2026年、超高齢社会の日本では平均寿命が延びる一方、止まらない物価高や健康寿命の課題がシニアの家計を直撃しています。

J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」によると、二人以上世帯でも60歳代の33.6%、70歳代の26.5%が「年金だけ日常生活費をまかなうのは難しい」と回答。

背景には、インフレへの懸念に加え、将来の医療・介護費といった「見えない支出」への根強い不安があります。

老後の生活水準を維持できるかは、受給できる年金額と、これまでに築いた貯蓄が大きな分かれ目となるでしょう。

本記事では、いわゆる老齢年金世代である「65歳以上」の夫婦ふたり世帯の家計収支データにフォーカスしたあと、貯蓄や年金収入に関する一次データを見ていきます。

1. 【65歳以上のリタイア世帯】夫婦ふたり暮らしなら《ひと月の生活費》ってどのくらい?

高齢期の家計を考えるうえで、まず押さえておきたいのが「実際にどれくらいの収入と支出があるのか」という点です。

総務省統計局が公表した「家計調査報告〔家計収支編〕2024年平均結果」によると、65歳以上の無職夫婦世帯では、毎月の家計収支が平均で赤字となっていることが示されています。

1.1 2024年版「65歳以上の夫婦のみ無職世帯」の家計収支

65歳以上の夫婦のみ無職世帯」家計収支(2024年)1/7

65歳以上の夫婦のみ無職世帯」家計収支(2024年)

出所:総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2024年(令和6年)平均結果の概要」

毎月の実収入の内訳:25万2818円

■うち社会保障給付(主に年金):22万5182円

毎月の支出の内訳:28万6877円

■うち消費支出:25万6521円

  • 食料:7万6352円
  • 住居:1万6432円
  • 光熱・水道:2万1919円
  • 家具・家事用品:1万2265円
  • 被服及び履物:5590円
  • 保健医療:1万8383円
  • 交通・通信:2万7768円
  • 教育:0円
  • 教養娯楽:2万5377円
  • その他の消費支出:5万2433円
    • うち諸雑費:2万2125円
    • うち交際費:2万3888円
    • うち仕送り金:1040円

■うち非消費支出:3万356円

  • 直接税:1万1162円
  • 社会保険料:1万9171円

毎月の収支バランス

  • 3万4058円の赤字

65歳以上の夫婦のみで構成される無職世帯の1カ月あたりの実収入は25万2818円です。その内訳を見ると、約9割にあたる22万5182円が公的年金などの社会保障給付で占められており、年金収入が家計の中心であることがわかります。

一方、支出の合計は28万6877円となっており、収入を上回っています。
このうち、日常生活にかかる消費支出は25万6521円、税金や社会保険料といった非消費支出が3万356円です。

結果として、1カ月あたりの収支は3万4058円の赤字となっており、多くの世帯では不足分を貯蓄の取り崩しなどで補っていると考えられます。

消費支出の内訳を詳しく見ると、食費は7万6352円、光熱・水道費は2万1919円、交通・通信費は2万7768円、教養娯楽費は2万5377円など、生活に欠かせない項目が並びます。

