5. 年金を「増やす」選択肢の一つが繰下げ受給。注意点も
毎月の生活費の赤字を前にすると、支出を抑えることばかりに目が向きがちです。ですが、年金には「受け取る額そのものを増やす」方法もあります。その代表が、受給開始を遅らせる「繰下げ受給」です。
5.1 1ヵ月遅らせるごとに0.7%増える
公的年金は原則65歳から受け取れますが、受給の開始を66歳以降に遅らせると、1ヵ月遅らせるごとに年金額が0.7%増えます。令和4年4月からは繰下げの上限年齢が70歳から75歳に引き上げられ、昭和27年4月2日以降に生まれた方は75歳まで遅らせることができます。
75歳まで遅らせた場合、120ヵ月分で84%の増額になります。70歳までなら60ヵ月分で42%の増額です。しかも、増えた分の年金は一生涯続きます。長生きするほど、受け取る総額の面でも効いてくる仕組みです。
5.2 「手取り」で考える―繰下げの注意点
ただし、いくつか押さえておきたい点もあります。まず、繰下げの待機期間中は年金を受け取れないため、その間の生活費を預貯金や就労などで別に確保しておく必要があります。
次に、年金が増えると税金や社会保険料の負担も増えるため、手取りは額面の増加ほどには増えないことがあります。
さらに、配偶者がいる場合に加算される加給年金は繰下げによる増額の対象外である点や、働きながら受け取って在職老齢年金で支給停止される部分は増額の対象にならない点にも注意が必要です。
老齢厚生年金と老齢基礎年金は別々に繰り下げられるため、どちらをいつから受け取るかを、健康状態や家計にあわせて考えていきたいところです。また、本当に得になるのか?は非常に個人差が多いので、自分の場合に照らし合わせて慎重に検討しましょう。
まずはご自身の受給見込み額を「ねんきん定期便」やねんきんネットで確認し、預貯金や働き方の見通しとあわせて、繰下げという選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。
6. 元証券会社社員の監修者アドバイス
本記事は、65歳以降の年金生活の家計を、生活費・貯蓄・年金・受け取り方まで一次資料にもとづいて整理しています。監修者として補足したいのは、こうした「老後の姿」を早い段階で知っておくこと自体が、資産形成の大きな一歩になるという点です。私は証券会社で、現役世代の方の資産づくりのご相談を数多く受けてきました。そこで実感したのは、老後の不足を心配して身構えるよりも、早めに現状を把握し、無理のない範囲で少しずつ準備を始めた方が、結果として安心につながるということです。毎月の赤字や必要額といった数字は、あくまで平均であり、暮らし方や住まい、健康状態によって一人ひとり大きく変わります。数字に不安をあおられるのではなく、自分の場合はどうかと置き換えて考えることが大切です。現役のうちにできるのは、家計に「先取りでたまる仕組み」を一つ持っておくこと、そして収入や制度の情報を、公的機関の一次資料で自分の目で確かめる習慣をつけることです。本記事で紹介した受け取り方の工夫も、土台となる資産があってこそ選択肢が広がります。老後を過度に恐れず、今できる備えから始めていただければと思います。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 総務省統計局「家計調査報告 貯蓄・負債編 -2025年(令和7年)平均結果-(二人以上の世帯)」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「年金の繰下げ受給」
木内 菜穂子
