近年は、ノバレーゼのように奨学金を肩代わりする企業が少しずつ増え始めています。この制度の難しい面はコストだけでなく、社員同士の平等についての考え方でしょう。しかし、ノバレーゼではこの制度を受けていない社員から「平等ではないかもしれないけれども公平な制度だ」という声の方が多いそう。また、小高さんは説明します。

「奨学金を借りることは、本人の努力ではどうしようもできないことです。奨学金の負担のせいで仕事を頑張り切れないのであれば、会社としてできる限りサポートしたい。奨学金に限らず、いつ誰に何が起きるかわからないのが人生です。ライフステージや家庭の事情によって、働くことを諦めてほしくないという思いが根底にあります」

きっと奨学金肩代わりだけを推進する企業であれば、多くの不平不満が起こるのでしょう。しかしベビーシッター利用料の全額負担や勤続年数10年以上の社員を対象にした3泊4日程度の旅行招待など、それ以外にも各社員に応じたさまざまな制度に取り組んでいるノバレーゼ。社員全体が企業理念の理解だけでなく、各種制度のメリットを感じているからこそ成り立っているのだと感じました。

男性育休によって収入が減らないシミュレーションを告知

ノバレーゼの各種制度は、トップが決めるものもあればスタッフの声で決めるものもあります。奨学金のようにスタッフの悩みから検討されたり、全国のスタッフのディスカッションによって制度化されたりといったことも。

現在では「ドナー休暇」の導入を目指していると言います。これは、競泳の池江璃花子選手が白血病を公表したというニュースが報道されていた頃に、とある社員から「骨髄提供の際に休暇を取ることができるのか?」という問い合わせがあったことがきっかけでした。「人のために」という企業理念に基づいたこの休暇制度には、トップも人事も積極的に導入を進めているのだとか。

また、2019年3月からは男性育休へのサポートも強化するため、取得手続きや休暇中の収入など、取得者の疑問や悩み相談に応じる窓口を設置。社会保険免除や補助金などの仕組みをシミュレーションモデルで告知することで収入減の不安を解消したり、産後うつなど出産や育児についての知識を深めたりして、男性社員自身の「育児を担いたい」「育休を取ってもこの会社なら大丈夫」という意識を促しています。

「有休を取りなさい」「男性でも育休もらえます」とトップダウンで指示し、義務化を掲げるのは簡単です。しかしノバレーゼのように、社員の“休むこと”への罪悪感を拭い、主体的に休暇やワークライフバランスの重要性を考える取り組みをしてこそ本当の企業努力。

制度整備や義務化をすれば終わりではありません。その制度をいかにして社員に浸透させていくかに本気で取り組まなければ、働き方改革はいつまでも進まないことを国や企業のトップはそろそろ気付くべきではないでしょうか。

秋山 悠紀