日経恒例の決算発表直前の業績観測記事、日東電工の例
今週から2月中旬にかけて、上場会社の大半を占める3月決算会社のQ3累計(4~12月)の決算発表がたけなわになります。本稿では決算発表間際にメディアで公表される数字による株価への影響について、日東電工(6988)を例に挙げて読み解いてみました。
日東電工の決算発表予定は1月29日(金)です。アップル社のiPhone 6sの伸び悩みや大型液晶TVの中国での在庫調整など、同社の業績に厳しい事業環境が続いている中での業績観測記事として、1月27日付の日本経済新聞証券欄トップで同社の2016年3月期の推定数字が報じられました。
曰く、「通期営業利益は会社予想の1,200億円を下回り1,100億円に下方修正されそうだ」、また、「4~12月累計の営業利益は前年同期比+10.0%の890億円と過去最高を更新しそうだ」という内容です。
簡単に言うと、下方修正の予想を正式な決算数字公表前にメディアが報じたわけです。ここまで細かく分析できるのは、さすが日経の実力と言えましょう。
株価はどう反応したか
では、1月27日の同社株はどのように反応したのでしょうか。記事の内容は明らかにネガティブなもので、しかもアナリストコンセンサス(IFISによる)の予想数字は各利益とも会社予想を若干上回る数字だったと記憶しています。
従って日経の数字は“ネガティブサプライズ”であると市場は理解するはずです。事実、その日の株価は一時▲190円(▲2.7%)の6,890円まで売られましたが、結局、引け値は前日比+50円の7,130円で終わりました。
意外な感じを持つ方もおられると思います。筆者も安値で終わるかなと考えましたが、意外にも平穏な動きで1日を終えました。理由はいくつかあると思いますが、以下にポイントをまとめました。
- まず考えられるのは、スマホの減速、大型液晶TVの在庫増などの情報は既に広く認知されており、会社予想の達成は難しいと考える投資家が多かった。
- 会社側が予想に対して決して楽観的ではなかったこと。
- 同社の株価が年初から1月27日終値まで▲17.1%程度下落しており、これは同期間の日経225、TOPIXの▲7.0%、▲7.2%を上回る調整が行われていた。結果、織り込み済みと判断した投資家が存在していた。
売りたい人もいれば、買いたい人もいる
同社はハイテク関連銘柄として知られ、外国人投資家の持ち株比率は50%を優に超えています。10%を超える自己資本利益率(ROE)、偏光フィルムの世界的トップメーカーであることなどが、外国人投資家に人気がある要件かもしれません。
ご存知の通り外国人投資家は年初から日本株を大幅に売り越しており、益出しのために儲かっている株を売り続けていると考えられます。推定ですが同社株もその流れに飲み込まれた可能性があります。一方、株価が下がることで株価指標(バリュエーション)が割安になり、いわゆる“バリュー投資家”と言われる人々が買うタイミングを見計らっていると推定されます。
同社の収益の80%を占めるオプトロニクス事業環境は当面厳しいですが、新しく市場化された薄型の偏光フィルム(液晶TV、スマホ向け)のこれからの成長、また、工業用テープ事業、医療関連事業は今後着実に利益を伸ばしていくことを考えると、株価の底の広さ深さを感じざるを得ません。
決算発表時点で既に株価に織り込まれるのはアナリスト泣かせ
話を戻しましょう。株価は予想と事実を交互に織り込みながら、適正な水準に収れんするものです。本来ならば1月29日の決算発表の数字を織り込んだ後、株価は新たな動きを示すというのが筋だと思います。
しかし、その直前に日経新聞の業績観測記事で公にされると、決算発表後は既に織り込み済みという形となって、決算発表数字の影響は限定的になるでしょう。ネガティブ、ポジティブのインパクトは小さくなるわけです。
アナリストは決算期が終わったタイミングから決算数字が公表されるまで、数字のプレビューを投資家に伝えることが自主規制(サイレント期間)によってできないことになっています。
これは、とても公平な規制だと考えられますが、事実の公表前にメディアから数字が出てしまうとアナリストは立場がなくなります。メディアの業績観測記事は決算数字にほぼ近い内容が多いだけに、アナリスト泣かせかもしれません。
LIMO編集部