤廃される予定です。
いわゆる「106万円の壁」は、最低賃金の上昇動向も踏まえながら、おおむね3年以内に解消へ向かう方向とされています。また、企業規模による適用制限についても、今後10年程度をかけて順次廃止される見通しです。
6. まとめにかえて:これからの年金と働き方をどう考えるべきか
厚生年金は、加入期間が長くなるほど将来の受給額が増えやすい仕組みであり、老後の生活を支える重要な柱のひとつです。どのような働き方を選ぶかが、そのまま将来の年金水準にも影響していく点は見逃せません。
将来受け取れる年金額の見込みは、「ねんきんネット」を活用することでいつでも確認できます。早い段階から自分の受給見込み額を把握しておくことが、現実的なライフプランづくりにつながります。
また、一定条件を満たすことで利用できる給付制度や支援制度も用意されています。年金本体だけでなく、こうした補完的な制度も含めて理解しておくことが大切です。
制度改正によって働き方の選択肢が広がるなか、自身の収入や将来の年金受給額とのバランスを考えながら、無理のない形で老後に備えていく視点がこれまで以上に求められています。





