2. 当期利益85%減の正体は「繰延税金資産」の取り崩し
なぜ、これほどまでに最終的な利益が減少してしまったのでしょうか。その謎を解く鍵は、決算説明会資料に記載された「将来見通しを精査した結果、繰延税金資産の取り崩し額が想定を上回った」という一文にあります。
株式投資の初心者にとって、「繰延税金資産」という言葉は聞き慣れない専門用語かもしれません。
泉田氏はこの仕組みを、税金の「前払い」と「将来の払い戻し」という概念を用いて分かりやすく解説します。
企業は、本来支払うべきだと考えている税額よりも、税務署のルールによって一時的に多く税金を納めなければならないケースがあります。この時、払いすぎた分の税金は「将来、利益が出た時に税負担が軽くなる(戻ってくる)権利」として、貸借対照表(バランスシート)に「資産」として計上することが認められています。
これが繰延税金資産の正体です。
しかし、この資産には大きな落とし穴があります。それは、「将来、しっかりと黒字を出して税金を払う状態になる」という企業側の見通しが絶対条件になっているという点です。
「全ては見通しに基づいている。株価は『期待値』って言っているけど、この繰延税金資産は見通しなんです」と泉田氏は語ります。
もし、事業環境の悪化などで将来の業績見通しが下方修正され、「今後、十分な利益が出ないかもしれない」と判断された場合、将来の税金負担を軽くする権利そのものが無意味になってしまいます。
そうなると、監査法人から資産として認めることができないと判断され、計上していた資産をゼロにする処理を行わなければなりません。
「僕は『張子の虎』って言っています。もちろん見通し通りになれば戻ってくるのでそれはそれでいいんだけども、あくまでも見通しなので」
あくまで将来の業績見通しに依存するという意味での例えですが、泉田氏が「張子の虎」と表現するように、実体のない見通しに依存した資産であるため、前提が崩れると一気に費用として計上され、損益計算書上の利益を大きく押し下げる要因となります。
【動画で解説】ヤマハ発動機、当期利益85%減の主因は?
これが、当期利益が85%も減少した最大の理由です。
ただし、ここで投資家として冷静に見極めなければならない重要なポイントがあります。それは、この利益の減少が「実際に会社の金庫から現金が失われたわけではない」ということです。
「キャッシュフロー上、お金が出たり戻ったりする話ではないので、キャッシュフロー上のインパクトはないんですよ」
つまり、利益が激減して見えるのはあくまで会計上のルールに則った処理の結果(数字のマジック)であり、会社の実態としての資金繰りが急激に悪化しているわけではないのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日