韓国のLGディスプレー(LGD)は、京畿道坡州市にある坡州P10工場に、テレビ用有機ELパネルの10.5世代(10.5G)ラインを設置することを決めた。これまでは有機ELパネルの駆動回路(バックプレーン)となる酸化物TFTを10.5Gラインで研究開発してきたが、この技術にめどが立ったため、今回新たに有機EL発光層の形成に必要な蒸着ラインを設置することを決定した。10.5Gラインから本格的に量産出荷を開始するのは2021年になるとみられる。

現在は坡州E3、E4でテレビ用を量産

 LGDは現在、世界で唯一テレビ用有機ELパネルを量産しており、世界中のテレビブランドに55インチ、65インチ、77インチを供給している。現在は坡州工場の8.5G「E3」「E4」ラインに月産7万枚分の生産能力を有しているが、ガラス基板のサイズを8.5Gから10.5Gへ大型化することで生産効率を高め、80インチ以上の超大型テレビ用パネルの商品化などを進めるほか、ローラブル(巻き取りができる)や透明タイプなど大型有機ELパネルのラインアップ拡充に取り組む考えだ。

 ちなみに、坡州P10の10.5G工場は、間もなく量産出荷を開始する予定である中国広州のテレビ用有機EL 8.5G工場を新設する際、韓国政府から「韓国国内に最新鋭ラインを整備する」ことを条件として中国進出の認可を受けた経緯があり、LGDは10.5Gでの量産に向けて長年準備してきた。17年に酸化物TFTバックプレーンへの投資を決め、以後は有機EL蒸着技術の実現を進めてきた。

 今回の投資決定により、19年の設備投資額は期初計画どおり8兆ウォンを執行する。坡州P10の10.5G工場には20~23年にかけて継続的に投資する予定だが、20年初頭には最大キャパシティーとなる月間4.5万枚の生産体制を整える予定。20年と21年の設備投資額については19年レベルの半分に抑制し、収益力を高める計画だ。

広州8.5G工場からも量産出荷へ

 また、テレビ用有機ELパネルの出荷をさらに拡大するため、中国広州8.5G工場から量産出荷を開始する。月産能力は6万枚。すでに坡州工場に適用しているMMG(Multi Model on a Glass=1枚のガラス基板でサイズの異なるパネルを生産する手法)を広州工場にも適用し、55インチや75インチの生産量を増やす。
 これにより稼働中の坡州E3、E4ラインとあわせて、19年末までに生産能力がほぼ倍増するため、テレビ用有機ELパネルの出荷量は上期対下期比で30%増、18年対19年比で40%増になると見込んでおり、20年にテレビ用有機ELパネルの出荷量を年間700万枚まで増加させる。なお、テレビ用有機ELの需要動向によっては、広州8.5G工場は月産能力を6万枚から9万枚に高めることも視野に入れている。

スマホ用はアップル供給にめど

 これに加え、スマートフォン用の中小型フレキシブル有機ELの量産出荷も本格化する。LGDは亀尾工場に「E5-1」「E5-2」、坡州工場に「E6-1」「E6-2」という6Gラインを有しているが、19年下期からE6ラインの量産出荷を本格化する。

 主にE5ラインはモバイル製品や自動車、IT用フォルダブルパネルの生産に活用しているが、E6ラインはスマートフォン用にほぼ特化している。量産の本格化に伴い、E6ラインからアップルのiPhone向けに供給を開始するとみられ、これまでサムスンが独占供給してきたiPhone向けサプライチェーンにLGDも加わることになる。

 E6-1ラインでは、有機ELの薄膜封止工程(TFE=Thin Film Encapsulation)にグループ会社のLG PRI製装置を採用したものの、歩留まりの向上に苦慮したといわれている。だが、E6-2ラインには量産実績を多数持つ米Kateeva製のTFE装置を採用し、歩留まりを安定化し向上させることにめどをつけたもようだ。

日本の材料出荷厳格化は「大きな影響なし」

 一方、パネル価格の下落によって収益性が悪化している液晶パネル事業については、引き続き既存ラインの転換を計画している。LGDは8.5Gの液晶パネル製造ラインを3つ有していたが、すでに1つはテレビ用有機ELの製造ラインに転換し、残り2ラインのうち1つでハイエンドIT用と民生用の大型液晶パネルを製造している。残る1つについては稼働調整などを行いつつ運用しているが、「いくつかの転換シナリオを検討している」と述べており、需要動向次第でテレビ用有機ELの製造などに今後転換する可能性がある。

 また、19年4~6月期の決算カンファレンスで日本の材料出荷管理の厳格化について触れ、「これまでのところ大きな影響を与える心配はないが、短期的には中断のない調達を確保し、中期的には調達チャネルを多様化する準備を進めている」と述べた。有機ELの製造に使われるフッ化ポリイミドに関しては、LGDが今後量産を計画しているローラブル有機ELのカバーフィルムに使用されるのではとみられていたが、これは管理厳格化の対象外といわれており、事業化の大きな障害にはならないようだ。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