3. 機関投資家はどう見る? ROICとWACCから紐解く株価の行方
地政学リスクやコンセンサスの上振れ期待で買われているINPEXですが、泉田氏は「この上昇トレンドが続くかどうか」を判断する上で、プロの機関投資家が重視する指標を解説しています。
それが「ROIC(投下資本利益率)」と「WACC(加重平均資本コスト)」です。
ROIC(ロイック)とは、企業が事業に投じた資金に対して、どれだけの利益を生み出したかを示す「稼ぐ力」の指標です。
一方のWACC(ワック)は、株主や債権者がその企業に対して「最低限これくらいは稼いでほしい」と要求する「期待利回り」を指します。
「ROICとは事業でどれくらい稼ぐかっていう話なんですけども、これ投資家からすると逆に、これくらいは稼いでくれよっていう基準もあるんですよ」
INPEXの決算説明会資料によると、2025年12月期の実績ROICは会社全体で7.3%でした。泉田氏によれば、平時におけるWACCの目安は7〜8%程度。つまり、前期は投資家の期待値をギリギリ満たしていたことになります。
問題は今期です。会社の2026年12月期予想では、全体のROICは6.0%に低下すると発表されています。これは明らかにWACC(7〜8%)を下回る水準です。
泉田氏はこの状況について、投資家の心理を分かりやすく代弁します。
「株だって7、8%期待してるのに、『いや僕ら6%しかできません』って言ったらその会社の株買いますか」
理論上、ROICがWACCを下回る(期待値通りに稼げない)企業の株は売られ、企業の解散価値を示す「PBR(株価純資産倍率)」は1倍を割れるのが自然です。
実際、INPEXのPBRは長らく1倍を割れていました。しかし、足元の株価急伸により、直近のPBRは1倍を超えてきています。
稼ぐ力の予想が低いのに、なぜPBRは1倍を超えているのでしょうか。泉田氏は次のように謎を解き明かします。
「今足元この会社の予想の6%よりは上振れて、かつ投資家の要求利益よりも高いリターンが出るだろうと思っているので、PBRは1倍を超えてるっていうそんな状況なんだと思います」
つまり、株式市場は「会社が発表したROIC 6.0%という数字は保守的すぎる。実際には原油高の恩恵で7〜8%以上を稼ぎ出すはずだ」と見越して株を買っているのです。
【動画で解説】減収減益なのになぜ?INPEX株が急伸する背景
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日