皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。
私は、週末にらっきょうを漬け終わりました。泥らっきょうを綺麗なお漬物にするためには手間が掛かりますが、これで1年間、安価に美味しいらっきょうを楽しめます。
さて、今週の記事のポイントは以下の通りです。
- 消費税率引き上げが予定されている2019年10月までに残された時間は約4ヵ月となった。そして、引き上げに関する様々な報道がある中、「①引き上げ実施の有無」、「②実施による経済への影響」という二重の不透明感が日本株の上値を押さえるひとつの要因となっていると考える。
- 過去の消費税率引き上げは、景気に影響を与えた。その反省も踏まえ、対策が実施予定であるが、実際の影響度は引き上げ時点の家計のマインドに依存すると考える。
- 本コラムは、消費税率引き上げに関する政治的な意見を表明するものではない。
5月20日には、日本の実質国内総生産(GDP)成長率(1~3月期)が発表されました。事前予想ではマイナスが見込まれていましたが、前期比+0.5%(速報値)と2期連続のプラス成長となりました。もっとも、公的需要の増加や、輸入の大幅減少を背景とした外需(純輸出=輸出-輸入)のプラス寄与によるものであり、むしろ主要な国内民間需要の弱さを示す内容であったと思われます。
この数字が、本年10月に予定されている消費税率引き上げ実施の判断にどのような影響を与えるかについて、メディア等からご質問を受けましたが、冷静に考えると、政府の判断に大きな影響を与えるほどのインパクトのある数字ではなかったと考えています。
2019年5月10日公開の記事、『仮に、対中関税率引き上げがあった場合にみるべきポイントは?』にてご説明させていただいたように、年初来でみた場合、米国株比で日本株のパフォーマンスは劣後しており、かつ小売業という内需を代表するセクターが不調です。
これは、「①消費税率引き上げが実施されるか、否か」、そして「②実施された場合の経済への影響がどのようなものになるか」について、二重の不透明感があることがひとつの要因になっていると考えています。
消費税率引き上げが実施されるか、否かについては様々な報道がある状況ですが、現時点で私自身は、①引き上げ予定日まで残り約4か月しかないこと、②消費税率引き上げは既に予算に組み込まれていることから、引き上げは予定通り実施されると考えます(6月調査の日銀短観に注目です)。
そこで、今回のコラムでは、消費税率引き上げが与える影響について考えてみたいと思います。
経済成長を測る基本的な概念である実質GDPの計算方法は、定期的に改訂されます。現在は、「平成23年基準(2008SNA)」によっているのですが、この基準に基づく四半期データは、1994年分まで遡及計算されています。
消費税は1989年4月に導入され、1997年4月に5%に、2014年4月に8%に引き上げられました。 「平成23年基準(2008SNA)」基準でのデータが存在する実質GDPの伸び率(前期比)をみると、各引き上げ直後の四半期である1997年4~6月期は-0.6%(同1~3月期+0.3%)、2014年4~6月期は-1.8%(同1~3月期+0.9%)と景気が落ち込んでいます。
次に、GDPの構成要素である家計最終消費の伸び(前期比)をみると、1997年4~6月期は-2.4%(同1~3月期+1.6%)、2014年4~6月期は-4.8%(同1~3月期+2.1%) となっており、消費税前の駆け込み需要を考慮しても、消費税率引き上げ後の実質GDP、特に家計最終消費の落ち込みは大きくなっています。
企業の設備投資と異なり、家計が最終消費を減らすことは容易ではなく、家計最終消費の変動は通常は大きくありません。しかし、過去2回の消費税引き上げ局面では、家計最終消費の落ち込みが発生しています(図表1ご参照)。
前述の通り、2019年1~3月期の実質GDP成長率は国内民間需要の弱さを示唆しており、消費税率引き上げが景気に与える影響について、市場が懸念するのは無理のないことであると考えます。
しかしながら、安倍政権も過去2回の消費税率引き上げが景気の落ち込みを招いたという認識のもとに、教育・保育の無償化や自動車関連税軽減など、様々な影響を緩和する施策を用意しており、過去2回のような消費税率引き上げ後の落ち込みは回避できるという見方も有力です。
ただし、家計最終消費の動向は、実際に消費税率引き上げが実施された時点での消費者のマインドに依存すると思われ、影響に関する不透明感が残ることも事実です。
次回以降も、過去の引き上げ局面での株価の動きも含め、消費税率引き上げの影響についてお話ししたいと考えます。
(2019年5月21日 9:30頃執筆)
柏原 延行