3. 花王の主戦場とグローバル競争の現在地
強固なビジネスモデルを持つ花王ですが、機関投資家の視点から見ると課題も存在します。それは「成長の伸びしろ」をどこに求めるかという点です。
3.1 売上の半分以上を占める国内市場
花王の売上構成を見ると、主戦場がどこであるかがはっきりと分かります。会社が発表した2026年の売上予想1兆7500億円のうち、日本国内の売上は9920億円と、全体の半分以上を占めています。
この現状に対して、泉田氏は投資家としての率直な見解を述べています。
「国内の売上が半分以上占めていることを考えると、成長率は期待できるのか。日本が悪いというわけではないが、それ以外の国にしっかりビジネスの展開をしておいてほしいなという気持ちにはなるよね」
少子高齢化が進み、人口が減少していく日本市場において、日用品の消費量が劇的に増えることは考えにくいのが現実です。
そのため、今後の大きな成長を期待するには、経済成長が著しい海外市場での売上拡大が不可欠となります。
現在、花王のグローバルコンシューマーケア(GC)事業における海外売上は、アジア、米州、欧州などで展開されていますが、国内の規模(実績ベースで8585億円)と比較すると、まだ圧倒的なシェアを築けているとは言えない状況です。
3.2 P&Gやユニリーバとの競争環境
「海外のブランドを買収してビジネスを拡大していく戦略はとらないのか」という疑問に対して、泉田氏はグローバルな競争環境の厳しさを指摘しました。
花王が世界で戦う相手は、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)やユニリーバといった、巨大なグローバル企業です。
「花王はグローバル企業と戦っている。特にこの日本では戦ってるし、逆に彼らも国や地域の展開やM&Aも含めてどんどん進めているので、本来同じ土俵に立ちたいのであればそうするべき」
しかし、花王は現在、潤沢なフリーキャッシュフローの多くを株主還元(配当や自社株買い)に振り向けています。2025年12月期には、約700億円の配当支払いに加え、800億円の自社株買いを実施しました。
泉田氏はこの資金使途から、会社の方針を次のように読み解いています。
「他に海外にビジネスチャンスがあるのなら、配当はしていないはず。キャッシュを貯めてM&Aの原資にするとか、海外の拠点に出すのもお金いる。マーケティングの費用もいる。そう考えると、自社株買いや配当をしている余裕はないはず」
つまり、花王は会社の存亡を懸けてグローバル市場でハイリスクな勝負に出るのではなく、自社の強みが活かせる範囲で着実にビジネスを展開し、稼いだ利益をしっかりと株主に還元していくという「手堅い戦略」を選択していると分析できるのです。
【動画で解説】花王の最新決算に見る「稼ぐ力」
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日