年収を上げたければ、現職で結果を出すことにこだわる
ここまで業界・職種の話をしてきたので、「転職」という言葉が頭に浮かんでいた方々が多いかと思います。しかし、「年収を上げたい」という動機が強くなったときこそ、「現在の職場で結果を出すこと」に、いま一度こだわってみましょう。
あなた自身がすでに大活躍をしていたら、他社や人材会社から魅力的な提案がきているはずですが、現状ではそうした声がかかっていないとします。そのような状態で、畑の違う業界、または職種に応募したとしても、他社からすると、ほかの応募者と比べて「あなたを採用する理由」は弱くなってしまいます。そうしたとき、あなたに仕事を任せてみたいと思える期待をつくるのが「いまの仕事での結果」なのです。
とはいえ、これまでと同じことを繰り返していては結果も変わりません。ですので、自らが会社の未来を考えた時に感じる「問題」を、どのように解決したらよいのか、実行過程をどのように進めたらいいのかを踏まえて、会社に「提案」をしてみてください。
この「提案」に沿って問題が解決されたとき、あなたは、社内で誰もやらなかった、あるいはできなかったことを成し遂げた唯一の人になり、かつ、他社から見ても「ユニークな実績」として目に映るようになります。
転職が頭に浮かぶほどの方であれば、その職種での経験や知識はあるはず。提案の材料は社内に豊富にそろっているかと思います。では、その材料をどのように調理すればよいのか? 料理にも、一定の手順や型があるように、「提案」にも「型」が存在します。
問題解決型の「提案」の型
私が大学卒業後に「仕事の基本」を叩き込んでいただいた野村総合研究所は、経営コンサルティングを行うシンクタンクとして、日本最大級の人員と売上規模を誇っていました。なぜ、そのようなことができたかというと、「GISOV」という問題解決の「提案の型」が口頭伝承され、脈々と受け継がれていたからです。GISOVはアルファベットそのままに「ジー・アイ・エス・オー・ブイ」と読みますが、この「型」によって、他社より高単価でもコンサルティングを受注し、問題を解決することでリピート受注もいただく、そんな好循環サイクルが生み出されていました。
GISOVは、それぞれ次の5つの要素の頭文字をとったものになります。
G:Goal(ゴール:目的・目標)
I:Issue(イシュー:課題)
S:Solution(ソリューション:解決策)
O:Operation(オペレーション:実行計画)
V:Value(バリュー:付加価値)
そもそも、あるべき未来像(Goal)がなければ、どんなに面白そうな企画でもその会社が取り組む理由はありません。そして、原因となる課題(Issue)を捉え、そのうえで解決策が練られていないことには、頑張った割には結果が出ないという状態に陥るリスクが高く、誰も挑戦したくありません。そして、解決策(Solution)を実行するのは人であり、そして時間もお金も必要となっていきます。それらの組み合わせが現実的なのか、その実行計画(Operation)が描けていないことには、「絵に描いた餅」といわれ、結局は誰も真剣には取り組めません。
そして、この「提案」にあなたらしさが加わるのが「Value」です。一見、中身が似たような提案であったとしても、上司やお客さまが「なぜあなたに頼むのか」? そこには、あなたのキャリアやそこから生まれた価値観があるからこそなのです。
たとえば、消費者向けのスマートフォンアプリを開発する会社と、金融機関向けシステムを開発する会社では、同じシステム会社でも文化や社員の価値観が違います。顧客視点で見ると、前者に銀行向けサービス、後者に一般消費者向けアプリの開発を依頼しないだろうというのは明らかでしょう。これは企業の例ですが、個人においても、「アイデアを生み出す数が特徴的な人」と「リスク管理が得意な人」では、依頼される仕事も変わるでしょう。これらが「Value」につながります。一人ひとりの人間が違うように、この「Value」も、突き詰めていけば唯一無二の存在になります。
あなたらしい提案が「オリジナルな結果」を生み、活躍の場を広げる
このGISOVのそれぞれの要素が一気通貫し、連動することで、あなたに頼む「理由」が生まれ、提案が承認されます。そして、GISOVがそれぞれきちんと練られた提案は、オリジナルな結果へとつながっていきます。
結果を出せば、社内での昇進の可能性も見えてきます。年収アップを動機とした転職を本気で考えるのは、そのタイミングでもよいのではないでしょうか。
同じ会社内で、別の職種などにチャレンジすることもできれば、たとえば「経理がわかる営業」など、また他人にはない独自性を生み出し、結果としてあなたの年収だけでなく、活躍の場が広がっていくはずです。
■村井庸介(むらい・ようすけ)
1st Penguin株式会社 代表、事業開発プロデューサー。クラフトビールや上場人材会社、ブロックチェーンサービスの事業および組織開発に携わる。大学卒業後は、野村総合研究所で通信・製造業の新規事業開発など戦略コンサルティングに携わる。その後、グリー、日本IBM等で戦略企画や人事、メガネスーパでは企業再生(事業開発職)など、計8社での就業を経て独立に至る。プライベートでは、NPO法人の教育事業「ベストキャリア」を通じて累計約500名の大学生の就職を支援。
村井氏の著書:
『どんな会社でも結果を出せる! 最強の「仕事の型」』
村井 庸介