本記事の3つのポイント

  •  日本電産が車載分野で大攻勢、直近ではオムロンの車載事業の買収も決めており、20年度に車載事業で売上高1兆円に向け、次々の施策を打ち出している
  •  主力製品のトラクションモーターシステムはモーターとインバーター、ギアを一体化したもの。19年から本格量産を開始し、今後の急成長を牽引する存在として期待されている
  •  ミリ波レーダー向けに新型アンテナなど、次々と新製品投入を行っている

 

 日本電産が車載事業で大攻勢をかけている。自動車の電動化に伴う需要拡大を追い風に、中核部品であるトラクションモーターの量産を2019年から本格的に開始するとともに、新製品の投入も積極的に進めている。パワーステアリング用やブレーキ用などのモーターも電動化、ブラシレス化の波に乗って販売拡大およびシェア向上を図っている。オムロンから車載事業の買収を決め、M&Aによる成長の上積みにも着実に手を打つ。20年度の売上高1兆円の目標(厳密には7000億~1兆円のレンジを設定)達成に向けて急拡大を進め、その先のさらなる成長を目指した事業強化に余念がない。

車載売上高は10~18年度に約4.3倍

 日本電産は1990年代半ばに車載事業に進出し、モーターをはじめとする様々な機構部品、デバイスを手がけている。従来の主力であったIT機器向け精密小型モーターの減速を受けて事業ポートフォリオ転換を打ち出し、13年度から重点事業の1つに車載を据えた。10年度に約700億円だった車載事業の売上高は、18年度には約3000億円に拡大した。

 この高成長の立役者の1人が、永守重信会長の後継者として18年に社長に就任した吉本浩之氏である。このことが象徴するように、今や車載事業は日本電産の主力事業と言える。20年度の全社の売り上げ目標2兆円のうち、車載事業は自律成長分として6000億円の目標(最大。事業全体で1兆円達成の場合)が掲げられており、今後2年間で約2倍というさらなる急成長がミッションとなっている。

 車載事業の製品はトラクションモーターシステムや電動ブレーキ、電動パワーステアリングシステム(EPS)などの「走る・曲がる・止まる」ためのキーコンポーネントと、自動運転に関するセンシング部品の2つに大別できる。特に自動車電動化の進展を背景に、トラクションモーターを中心としたパワートレイン系が今後さらに拡大すると予想されている。20年度のパワートレイン系製品の売上高は、自律成長目標の47%に相当する約2800億円を見込んでいる。

トラクションモーター拡大が成長を牽引

 主力製品のトラクションモーターシステム「E-Axle」はモーターとインバーター、ギアを一体化したもので、電動自動車において駆動力を発生させる中核部品だ。19年から本格量産を開始し、今後の急成長を牽引する存在として期待されている。

 E-AxleはIT分野で培った磁気回路設計技術を駆使するとともに、小型カセットに巻線を詰め込む技術を用いて小型化、高性能化を図った。一般車両のエンジンと比べて、約半分の小型化を実現している。この性能が評価されて中国の広汽新能源汽車の新型EV向けに採用を獲得し、19年5月から出力150kW品の量産を開始した。ほかにも中国メーカー、欧米メーカー、日系メーカーから多数の引き合いを得ており、複数の大型受注が内定している。

出力70kW型のE-Axle

 市場ニーズに対応してラインアップの拡充を計画し、出力100kW品を20年10月に量産化、さらに21年には70kW品の製品化を想定している。これにより一般車両から小型車まで、世界中のほぼすべてのニーズに対応可能になる。上記の3タイプをすべて揃えているのは日本電産のみで、全分野でトップシェアを獲得するという目標を掲げている。23年ごろにはさらにシステム全体を小型化した、完全機電一体型の製品化も目指している。

 供給拡大のため、中国上海郊外の平湖に世界最大級の一貫製造工場を整備した。主要部品の内製化に加えて一貫量産体制の確立により、高品質化、低コスト化、安定供給体制を実現した。さらなる需要の拡大に向けて近隣のグループ拠点で増産対応するほか、新棟の建設も視野に入れている。また、欧州ではポーランド工場を21~22年ごろに拡張する見通しだ。

EPS用モーターなどで寡占シェア獲得へ

 EPSは自動運転の高度化に伴って、高機能化および高信頼化が進んでいる。搭載モーターについても、さらなる低コスト化や低振動・低騒音、高出力化、高信頼化が求められている。日本電産は顧客が展開するあらゆるタイプのEPSに対応したモーターを展開し、ニーズに対応している。

 また、高信頼化要求への対応として、ECUを内蔵したパワーパックをラインアップした。世界最小最軽量であり、防水かつ静音特性を備えている。さらに主要部品を2個ずつ搭載して片方が故障しても安全性を保てるなど、航空機レベルの信頼性を実現した。EPS用モーターは17年度現在で世界シェア30%を持つが、20年度には50%、25年度にはパワーパックも含めて60%の獲得を目指している。

 一方で、ブレーキ用モーターはブラシレス化のトレンドに対応した製品を投入している。EPS用と横連携して展開していく方針だ。17年度で50%だったシェアを、20年度に60%、25年度に70%に高める。さらに、モーター応用製品として電動ウォーターポンプも開発している。モーター・ポンプ・ECUを一体化して小型化したもので、19年の量産化を予定している。

ミリ波レーダー向けに新型アンテナ投入

 車載センシング用としては、独自構造により効率を高め、高性能と低コストを両立した新型アンテナを開発した。これを応用し、車載製品向けにカメラ/レーダー一体型センサー(ISF)などを開発している。

