台帳の情報をネットで世界中と共有し、記録されたデータの改ざんが不可能といった特長を持つ「ブロックチェーン技術」。ビットコインをはじめとする仮想通貨の取引や、一部金融機関で採用されている、最先端のテクノロジーだ。

 そしていま、この技術を活用することで、西アフリカに位置するシエラレオネ共和国にて、住民台帳や土地管理システムの構築といった社会貢献活動にも取り組んでいるのが、ITベンチャーのレヴィアス株式会社だ。ほかにも、技術力や法律・金融の専門家などのネットワークを活かして、信頼性の高い新しい資金調達方法を提供する事業などを展開する同社の狙いについて、代表取締役の田中慶子氏に話を伺った。

ブロックチェーン技術と既存サービスの融合

――レヴィアスは比較的新しいITベンチャーですが、創業の経緯や概要、これまでの取り組みをお聞かせください。

田中:レヴィアスは2018年に設立しましたが、私自身は不動産や再生可能エネルギー、太陽光発電といった事業を手掛ける事業家として、これまで経営に10年以上携わってきました。こういったビジネスは、企業と銀行などが相対で取引を行いますが、最近であれば銀行による契約書の改ざんがあって金融庁から指導が入ったり、国会でも書面の記載漏れがあるなど、あってはならないことが起きています。要するに、「アナログだとミスなどを避けられない」ということです。

 また既存のネットインフラは、多くのシステムを行き来することで、高いコストが発生します。対面より安価と言われるネットバンクやネット証券であっても、それは手数料として消費者に跳ね返ります。EC(ネット通販)サイトやSNSでも情報漏洩のトラブルは後を絶ちません。

 こういった状況を目の当たりにした上で、われわれが着目したのが、実質的に改ざんが不可能で、一部サーバに不正侵入されてもシステムが正常に動く(専門用語では「ビザンチン耐性」という)などの特長を備えた「ブロックチェーン技術」でした。台帳情報をネットで共有することで、コストダウンもできるといった、注目のテクノロジーです。「Worldwide Semiannual Blockchain Spending Guide」の調査によると、2018年のブロックチェーンの国内市場は49億円ですが、わずか4年後には550億円まで拡大すると言われています。

 かつて、インターネット技術は珍しいものでしたが、いまや誰もが背後にある技術に対してストレスや疑念を感じることなく使いこなせるようになりました。次はブロックチェーン技術が同様のインフラになると考えて、レヴィアスを設立したのです。

「新しい技術と、いままであるサービスとの融合で、イノベーションを果たす」というのが、私たちのミッションだと考えています。スタートアップメンバーには、私のほかに、仮想通貨に精通し、ある流出事件ではホワイトハッカーとして活躍したエンジニアの川崎純真、ブロックチェーンや仮想通貨の創成期から業界に携わり、自社メディアで啓蒙を続けてきた清水彰人を役員に迎え、優秀なディレクターや監査役も加わってくれました。当初は6名でしたが、いまは15名ほどの所帯になっています。また、エンジニアに関しては、案件ごとにパートナー企業にもご協力いただいています。

 設立から1年ほどは、ブロックチェーン技術を活用したシステム開発を請け負っていました。たとえば、仮想通貨取引所のシステムやウォレットの開発です。そして、次のフェーズとして取り組み始めたのが、ブロックチェーン技術と既存のサービスを融合した新たな資金調達法の「STO(Security Token Offering)」でした。

世界の起業家と投資家を結びつける新しい方法

――STOとは聞きなれない言葉ですが、どんなものですか?

田中:STOとは、起業家など発行者がブロックチェーン技術を活用してセキュリティ(証券型)トークンを発行することで資金を調達するという新たな手段です。セキュリティトークンの定義は、専門家によっても異なる部分がありますが、ここでは「価値の裏付けがあるさまざまな資産(有価証券等)に該当する権利が表章されたデジタルトークン」のことを指します。

 欧米では、すでに取り組みが先行しています。ロンドンに本拠を構える総合会計コンサルティングファームであるプライスウォーターハウス・クーパースのレポートによると、2017年には2つのSTO案件が合計で2200万ドル(1ドル=109円で約24億円)を調達し、18年はSTO案件が28に増加して調達額は4億4200万ドル(同約481億円)へ急伸、米国の大型総合アウトレット通販サイト「overstock.com」の子会社tZEROは、18年第3四半期に1億3400万ドル(同約146億円)をSTOで調達しました。米国証券取引委員会(SEC)は、デジタルアセット証券の発行および取引に関する声明で、「証券市場のイノベーションである有益な技術」としてSTOを取り上げています。

