「人生100年時代」と言われるなか、75歳を過ぎた後期高齢期の家計を具体的にイメージできている方は多くありません。

年金収入だけで暮らしが成り立つのか、貯蓄はどの程度備えておくべきか、医療費はどこまで膨らむのか。

こうした疑問は、公的統計を見ることで一定の目安をつかめます。

本記事では、総務省と厚生労働省が公表する最新データをもとに、75歳以上のシニア夫婦の「生活費・年金・貯蓄」の実態を整理し、あわせて後期高齢者医療制度の自己負担割合や高額療養費制度についても解説します。

1. 75歳以上シニア夫婦の生活費は月いくら?毎月2万円超の赤字が続く実態

まずは、75歳以上の無職・二人以上世帯の毎月の家計を確認します。総務省の調査によると、対象世帯の平均世帯主年齢は80.8歳、持ち家率は96.0%と非常に高い水準です。

毎月の平均収入と支出は以下の通りとなります。

1.1 毎月の収入と支出(75歳以上・無職・二人以上世帯)

  • 実収入:25万2798円(うち社会保障給付 21万1289円)
  • 実支出:28万23円

 消費支出:24万8460円
 非消費支出(税・社会保険料):3万1563円

  • 家計収支:▲2万7225円(赤字)

毎月およそ2万7000円の赤字が続いており、不足分は貯蓄の取り崩しで補っている世帯が多いと見られます。

金額は小さく見えても、赤字が長期化すれば資産の減少は無視できません。

一方、生命保険文化センターの調査では、夫婦2人の老後生活費の目安は「最低限」で月23万9000円、「ゆとりある生活」で月39万1000円とされています。

実際の収入(月約25万円)は最低限の生活費をわずかに上回る水準にとどまり、ゆとりある生活とは月約13万円の差があります。

2.  年金はいくら?貯蓄は平均2560万円!ただし「格差」に注意

後期高齢期の家計を支える中心は、公的年金と貯蓄の取り崩しです。

ここでは両者を具体的に確認します。厚生労働省のデータによると、年齢階層別の平均年金月額は以下のとおりです。

2.1 75歳以上の平均年金月額

<厚生年金+国民年金>

  • 75~79歳:15万1377円
  • 80~84歳:15万7689円
  • 85~89歳:16万5486円
  • 90歳以上:16万4027円

<国民年金>

  • 75~79歳:5万9346円
  • 80~84歳:5万8454円
  • 85~89歳:5万9066円
  • 90歳以上:5万5633円

たとえば、夫が厚生年金・妻が国民年金を受給している75~79歳の夫婦世帯であれば、単純合算で月約21万円が目安です。

ただし、年金からは所得税や住民税、介護保険料、後期高齢者医療保険料などが天引きされるため、額面がそのまま手元に残るわけではない点に注意が必要です。

次に貯蓄額を確認しましょう。総務省「家計調査」によると、世帯主が65歳以上の無職・二人以上世帯の2024年平均貯蓄現在高は2560万円となっています。

2.2 貯蓄額の内訳

  • 通貨性預貯金:801万円(31.3%)
  • 定期性預貯金:859万円(33.6%)
  • 生命保険など:394万円(15.4%)
  • 有価証券:501万円(19.6%)
  • 金融機関外:6万円(0.2%)

平均では2500万円超となっていますが、実際には一部の高額資産世帯が数値を押し上げており、この水準に届かない世帯も多い点には留意が必要です。

同資料によれば、65歳以上世帯のうち貯蓄300万円未満の世帯も14.8%を占めています。

3. 知っておくべき「医療費の壁」窓口負担と高額療養費制度の基本

75歳以降の家計で最も読みにくい支出が医療費です。「急に入院したら家計が破綻するのでは…」と不安に感じる方もいるかもしれませんが、実は日本の公的医療保険には、負担が大きくなりすぎないための仕組みが用意されています。

