虫歯が10本以上あったり、歯がボロボロで歯茎で物を食べるまでになるケースもあるという子供の口腔(こうくう)崩壊。

そのことに関する報道を見聞きしても、「本当にそんな子っているの?」と思う方も多いと思います。筆者自身、口腔崩壊がメディアで大きく取り上げられる前に、大半の乳歯が茶色くなっている幼児と出会ったことがありました。しかし当時は、その子の身に何が起きているのか理解ができず、呆然とするしかありませんでした。

一方、筆者の3人の子供の歯科検診を通じて、歯科医療の現場では歯の状態を見ることで育児状況を把握しようと努めるようになってきたことを感じています。

今回は、筆者が出会った口腔崩壊の幼児と、年々チェックが厳しくなっている乳幼児の歯科検診の話を紹介します。

温泉施設で出会った歯がボロボロの幼児

それは2007年の秋のこと。当時はまだ筆者と夫だけの生活でしたので、その日は2人で日帰り温泉施設に行きました。入浴後に畳張りの大広間で注文したポテトを食べていた時です。どこからともなく3、4歳の男の子が現れました。

目の前のポテトを食べたそうにしていましたが、食物アレルギーなどを考えると見ず知らずの幼児に簡単に食べ物をあげられません。「はい、どうぞ」と言えず、筆者はキョロキョロと周囲を見渡しましたが、保護者らしき人は見当たりません。「お母さん、お父さんは?」と男の子に聞くと、「いない」と返されました。

勝手に食べ物をあげて問題が起きたら大変と、なんとか違う話題にもっていこうとしていた筆者と夫。好きなキャラクターの話を振ってみたところ、うれしそうにレンジャーものが好きだと教えてくれました。その男の子がニコっと笑った瞬間、筆者は驚きのあまり息をのみました。乳歯であろう歯の多くが欠け、そして茶色に変色していたのです。

「これって虫歯?」と筆者は向かい合う夫と目くばせをしましたが、彼も目の前で起きたことに衝撃を受け、顔をひきつらせて固まっていました。

その数秒後、「ここにいたのか~」と背後からおじいちゃんらしき年配の男性が声をかけてきました。優しそうな雰囲気のおじいちゃんが来ると、男の子はおじいちゃんが持っていたチョコレートやスナック菓子に気がつき、何事もなかったかのよう筆者たちの席から離れていったのです。

その後も気になった私は、その子がいる席を遠くから眺めましたが、無制限にお菓子やジュースを食べたり飲んだりしています。あれだけ虫歯が進行しているのに、痛くないのだろうかと不思議になるほどでした。それと同時に、周囲にいる大人たちがなぜあの状態を放置しているのか理解できませんでした。

歯科検診や虫歯予防の説明に時間が割かれるようになってきた

それから10年あまり、近頃は自治体で行われる乳幼児健診で歯科検診に割かれる時間が増えていると感じています。その理由について考えてみました。