 こういった状況を踏まえて、当社では、世界の起業家と投資家をボーダレスにつなぎ、優秀な起業家がグローバルで挑戦できる機会を生み出したいという願いから、STOによる起動的な資金調達をサポートする総合的なソリューションの構築・展開を目指し、2019年3月25日には、日本初の「J-STO」による資金調達を終えています。J-STOというのは、現行の日本法の枠組みの下で組成された事業ファンド(集団投資スキーム)が実施するSTOを指して、当社で提唱している名称です。今後、日本でも導入が進むことは確実ですが、ベンチャーである当社が率先して行うことで、市場を開拓したいという思いがあります。

 起業家などが独自のトークンを発行して資金を調達する手段としては、「ICO(Initial Coin Offering)」が知られています。ただし、こちらは主に金融商品取引業に未登録の会社が実施し、規制の枠組みも漠然としていて、投資家保護は設けられていません。経営状況などを公開しない、ともすれば正体不明の発行者もいて、それが詐欺まがいのトラブルを引き起こしていました。

 対してSTOは、金融商品取引業者の介入があり、規制と保護におけるガイドラインが制定され、投資に際しては重要事項説明書などの情報提供がなされ、投資家を保護する仕組みが整備されています。起業家に対しても徹底したデューデリジェンス(企業の資産価値を適正に評価すること)を実施し、当然ながら経営状況なども公開されます。いわば株式投資に似た透明性が担保されるわけです。かつ、セキュリティトークンの発行に際しては、ブロックチェーン技術が使われているので、情報の改ざんはできません。これにより、スタートアップベンチャーでも機動的に資金を募ることができますし、株とは違って「プロジェクトごと」での調達も可能です。投資家も出資のハードルが下がり、かつ一定の信頼性や安全性が約束されます。

 当社としては、第1号となった自社案件を皮切りに、このJ-STOのスキームを広げていきたい考えです。すでにノウハウのある不動産や太陽光エネルギーの分野では、他社と提携したプロジェクトが始まっていて、今秋には資金調達が完了する見通しです。前者であれば収益物件による賃料収入、後者なら売電収入といった現物資産とトークンが紐づいています。当社としても、ブロックチェーン技術や仮想通貨に精通した専門家・事業者と協働して法律面や技術面を押さえながら、起業家の資金調達をサポートしていきます。

「世界で最も寿命が短い国」で管理プラットフォームを共同開発

――レヴィアスではブロックチェーン技術を活用した社会貢献活動も始めたと聞いています。

田中:はい。それが、西アフリカ西部、大西洋岸に位置するシエラレオネ共和国との共同開発です。2019年2月に同国を訪ねて、政府イノベーション担当官・大統領特別顧問・副大統領などと面談を行い、了解覚書(MOU)を締結しました。

 同国は1991年から2002年まで、10年以上に及ぶ内戦で疲弊し、「世界で最も寿命が短い国」とも言われています(出典:「WHO 世界保健統計 2018年版」に掲載の男⼥の平均寿命統計)。ただ、内戦の終了後に国は安定に向かい、今後は成長への高いポテンシャルを秘めています。とはいえ、住民台帳や教育・人材開発、土地管理といった国家としての基礎的な管理・運営システムは未発達な状況です。

 たとえば、戸籍関連の書類が内戦などで焼失・劣化・散逸してしまい、いつ生まれたのかが正確にわからないという人もいると聞きます。また、鉱業・農業をはじめとする産業の管理システムも確立していません。政府主導で、これらの要素とも結びついた透明性の高い管理システムの開発は急務なのですが、そこで当社の持つブロックチェーン技術に白羽の矢が立った格好です。

 当社の目的は、最新のIT技術を駆使した、国の管理・運営を支える基本的な仕組みの構築です。シエラレオネではスマートフォンは普及しているので、これを使って、あらゆる官公庁の仕組みやそれに伴う権利関係の仕組みをブロックチェーン技術で叶えたいと考えています。結果、安全かつペーパーレス化を含めた生産性の高いプラットフォームの構築が可能になるはずです。仮に多額の資金を要するなら、J-STOの活用も視野に入れています。

 このように、ブロックチェーンやSTOの技術を使い、起業家や国家の成長をサポートするのが、われわれの目指すところです。シエラレオネをきっかけに、広く海外でもビジネスを展開することを考えています。ベンチャーの身軽さを活かして、多くのイノベーションを巻き起こしたいと思います。

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