物価高のなかで、2026年度の年金支給額も上昇しています。しかし、実態は物価上昇には追いつかない程度の伸びで、価値は目減りしています。「老後に年金だけで生活できるのだろうか」と不安に感じている人もいるのでしょう。

老後に年金だけで生活できる人は、どれくらいいるのでしょうか。シニア世代の貯蓄額や生活支出といったデータとも合わせて、老後生活に向けてどう備えていくべきか、考えていきましょう。

1. 年金だけで生活できるシニアは「約4割」

公的年金は定年退職後の生活の貴重な収入源です。実際に年金収入のみで生活できる世帯はどれくらいいるのでしょうか。厚生労働省の「国民生活基礎調査」をもとに、高齢者世帯における公的年金の総所得に占める割合を見ていきましょう。

高齢者世帯における公的年金の総所得に占める割合1/3

高齢者世帯における公的年金の総所得に占める割合

出所:厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」

  • 100%:43.4%
  • 80〜100%未満:16.4%
  • 60〜80%未満:15.2%
  • 40〜60%未満:12.9%
  • 20〜40%未満:8.2%
  • 20%未満:4.0%

年金が所得の100%を占める世帯は約4割となっています。つまり、残りの約6割の世帯は、年金とは別の収入・所得を得ながら老後生活を送っているのです。

年金だけで暮らせる世帯は、高齢者世帯の半数以下に限られます。「年金だけでは暮らせない」と焦るのではなく「年金以外の収入に頼ること」が一般的な老後の生活スタイルであることをおさえておけば、老後に向けた対策も立てやすくなるでしょう。

次章では、65歳以上の夫婦世帯の家計収支を確かめていきます。

2. 65歳以上の夫婦世帯の家計収支

年金だけで暮らせるのは、決して多くはないことがわかりました。では、65歳以上の夫婦世帯の収支は、どのようになっているのでしょうか。総務省の「家計調査」をもとに、65歳以上の無職夫婦世帯の1ヵ月の収支を確かめていきます。

  • 実収入:25万4395円
    ・うち社会保障給付:22万8614円
  • 消費支出:26万3979円
    ・食料:7万8964円
    ・住居:1万7739円
    ・光熱・水道:2万3540円
    ・家具・家事用品:1万1237円
    ・被服及び履物:5354円
    ・保健医療:1万7941円
    ・交通・通信:3万1325円
    ・教育:0円
    ・教養娯楽:2万6538円
    ・その他:5万1341円
     ※四捨五入により、合計と内訳の金額は必ずしも一致しない。
  • 非消費支出:3万2850円
  • 差額:4万2434円

収入と支出には約4万円の差があります。毎月約4万円の赤字が発生している状況です。とくに、税金や社会保険料といった「非消費支出」の負担が3万円と比較的大きくなっています。これらは確実に納めなければならない費用のため、手元から税金や社会保険料が差し引かれることを前提に、家計の管理の仕方を考えていく必要があります。

年金だけで生活費を賄えている場合は心配いりませんが、そうでない世帯は上記のような赤字額を年金以外の収入や貯蓄で埋め合わせていくことになります。多くの世帯で、ある程度の備えを用意しておく必要があるでしょう。

次章では、シニア夫婦世帯の貯蓄額を確認していきます。

3. シニア夫婦世帯のリアルな貯蓄額

シニア世代の夫婦世帯は、どれくらいの貯蓄額を備えているのでしょうか。J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査」をもとに、70歳代の夫婦世帯の貯蓄額(金融資産額)を見ていきましょう。

※なお、これから確認する金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。また、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。

  • 平均額:2416万円
  • 中央値:1178万円
  • 金融資産非保有:10.9%
  • 100万円未満:4.5%
  • 100~200万円未満:5.1%
  • 200~300万円未満:3.7%
  • 300~400万円未満:3.9%
  • 400~500万円未満:2.9%
  • 500~700万円未満:6.4%
  • 700~1000万円未満:6.7%
  • 1000~1500万円未満:11.1%
  • 1500~2000万円未満:6.7%
  • 2000~3000万円未満:12.3%
  • 3000万円以上:25.2%
  • 無回答:0.6%

貯蓄額の平均は2416万円と、2000万円台を超えています。一方、より実態に近い数値とされる中央値は1178万円と平均額の半分以下の数字です。仮に毎月4万円の赤字を約1000万円の貯蓄から取り崩していくとなれば、20年で底をつくことになります。

内訳を見てみると、2000万円以上の貯蓄を用意できている世帯は4割近く存在します。一方、金融資産を持っていない世帯も1割以上存在し、貯蓄実態には格差が生じているようです。年金だけでは生活していけない状況で貯蓄も少ないと、老後の生活は厳しいものになります。早いうちから備えを用意していく必要がありそうです。

次章では、老後生活に向けた備え方を解説します。

4. 老後生活に向けてどう備えるべき?

さまざまなデータから「年金だけで生活できる人は少数派であり、毎月の赤字を貯蓄などから補っていくのが標準的な老後生活」であることがわかりました。こうした状況を踏まえ、ライフスタイルに合わせた対策を講じて、十分な備えを用意することが重要です。

老後の収入確保・貯蓄額増加に向けた対策としては、以下のようなことが考えられます。

  • 日々の家計支出を見直す
  • 定年後の数年は労働収入を得る
  • 手元にある資産を運用する

気軽に始めやすいのは、家計支出の見直しです。食費や医療費よりも「固定費」を優先して見直しましょう。携帯料金や光熱費、保険料などが該当します。より料金の安いサービスを使う、不要な契約は解除するといった方法で固定費を減らせれば、浮いたお金を毎月貯蓄に充てられます。

また、定年後も数年は働き続けて労働収入を得られれば、年金だけでは賄えない支出をフォローでき、70歳代〜80歳代での生活に向けた貯蓄もつくれます。厚生年金保険に加入して働けば、年金額自体を増やすことも可能です。

余裕資金や収入の一部に余剰がある場合は、その資金を運用して増やすことも検討しましょう。年金とは別に収入源を確保したい人は、自分で運用した資金を年金として受け取れる「iDeCo」がおすすめです。老後も運用を続けて、自分のペースで取り崩したい人は「NISA」を使うとよいでしょう。

お金を運用することで、将来的なインフレへの対処にもなります。

5. まとめ

年金だけで生活できる人は約4割で、大半の人は貯蓄を取り崩したり年金以外の収入を確保したりして、家計管理をしています。「年金だけでは生活できない」と捉えるのではなく、赤字前提で家計を管理し「どのようにして貯蓄や収入を確保するか」を早いうちから考えるようにしましょう。

老後生活のメイン収入となる年金は、ねんきん定期便などで見込受給額を確かめておくとよいです。見込受給額と実際の生活費を照らし合わせながら、老後の収支について考えてみてください。

参考資料

石上 ユウキ