この記事の読みどころ

気候変動に左右されにくい自動車業界において、国内のタイヤ販売は唯一の例外です。冬季の降雪によって、スタッドレスタイヤの販売に大きな差が生じるからです。

スタッドレスタイヤは、降雪地域においては生命に係わる必需品です。タイヤメーカーや自動車用品店にとっても重要な商品です。

冬用タイヤは見込み生産体制が取られているため、暖冬で少降雪は好ましくありませんが、雪の降り過ぎも困りものです。

早くも12月、スキーシーズンの開幕

ふと気が付くともう12月です。時間が経つのは早いものだと思いながらテレビを見ていると、「降雪不足でスキー場開きが大幅に遅れた」「観測史上最も遅い初雪を記録」等の暖冬を予感させるニュースが多いように感じます。

ただ、幸いにと言っていいのかわかりませんが、北海道では11月末に(11月としては)記録的な大雪が降り、スキー場関係者は一安心というところのようです。

気候変動に左右される業界は少なくない

スキー場に限らず、気候の変動によって大きく左右されるビジネスは、決して少なくありません。例えば、夏の暑さに左右される代表的な産業が、ビール等の飲料業界やエアコンを扱う家電業界です。

この他にも、衣料を扱うアパレル業界、テーマパーク施設を運営するレジャー業界、空運業界や陸運業界等々、あげ出したらキリがないでしょう。

国内のタイヤ販売は気候変動と密接な関係

そんな中、高級耐久消費財である自動車業界は、気候にほとんど左右されません。ところが、自動車部品の中で唯一、気候変動に大きく左右されるものがタイヤです。

実は、日本国内のタイヤ事業は、気候変動の影響を無視できない構造になっています。

冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ)と夏用タイヤ

日本国内で販売されるタイヤは、本当にザックリ分類すると「冬用タイヤ」と「夏用タイヤ」の2種類です。

冬用タイヤとは、雪道や凍結道を走行する時に用いる“スタッドレスタイヤ”のことです。一方の夏用タイヤは、このスタッドレスタイヤ以外の全てのタイヤと考えて差し支えないでしょう。

交換タイヤは高採算商品

クルマを一定期間保有されている方なら、一度はタイヤを交換した経験があるはずです。

国内で販売されている交換用タイヤは、基本的には高採算と考えられます。グレードにもよりますが、大体の場合、5本セット(スペア1本含む)で平均価格は3万円~5万円ではないでしょうか。安いものでも2万円台、高いものは10万円以上します。

この価格を考えると、タイヤメーカーのみならず、それを取り扱う自動車用品店にとっても重要商品の1つです。

冬用タイヤは生命に係わる必需品

その交換用タイヤの中でも、スタッドレスタイヤはひときわ利益率が高いと見ていいでしょう。なぜか? それは、冬の時期の運転では生命に係わる必需品だからです。

特に、降雪地域では費用がかかるから装着しないというわけにはいきません。必然的に、過度な価格競争(安売り競争)が存在しないのです。こうした状況を勘案すると、タイヤメーカーにとってのドル箱商品と推測できます。

冬用タイヤにとって暖冬・少降雪は好ましくないが、降り過ぎも大問題

さて、そのスタッドレスタイヤ販売にとって、最大の不透明要素が気候(降雪)です。

確かに毎年、一定量の需要は発生しますが、実際問題として、降雪量が多いシーズンと少ないシーズンでは、その販売量に大きな差が生じます。暖かく降雪が少ない冬は、タイヤメーカーや用品店にとって好ましくないのです。

ならば、雪が多く降れば降るほど良いかというと、実はそれほど単純ではありません。地域によって多少異なりますが、冬用タイヤが売れるのは11月下旬~2月下旬までです。

ところが、タイヤメーカーが冬用タイヤを生産して出荷するのは、8月下旬~11月中旬に集中します。つまり、冬用タイヤは“見込み生産”を行っているため、雪の降り過ぎも好ましくありません。

2014年2月の記録的な降雪時に何が起きていたのか?

今から約2年前の2014年2月、関東甲信越全域に記録的な大雪が降ったのを覚えている方も多いと思います。東京都心部も2週連続で約20センチの積雪を記録して、交通網がマヒ状態に陥りました。

あの時、多くの用品店やディーラーでは冬用タイヤへの交換が殺到し、在庫がほとんど無くなる事態となったのです。それでも、タイヤメーカーの追加生産は極少量に止まりました。

気候と降雪を予測するのもタイヤメーカーの重要な仕事

タイヤ工場は、例えて言うと、イネを作った後にムギを作るような二毛作の畑です。一度ムギを作り始めたら、もう一度イネを作るのは容易いことではありません。

タイヤ工場では12月中旬から夏用タイヤの生産が始まり、2月は最盛期の手前の状況です。そこで冬用タイヤを追加生産することは、意外に難しいのです。

気候と降雪を予測して、店頭での冬用タイヤに極端な過不足が生じないように毎年、タイヤメーカーの担当者は苦心しているはずです。今冬シーズンの降雪をどのように予測しているのか聞いてみたくなりますね。

【2015年12月9日 投信1編集部】

■参考記事■

>>失敗しない投資信託の選び方:おさえるべき3つのNGと6つのポイント

>>日経225を手数料無料で最も安く手に入れる投信―たわらノーロード低コスト構造を徹底解説

LIMO編集部