2. 失望ポイント(1):グロース株に求められる「成長の加速」
一つ目の要因は、投資家が期待していたほどの「売上の伸び」が見られなくなってきたことです。
タイミーは、第2四半期(6月発表)の時点では、通期の売上高を「343億〜357億円(前期比+28%〜32%)」と予想していました。
しかし、第3四半期(9月発表)では、この予想を「341億〜343億円(前期比+27%〜27.6%)」へと下方修正しました。
利益予想は上方修正されましたが、投資家、特に成長株(グロース株)に投資する人々は「利益」以上に「売上の成長率」を重視します。
泉田氏は「投資家の期待値がズレていた」と指摘します。
「人手不足という日本の社会課題を解決する会社だから、売上はもっともっと伸びるはずだ」
そんな投資家の高い期待に対し、会社が出した数字は「あれ?思ったより伸びないかも?」と思わせるものでした。
これが失望売りの引き金の一つとなりました。
3. 失望ポイント(2):高すぎる利益率の「落とし穴」
二つ目の、そしてより深刻な要因は、皮肉なことに「儲かりすぎていること」にあります。
先ほど紹介したROE36%という数字。これは「株主から預かったお金(自己資本)を使って、年間36%の利益を生み出した」ことを意味します。
投資家からすれば、「100円預ければ136円になる魔法の箱」のようなものです。当然、「もっとこの箱にお金を入れて、もっと増やしてほしい(=再投資して成長してほしい)」と考えます。
しかし、タイミーが発表した資本政策(キャピタルアロケーション)は、投資家の予想を裏切るものでした。
キャピタルアロケーションの方針「成長投資(M&A等)を優先するが、使い切れなかった余剰資金は株主還元(自社株買い等)に回す」
一見、「株主に還元してくれるなんて良い会社だ!」と思えます。しかし、成長フェーズにある企業の投資家心理としては、以下のようにネガティブに捉えられてしまったのです。
【投資家の心理】
- 「ROE36%という高収益を叩き出せる事業なんだから、その利益をすべて再投資して、複利でどんどん会社を大きくしてほしい」
- 「なのに、『お金が余ったら返します』と言っている」
- 「ということは、社内にはもう、年利36%で回せるような成長の種(投資案件)が残っていないのでは?」
泉田氏は、今回の株価下落の背景にある投資家心理について、「『自社の中だけでは成長が完結できない』と見なされてしまったのではないか」と解説しています。
M&A(他社の買収)に力を入れるという方針も、「自社のオーガニックな成長だけでは限界があるから、外から成長を買ってくるしかないのか」という、いわば"成長の限界説"を補強する材料として受け取られてしまった可能性があると、泉田氏は指摘しています。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日