ただし、この仕組みには知っておかないと損をする3つの「壁」があります。

所得による負担割合の壁、1カ月あたりの自己負担の壁、そして2026年8月に迫る制度改正の壁です。

順番に見ていきましょう。

3.1 壁その①:所得による「窓口負担割合の壁」

日本では75歳の誕生日を迎えると、それまで加入していた健康保険(会社の健康保険や国民健康保険など)から自動的に「後期高齢者医療制度」に切り替わります。

この制度に加入する人は、病院の窓口で支払う金額が医療費全体の1~3割に抑えられる仕組みです。

ただし、具体的にどの負担割合になるかは前年の所得によって決まり、所得のラインを超えると負担が一気に2倍・3倍に跳ね上がる「壁」が存在します。

  • 1割負担:多くの人がこの区分に該当します
  • 2割負担:一定以上の所得がある方(※下記参照)
  • 3割負担:現役世代と同じくらいの所得がある方(「現役並み所得者」と呼ばれます)

2割負担の判定基準は少しわかりにくいので整理すると、「課税所得(収入から各種控除を差し引いた後の金額)が28万円以上」かつ「年金収入+その他の所得の合計が、単身世帯で年200万円以上、夫婦世帯で合計320万円以上」の人が対象です。

3割負担は、同じ世帯に課税所得145万円以上の方がいる場合に適用されます。

なお、2022年10月から新たに2割負担の対象となった方については、急に負担が倍になることを避けるため「1カ月の外来医療費の増加額を最大3000円までに抑える」という配慮措置が設けられていました。

しかし、この配慮措置は2025年9月末で終了しており、2025年10月以降は本来の2割負担がそのまま適用される「新しい壁」が立ち上がっています。

該当する世帯では、毎月の医療費負担が以前より増えている可能性があるため注意が必要です。

3.2 壁その②:1カ月の自己負担に「高額療養費制度の上限の壁」

入院や手術で医療費が数十万円になっても、実際の自己負担は一定額までで済みます。

これは「高額療養費制度」という仕組みで、所得区分ごとに1カ月あたりの自己負担の上限額が決められているためです。

つまり「これ以上は支払わなくてよい」という壁が、家計を守ってくれているのです。

たとえば、70歳以上で一般的な所得水準の人(住民税課税世帯・年収約370万円までの「一般」区分)の上限は、次のとおりです。

  • 通院のみの場合(個人ごと):月1万8000円まで/年間合計でも14万4000円まで
  • 入院も含む場合(世帯単位):月5万7600円まで
  • 直近12カ月間で3回以上高額療養費の対象となった場合:4回目以降は月4万4400円まで(「多数回該当」と呼ばれます)

たとえば入院で医療費が1カ月に50万円かかり、窓口で1割負担の5万円を支払った場合は上限5万7600円を下回っているためそのままですが、仮に窓口で10万円を支払った場合は、上限額を超えた約4万2400円が後日払い戻される仕組みです。

3.3 壁その③:2026年8月に迫る「制度改正の壁」

最後に注意したいのが、これから変わる制度の壁です。

高額療養費制度については、2025年8月に自己負担限度額の引き上げと所得区分の細分化を実施する予定でしたが、患者団体などから「治療継続が難しくなる」という強い反対を受け、一度凍結されました。

ただし完全な中止ではなく、2026年8月以降に段階的に施行される見通しとなっています。

今後は所得が高い世帯ほど上限額が引き上げられる可能性が高く、施行時期や新しい上限額が確定しだい、自身の該当区分を早めに確認しておくことが大切です。

これら3つの壁を理解しておけば、「医療費でいくらかかるかわからない」という漠然とした不安を、具体的な見通しに変えることができます。

4.  平均値ではなく「自分の家計」で設計しよう

75歳以上の後期高齢シニア夫婦の家計は、月およそ2万7000円の赤字が平均です。

平均貯蓄は2560万円とされるものの世帯間の格差は大きく、医療・介護の発生状況によって支出は大きく変動します。

大切なのは平均値との比較ではなく、自身の年金収入・貯蓄・健康状態を前提に、今後の家計を具体的に見積もっておくことです。

後期高齢者医療制度や高額療養費制度を正しく理解しておけば、医療費への不安も現実的に捉えられます。

ご自身の負担割合や上限額を確認したうえで、これからの人生設計に備えていきましょう。

参考資料