ただし、注意したいのが住居費です。平均額は1万6432円と非常に低く抑えられていますが、これは高齢者世帯では持ち家比率が高いことが主な理由です。

賃貸住宅に住んでいる場合は、この数字をそのまま当てはめることはできず、実際の家賃分を上乗せして考える必要があります。

また、この家計調査には介護費用は含まれていません。将来的に介護が必要となった場合、家計の赤字幅がさらに拡大する可能性がある点も見落とせません。

2. 65歳以上・二人以上世帯の老後資金「貯蓄の平均はいくら?」

次に、生活費を補う重要な要素である「貯蓄」に目を向けてみましょう。

総務省の「家計調査報告(貯蓄・負債編)2024年平均結果」をもとに、世帯主が65歳以上の二人以上世帯の貯蓄状況を確認します。

二人以上世帯のうち「世帯主が65歳以上のシニア世帯」貯蓄額の平均・中央値2/7

二人以上世帯のうち「世帯主が65歳以上のシニア世帯」貯蓄額の平均・中央値

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2024年(令和6年)平均結果-(二人以上の世帯)」

2.1 貯蓄額の平均と中央値:「世帯主が65歳以上の二人以上世帯」

  • 平均値:2509万円
  • 貯蓄保有世帯の中央値:1658万円

世帯主が65歳以上の二人以上世帯における貯蓄額の平均は2509万円です。

一方で、より実態に近いとされる中央値は1658万円となっており、平均値との差は851万円に及びます。

この差は、一部の高額資産世帯が平均値を押し上げていることを示しています。
賃貸住宅で家賃負担がある場合や、医療費・介護費が増える局面では、中央値水準の貯蓄では心もとないケースも想定されます。

2.2 貯蓄額の分布:200万円未満の世帯割合は?

先ほどのグラフから、貯蓄額の階級ごとの世帯分布を詳しく見ていきます。

  • 100万円未満:8.1%
  • 100万円~200万円未満:3.6%
  • 200万円~300万円未満:3.1%
  • 300万円~400万円未満:3.6%
  • 400万円~500万円未満:3.3%
  • 500万円~600万円未満:3.3%
  • 600万円~700万円未満:2.9%
  • 700万円~800万円未満:2.8%
  • 800万円~900万円未満:3.3%
  • 900万円~1000万円未満:2.5%
  • 1000万円~1200万円未満:4.8%
  • 1200万円~1400万円未満:4.6%
  • 1400万円~1600万円未満:5.1%
  • 1600万円~1800万円未満:3.3%
  • 1800万円~2000万円未満:3.3%
  • 2000万円~2500万円未満:7.4%
  • 2500万円~3000万円未満:5.8%
  • 3000万円~4000万円未満:9.4%
  • 4000万円以上:20.0%

貯蓄額の分布を見ると、2000万円を超える貯蓄を持つ世帯は全体の42.6%を占めています。さらに、3000万円以上の世帯も29.4%存在します。

一方で、貯蓄が200万円未満の世帯は11.7%にのぼっており、同じ高齢世帯でも資産状況に大きなばらつきがあることが分かります。

老後の家計を考える際には、「平均」だけでなく、自分がどの層に近いのかを意識することが重要です。

3. 65歳以上「無職世帯」の貯蓄は《減っているのか、増えているのか》

さらに、仕事をすでにリタイアした65歳以上の無職二人以上世帯に絞り、貯蓄額の推移を見てみます。

「世帯主が65歳以上の無職二人以上世帯」貯蓄の種類別《貯蓄現在高の推移》3/7

「世帯主が65歳以上の無職二人以上世帯」貯蓄の種類別《貯蓄現在高の推移》

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2024年(令和6年)平均結果-(二人以上の世帯)」

3.1 平均貯蓄額の推移:2019年からの変化

  • 2019年:2218万円
  • 2020年:2292万円
  • 2021年:2342万円
  • 2022年:2359万円
  • 2023年:2504万円
  • 2024年:2560万円

無職世帯の平均貯蓄額は、2019年と2020年には2200万円台で推移していましたが、その後徐々に増加しています。

2023年には2500万円を超え、2024年には2560万円に達しました。

資産の内訳を見ると、定期性預貯金が859万円(33.6%)と最も多く、次いで通貨性預貯金が801万円(31.3%)、株式や投資信託などの有価証券が501万円(19.6%)となっています。

老後資産の多くが比較的安全性を重視した形で保有されていることがうかがえます。

4. 老後収入の中心、公的年金はいくら受け取れる?国民年金と厚生年金の月額を確認

老後の収入の柱となる公的年金についても確認しておきましょう。

厚生労働省年金局の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとに、平均的な受給額を整理します。

4.1 国民年金と厚生年金の平均受給月額と男女差

60歳から90歳以上の全受給権者における平均年金月額は以下の通りです。

国民年金(老齢基礎年金)