新型アンテナを用いたISF

 日本電産はミリ波や5Gといった20GHz以上の高周波領域における将来的な需要の立ち上がりを見越して、14年から新型アンテナの開発に着手した。開発したアンテナは基底部と天板に挟まれた導波路に、多数のロッドを並べた伝播遮断領域を形成した構造を持つ。従来の樹脂基板に導波路パターンを形成したパッチアンテナと比較し、損失を抑制してアンテナ効率を高め、3次元配線が可能なのでレーダーに応用した際に空間3次元検出を実現できる。金属成形で製造できるため、コスト競争力にも優れている。

 応用製品として、単眼カメラとレーダーを一体化したADAS用のISFを開発している。レーダーを自動車の前面に設置する必要がないため、フロントデザインの自由度向上に貢献できるほか、車室内に搭載することで性能を安定させられる。新型アンテナの採用によりガラスによる減衰を抑制し、180mの検知距離を実現した。他社の同種製品にも勝る性能を達成している。国内外の複数の自動車メーカーと商談を進めているが、20年秋から中国向けに量産を開始し、順次ユーザ―を増やしていく予定だ。

 また、広帯域で使用可能な新型アンテナの特徴を活かした、デュアルモードショートレンジレーダー(SRR)を開発している。1台で高解像度の超近距離(10cm)と中距離(70~90m)をカバーでき、他社の超音波ソナーでは対応しきれない様々なシーンの検知が可能である。21年から中国向けに量産を開始する予定で、25年に車載周辺センサー市場の10%以上の獲得を目標とする。

新型アンテナを用いたデュアルモードSRR

 新型アンテナは、車載だけでなく通信インフラにも採用が期待される製品だ。5G通信基地局用のアレイアンテナとして提供を目指し、通信ベンダーと共同開発を進めている。新型アンテナの特徴を活かすことで、カバー面積を従来アンテナ比で倍増でき、基地局数を削減して普及促進に貢献できる。19年度末にパイロット生産を開始し、20年度の本格量産化を計画している。25年に5G基地局用アンテナ市場において、シェア30%を目指す。

オムロン子会社買収でシナジー強化

 19年4月、オムロンの100%子会社で車載事業を手がけているオムロンオートモーティブエレクトロニクス(OAE、愛知県小牧市)を買収すると発表した。買収額は約1000億円を予定しており、取引完了は10月末ごろを想定している。

 OAEは、ボディー制御システム、モーター制御ECU、電源制御などの領域に強みを持つ。18年度の売上高は1305億円、営業利益は63億円。長野県飯田市、韓国、米国、タイ、中国、ブラジル、インド、メキシコに生産拠点を有する。日本電産グループのモーター、ポンプ、ギアなどと、OAEの技術を組み合わせることにより、新たなモジュール製品やシステム製品の創出を目指す。日本電産グループには、14年にグループ化したOAEと同業の日本電産エレシス(旧ホンダエレシス)があるが、中国市場などからの強い引き合いに対して供給が追いついておらず、OAEをグループ化することで対応力を強化する。

 両社の補完事例として、モーター制御ECUやADAS、電源制御が挙げられる。モーター制御ECUではモーターとセットにしたパワーパックでの供給を強化し、従来カバーしきれていなかった需要に対応する。ADASではOAEの製品をラインアップに加えることで、自動運転をサポートするセンサー群をより拡充する。電源制御ではOAEのDC/DCコンバーターや車載充電器と日本電産のE-Axleを組み合わせ、高性能化を図ることで事業強化を目指す。

「30年4兆円」に向けEVプラットフォーム開発へ

 日本電産は30年度に売上高10兆円という長期目標を掲げている。このうち車載事業の売上高は4兆円を目指すが、そのカギとなる商材として25年ごろの製品化を視野に入れているのが、「EVプラットフォーム」である。

 EVの基盤となる車台や駆動システムなどを一体化したもので、すでに必要な製品の半分は日本電産が持っている。残りは他社との協業を通じて実現を目指す。EVプラットフォームは30年度に1兆円の売上高を占める主力製品として位置づけ、市場投入を目指す方針だ。

 エレクトロニクス産業は18年末以降の市況悪化に見舞われて業績が減退しており、日本電産の車載事業も例外ではない。だが、日本電産は19年度のV字回復を企図しており、20年度目標の達成やその後のさらなる成長に向けた勢いに衰えはない。

 4月に開催された車載事業説明会において、車載事業本部副本部長の早舩一弥専務執行役員は、足元の市況に減速感があっても「中国のEV化の動きがなくなるわけではなく、欧州においてもEV化が進んでいる」と今後の拡大への意欲を見せた。EVプラットフォームの実現により、中国をはじめとする新興メーカーを着実に押さえていく方針だ。国内外でのさらなる生産増強、M&Aに加え、テストコースの整備など開発機能の強化を視野に入れている。

 車載事業の拡大にあたり、デンソー、ボッシュといった国内外の大手ティア1との激突は必至となる。早舩氏はこれら大手メーカーとの競合環境に関して、「(大手ティア1は)非常に優れた技術力を持っている素晴らしい会社だ。現状では当社に勝るだろう。しかし、当社はスピードとコスト力で優っており、大手自動車メーカー、ティア1出身者を多数擁している」と述べ、今後の競争への強い自信を示した。米中貿易摩擦という逆風の最中においても、日本電産の勢いが弱まる気配はない。

電子デバイス産業新聞 大阪支局 記者 中村 剛

まとめにかえて

 電子部品メーカーは現在、スマホ・車載という2大市場における売り上げバランスによって業績が大きく二分しています。スマホ依存から抜け出せず、車載分野で事業を広げられない企業の多くが、厳しい事業環境に立たされています。一方で、今回の日本電産は以前から車載分野に経営資源を集中させており、新たな成長フェーズに入ることができています。村田製作所も然りで、電子部品業界では用途の多角化が会社の命運を握っていると言っても過言ではありません。

電子デバイス産業新聞