年度末が近づいてきました。65歳で定年退職し、年金を受給しながら働き続ける人もいるのではないでしょうか。年金と給与の両方を受け取る際は「在職老齢年金制度」に注意が必要です。
年金受給額と給与収入額によっては、在職老齢年金制度により年金が支給停止となる可能性があります。もし年金が月額15万円の場合、給与収入いくらで年金の支給停止対象になるのでしょうか。この記事では、在職老齢年金制度について、シミュレーションを交えながら解説します。
1. 在職老齢年金制度の概要
在職老齢年金は、70歳未満の人が厚生年金保険に加入した場合や、70歳以上の人が厚生年金保険の適用事業所に勤めた場合に適用される制度です。年金受給額と給与や賞与の額が所定の金額を超えた場合、年金の一部または全部が支給停止されます。
在職老齢年金に該当するかどうかを判断する際は、以下の数字を用います。
- 標準報酬月額:給与収入を32等級で区分したもの
- 標準賞与額:税引前の賞与総額から1000円未満を切り捨てたもの
- 老齢厚生年金:65歳から受け取れる年金(基本月額(加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額。また、65歳以上からの年金に限らず、65歳未満の老齢厚生年金を受給している場合も計算の対象)
年金の基本月額と「総報酬月額相当額」の合計が所定の金額(50万円※)を超えた場合に、年金が支給停止されます。
ここでいう総報酬月額相当額とは、「その月の標準報酬月額」に「その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割った額」を足したものを指します。
※2025年度(令和7年度)時点の支給停止調整額。この金額は年度ごとに再評価率等により改定される場合があります。
在職老齢年金で減額されるのは、老齢厚生年金のみです。日本の公的年金制度は2階建て構造になっており、1階が多くの人が受給する基礎年金、2階が会社員・公務員が加入する厚生年金になっています。
在職老齢年金に該当する場合でも、1階部分の老齢基礎年金については減額されません。2階部分の老齢厚生年金のみが減額されます。
実際に年金からカットされる金額(支給停止額)は、以下の計算式で求めます。
支給停止額(月額)= (基本月額+総報酬月額相当額ー基準額)÷2
※計算結果が基本月額を上回る場合は、全額支給停止となります。
逆に、実際に受け取れる年金の額を知りたい場合は、以下の通りです。
実際の支給額=基本月額ー支給停止額
会社員として働きながら年金を受給する際は、在職老齢年金について理解し、年金カットの憂き目に遭うリスクを低減しましょう。
1.1 2026年4月から基準額が「65万円」に
在職老齢年金の基準額は、以下のとおりです。
- 現行制度(2025年〜):51万円
- 2026年4月〜:65万円
在職老齢年金は、2025年度の法改正により、基準額が大幅に引き上げられました。企業の人手不足やシニア層の就労意識の高まりを受けて、年金支給停止を気にせず働けるよう改正されています。
これまで在職老齢年金制度により年金の一部が支給停止となっていた人も、4月からは年金を全額受け取れる可能性があります。この基準を前提に、老後の生活や家計を組み立てて行くことが重要です。
次章では、在職老齢年金における賞与について、さらに詳しく解説します。
2. ボーナスは在職老齢年金で考慮される?
賞与(ボーナス)も、在職老齢年金の計算では考慮されます。
前述のとおり、在職老齢年金は、年金受給額と給与・賞与の金額が基準額を上回るかどうかがポイントです。賞与は1年間のうちに受け取った金額すべてを1ヵ月単位に換算して判断します。
たとえば、1年間に受け取った賞与が150万円の場合、給与収入に月額12万5000円を加えた金額と年金の合計額で、在職老齢年金に該当するかどうか確かめます。基準を超えた時点で、年金支給停止の対象です。
月あたりの収入を抑えていても、賞与額によっては在職老齢年金の対象になる可能性も考えられます。今一度老後の収入を見直し、基準額と比較してどの位置にあるのか、確かめておく必要があるでしょう。
【賞与の上限】
標準賞与額には「1回につき150万円」という上限があります。そのため、1回に200万円の賞与をもらっても、計算上は150万円として扱われます。
次章では、年金が支給停止となる給与収入額をシミュレーションします。
3. 【年金月額15万円】年金が支給停止になる給与収入はいくら?
以下の人を例に、在職老齢年金により年金が支給停止となる給与収入を確かめてみましょう。
- 働きながら年金を受給する67歳の人
- 会社は賞与ありで、1年間に受け取った賞与額は90万円
まずは、月額15万円の年金の内訳を確かめる必要があります。現行の老齢基礎年金の満額は月額約6万9000円ですから、老齢厚生年金は約8万1000円です。よって、老齢厚生年金の金額約8万1000円と給与・賞与の合計が51万円を超えると、在職老齢年金により年金が支給停止となります。
給与・賞与の合計は「51万円-8万1000円=42万9000円」です。そのため、賞与を月額換算した金額次第で、在職老齢年金により年金が支給停止となる給与収入が決まります。今回の条件では賞与が年間90万円のため、月額換算すると7万5000円です。よって、年金が支給停止となる給与収入は以下のとおりです。
- 42万9000円-7万5000円=35万4000円
月額35万4000円を超える給与収入を受け取っている場合に、年金が支給停止となります。4月からは在職老齢年金の基準額が65万円になるため、支給停止になる給与収入のボーダーラインはさらに引き上げられます。
国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」によれば、65〜69歳の平均給与(賞与含む)は370万円です。このため、月額35万4000円の給与を受け取る人は決して多くないと考えられます。給与・年金どちらかが高額でないと、年金が支給停止となる可能性は低いでしょう。
次章では、年金の平均受給額を見てみましょう。
4. 年金受給額の平均はいくら?
最後に、年金の平均受給額を見ていきます。厚生年金(基礎年金含む)の月あたりの平均受給額は、以下のとおりです。
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
厚生労働省の調査によると厚生年金の平均受給額(老齢厚生年金+老齢基礎年金)は月額15万円台(※1)ですが、このうち在職老齢年金の判定対象となるのは、2階部分の「老齢厚生年金」のみです。
仮に厚生年金の部分が月額9万円程度だとすると、現行の基準(51万円)であれば、月々の給与と賞与(1/12)の合計が42万円を超えない限り、年金は1円もカットされません。
さらに2026年4月からは基準額が65万円に引き上げられるため、同様のケースでは月収56万円程度まで年金を全額受け取れるようになります。
65歳以上でこれほどの高収入を得られる人は決して多くないため、一般的な収入であれば在職老齢年金による支給停止を過度に恐れる必要はないでしょう。
5. まとめ
2026年4月から、在職老齢年金の基準額は51万円から65万円に引き上げられる予定です。大幅な基準額引き上げにより、対象となる人はさらに限られてくる可能性があります。
在職老齢年金制度を十分に理解したうえで、老後の働き方や年金の受け取り方を考えてみるとよいでしょう。
参考資料
- 厚生労働省「日本の公的年金は「2階建て」」
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
- 厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
石上 ユウキ