国民年金の平均受給月額と男女差4/7

国民年金の平均受給月額と男女差

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

  • 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
  • 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
  • 〈女性〉平均年金月額:5万7582円

厚生年金+国民年金

厚生年金の平均受給月額と男女差5/7

厚生年金の平均受給月額と男女差

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

  • 〈全体〉平均年金月額:15万289円
  • 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
  • 〈女性〉平均年金月額:11万1413円

国民年金(老齢基礎年金)のみを受給する場合、平均月額は全体で5万7584円です。男性は5万9965円、女性は5万5777円と、いずれも5万円台にとどまっています。

一方、厚生年金と国民年金の両方を受給する場合、平均月額は15万289円となります。男女別では、男性が16万9967円、女性が11万1413円で、その差は約6万円に及びます。

現役時代の働き方が、老後の収入に大きく影響することが分かります。

5. 65歳以上「年金以外の収入源を持つシニア」はどれほどいるのか

老後の収入といえば公的年金が中心ですが、近年は「年金以外の収入」を持つシニアも少なくありません。実際には、働き続ける人、ちょっとした副収入を得る人など、その形はさまざまです。

5.1 シニア世代の「就労」は珍しくない

まずはシニア世代の就業率を見ていきましょう。

65歳以上でも就業している人は一定数存在します。特に近年は働くシニアが増えてきていることがグラフからもわかります。定年後も再雇用や再就職という形で働くケースに加え、自営業やフリーランスとして仕事を続ける人もいます。

特に、体力的な負担が比較的少ない職種や、これまでの経験を生かせる仕事では、70歳前後まで働く人も珍しくありません。

5.2 副収入という選択肢も広がっている

フルタイムで働かなくても、老後の収入を補う手段はあります。たとえば、不動産収入や配当、年金に上乗せする形のパート収入などです。

「生活費のすべてを賄う」ほどではなくても、毎月数万円の収入があるだけで、家計の安心感は大きく変わります。

5.3 働き続ける理由は「生活費」だけではない

シニアが収入を得続ける理由は、必ずしもお金だけではありません。社会とのつながりを保ちたい、生活に張り合いを持ちたいといった動機も大きな要素です。

結果として、収入と生きがいの両方を得られる点が、就労継続を選ぶ人が多い背景といえるでしょう。

5.4 年金+αを前提に考える時代へ

物価上昇や長寿化が進む中、公的年金だけで老後の生活を完結させるのは簡単ではありません。

そのため、「年金はいくらもらえるか」だけでなく、「年金以外にどんな収入源を持てるか」を含めて考えることが、これからの老後設計では重要になっています。

6. 「年金だけじゃ日常生活費も支払えない」60歳代の33.6%、70歳代の26.5%

老後の生活の柱である公的年金ですが、現実は想像以上にシビアであると言えそうです。

J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」によると、二人以上世帯のうち60歳代の33.6%、70歳代の26.5%が「年金だけ日常生活費をまかなうのは難しい」と回答しています。

60歳代の単身世帯にいたっては、実に半数を超える50.7%が同様の不安を抱えているのが現状です。

年金にゆとりがないと考える理由7/7

年金だけでゆとりを感じられない理由

出所:J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとにLIMO編集部作成

その最大の要因は、5割以上の世帯が懸念する「物価上昇」。さらに医療や介護の自己負担増が追い打ちをかけ、年金だけで「ゆとりある暮らし」を実現できているのは、わずか1割程度に留まっています。

「平均額」はあくまで目安に過ぎません。まずは「ねんきんネット」で自身の受給見込み額を確認しましょう。

将来の不足額を具体的に把握し、貯蓄ペースや働き方を再検討することが、老後の安心感に繋がっていきます。

参考資料

吉沢 良子